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先手番・藤井聡太叡王(19)相掛かり 出口若武六段(27)用意の作戦で挑む 叡王戦五番勝負第1局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 4月28日。東京都千代田区「江戸総鎮守 神田明神」 において第7期叡王戦五番勝負第1局▲藤井聡太叡王(19歳)-△出口若武六段(27歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

記者「初のタイトル挑戦ということで、そこに対するお気持ちを改めてお聞かせください」

出口「すみません、ちょっとぼーっとしてて、もう一度繰り返してもらってもいいですか(苦笑)」

 昨日の記者会見ではそんなやり取りもありました。

出口「慣れないこともある・・・タイトル戦、初めてなので。そういった面もあるんですけど、とりあえずは盤面の前に集中して、一局を指せればという気持ちです」「明日はちょうど27、ですかね。誕生日になるので。なんかそういった、叡王戦とは縁があったのかなとは思いました」

 出口六段は昨日、そう語っていました。

 先に対局室に姿を見せたのは出口六段。さわやかな色合いの和服姿での登場でした。叡王戦五番勝負がおこなわれるのは、春から夏にかけて。「それに合わせた色味というか、そういったのを意識して選びました」(出口)

 続いて現れたのは藤井叡王。17歳で初のタイトル挑戦、獲得からそろそろ2年。当時は新鮮に思われた和服姿も、19歳で五冠を達成し、将棋界の頂点に立つ過程において、観戦者にはすっかり見慣れたものになりました。

 しばらくの間、公式戦がなかった藤井叡王。ここからは叡王戦五番勝負、棋聖戦七番勝負、王位戦七番勝負と始まり、怒涛の対局日程となります。

 叡王戦第1局開始に先立つ振り駒をおこなったのは株式会社不二家・河村宣行代表取締役社長。表の「歩」が3枚、裏の「と」が2枚出て、先手は藤井叡王と決まりました。

 本局の立会人を務めるのは島朗九段(59歳)です。

島「定刻になりました。藤井叡王の先手番で開始してください。よろしくお願いいたします」

 午前9時。島九段が声をかけて、両対局者は「お願いします」と一礼。持ち時間4時間(チェスクロック方式)の対局が始まりました。

 藤井叡王はまず茶碗を手にして、お茶を一服。そして初手、飛車先の歩を伸ばしました。

 出口六段もまた、飛車の前の歩を一つ進めます。戦型は相掛かりとなりました。17手目までは昨年の叡王戦第5局▲藤井挑戦者-△豊島将之叡王戦(立場は当時)と同じ進行です。

 18手目。出口六段は25秒の消費時間で、さっと3筋の歩を取りました。これが用意の作戦だったのでしょう。解説の金井恒太六段は次のように語っています。

金井「後手としてはいろんな手があるところですね。自由な手が指せるところですけど、早かったんですよ、もう。取れるものは取れと。△3六飛と、こう。そんな(前例は)多くはないんですよ、これが。なんですけどこう、さっと飛車を横に走らせてね。『この手で叡王を取りに来ました』というね、出口六段の気迫がね、こもった一手で」

 藤井叡王は午前、春摘み苺のドルチェを選びました。

 藤井叡王は盤上だけでなく、おやつや食事に関する深い研究も随所にうかがえます。対して出口六段はミルキー缶です。

 出口六段は昨年、北村桂香女流初段と結婚。家庭では「わかむー」「けいかちゃん」と呼び合ってるそうです。

 出口六段は歩を得していく進行。対して藤井叡王は端に跳ねさせた相手の桂をどう攻めていくか。互いに相手陣近くの中段で飛車が動き合い、35手目、藤井叡王が歩を打った局面で昼食休憩に入りました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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