コロナ禍で延び、通報から病院収容まで平均47分12秒…救急自動車の出動状況
増加する需要に伴い遅延化する救急搬送
総務省消防庁は2024年1月、2023年版「救急・救助の現況」を発表した。それによると119番通報を受けてから対象患者を病院に搬送するまでの全国平均時間は、2022年においては47.2分であったことが明らかになった。これは2021年の42.8分と比べて4.4分延びた形となる。また通報を受けてから現場に到着する時間は10.3分となり、2021年の9.4分と比べて0.9分の延びとなる。
次に示すのは消防庁内の公式サイトから抽出可能な数字を抽出し、「救急自動車による現場到着平均時間と病院収容平均時間」、さらにそこから「現場到着後・病院収容までの平均時間」を算出してグラフにしたものだが、次第に時間が延びている実情がうかがえる。
「現場到着平均時間」とは通報を受けてから現場に着くまで、「病院収容平均時間」とは通報を受けてから現場に到着し、対象患者を救急車に収容して病院に収容するまでの時間を意味する。いずれの時間も年々おおよそ延びているのが分かる。
直近2022年では前年の2021年から継続する形で、2013年以降のほぼ横ばいの動きから変わり、大きく延びることとなった。発表資料には具体的な言及はないものの、新型コロナウイルスの流行で救急リソースが不足し、対応が遅れてしまったのが大きな原因だと考えられる。
進む搬送者の高齢化
「病院収容平均時間」などの時間が延びている原因はいくつか推測でき、「救急・救助の現況」を基に毎年消防庁が分析の上で提供している消防白書でも問題点として指摘している。そのうちの大きなものが「軽症患者、あるいは救急搬送が不必要な事例による出動が増え、救急活動がオーバーフロー気味となっている」と「高齢者の呼び出しによる出動回数の増加」。それを裏付けるデータを確認していく。
まずは傷病程度別運搬人員の状況。もっとも古い1998年から直近の2022年までの値を用いて算出して比較したもの。軽症者比率はほぼ横ばいで、中等症者(3週間未満の入院が必要な傷病の者)比率が増加、重症者以上が減少している。
ただしこれは全搬送者数に対する比率。1998年当時は約354万人だった搬送者も10年後の2008年には約468万人、そして直近の2022年では約622万人にまで増加している。その上で比率に変化があまり無いことから、軽症の搬送者数は増加していることが分かる。もっとも2020年から2021年においては、新型コロナウイルスの流行による病院忌避傾向が影響しているものと思われる、軽症の搬送者数の大きな減少が生じていた。直近の2022年では軽症の搬送者数は大きく増加している。
ケガにしても病気にしても本人自身ではその重度が判断しにくい。「軽症に思えるのなら救急車は呼ぶな」との意見に正当性は無い。しかし同時に、数字の上ではこのようなデータが出ている事実を認識しておく必要はある。
もう一つは年齢階層別区分。消防庁でも年齢階層別構成に係わる問題については近年注視しており、2008年以降からデータを公開している。
明らかに高齢者の比率が上昇しているのが確認できる。また確定値が出ている直近の国勢調査(2020年実施)の人口比も併記したが、高齢者の搬送比率が人口比よりはるかに多いのも一目瞭然。
病状の悪化やケガの発生比率を考えれば、高齢者搬送比率が人口比率より高いのは当然。しかし一方で、総務省などの統計データによる人口比率の変移と比べても、非常に高い上昇率を示しているのが気になるところだ。あるいは「高齢者」(65歳以上)区分の中でもよりリスクの高い年齢層の比率・絶対数の増加によって、必然的に搬送人員数が増えていると見た方が妥当かもしれない。
ちなみに直近年における、高齢者に区分される年齢階層をさらに細分化した搬送人員状況は次の通り。
年を取れば取るほど傷病リスクは高まるのだから当然ではあるが、単純な人口比では65~74歳の比率が一番高いが、搬送人員数比率では85歳以上がもっとも高い。ちなみに単純試算だが2022年においては、85歳以上の25.1%は救急自動車で搬送されたことになる(65~74歳は5.4%、75~84歳は11.7%)。無論、1年間で複数回搬送された事例もありうることから、実際にはもう少し低い比率になるのだろうが。
今回の「救急・救助の現況」の発表に先立つ形で、三重県松阪市における救急車の搬送有料化(一部の病院に搬送され入院に至らなかった場合、「選定療養費」として7700円。紹介状持参や公費負担医療制度の対象者は対象外)が決定され、話題となった。救急自動車による搬送の実情を見れば、その問題への理解もより深まるに違いない。
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