Yahoo!ニュース

最高のライバル関係が生み出した将棋の新境地とは?ー第2期ヒューリック杯白玲戦七番勝負は中盤へー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 西山朋佳白玲に里見香奈女流五冠が挑戦する第2期ヒューリック杯白玲戦七番勝負は、里見女流五冠が2勝1敗とリードして、17日(土)の第4局を迎える。

 今年度だけでタイトル戦で3度目の顔合わせとなる両雄。この後、4度目の顔合わせも決まっている。

 いま女流棋界で最強といえる二人、最高のライバルといえる二人の対戦は、将棋の新たな分野を開拓している。

令和の相振り飛車

 今年度(2022年4月~現在)の二人の対戦は13局にもなる。

 そのうち、11局が相振り飛車。残りの2局も相振り飛車模様の出だしだった。

 振り飛車党同士とはいえ、戦型の偏りは異常と言える。

 この七番勝負もここまで3局とも相振り飛車だ。

 相振り飛車と一口にいっても色々な指し方があるのだが、この二人の指す相振り飛車は一味違う。

 それは「令和の相振り飛車」と言える、現代的な考えを取り入れた相振り飛車なのである。

 平成までの相振り飛車は、堅い囲いを作ってガンガン攻める、そういう戦い方が主流だった。

平成の相振り飛車の一例
平成の相振り飛車の一例

 上図は一例だが、先手は美濃囲い、後手は穴熊に組んでいる。

 このように堅い囲いを駆使して戦うのが一般的だった。

 令和時代に入り、将棋AIの影響で相居飛車の戦い方が大きく変わったのはファンの方であればご存知だろう。

堅さからバランスへ

 それが令和の時代における大いなる変化であった。

 令和の相振り飛車は、その考え方を取り入れて、旧来のものとは違う戦い方をしている。

令和の相振り飛車の一例
令和の相振り飛車の一例

 互いに金無双といえる形だが、先手は金の配置が独特であり、令和の特徴である「下段飛車+二段金」型に組んでいる。

 穴熊に組む将棋は大きく減少し、いかにバランスをとって戦うか、それが相振り飛車においても重要なテーマとなっている。

なぜ新境地を開拓しているのか

  • 西山白玲:①3時間49分→②4時間→③3時間16分
  • 里見女流五冠:①4時間→②3時間56分→③4時間

(持ち時間4時間、チェスクロック方式)

 上記は今期七番勝負における、各局の消費時間の推移である。

 早指しタイプの西山白玲が時間を使っていることに注目だ。

 令和の相振り飛車はいままでのセオリーが通用せず、指し手の選択や方針を立てるのが非常に難しい。

 早見え早指しの西山白玲といえども、時間を使わずには指せないのだろう。

 実際、令和の相振り飛車といえる戦いは、まだ公式戦での登場回数が少ない。

 棋士全体における振り飛車党の割合の少なさや、振り飛車同士でも相振り飛車にならない傾向があるからだ。

 前例のない将棋を切り開くのは大変であり、難しい。

 では、なぜそんな難しいテーマにこの二人は挑んでいるのか。

 それは、このテーマをこなさない限り、最高のライバルを倒せないから。

 つまりライバル関係があるからこそ、令和の相振り飛車が磨かれて将棋の新境地が開拓されているのである。

七番勝負の行方

 改めて七番勝負の表をご覧いただこう。

第4局は17日に北海道札幌市で行われる
第4局は17日に北海道札幌市で行われる

 ここまでの3局は全て令和の相振り飛車の戦いであり、出だしは似たような展開だった。

 通常であれば主導権を握りやすいのは先手番だが、3局通じて後手を持ったほうが序盤でリードを奪っている。

 この辺り、令和の相振り飛車の難しさを表している。

 そして序盤・中盤が非常に難しいことで、終盤での指し手の精度に影響が出ているように見受けられる。

 序中盤の指し手が難しくて時間を使わざるを得ないことや、読み続けることによる疲労が影響しているかもしれない。

 難しい戦いを強いられても、この戦いを避けては最強の相手、最高のライバルを倒すことはできない。

 果たして七番勝負はどういう展開となるのか。

 第4局はシリーズの流れを左右する一番となるだろう。

 中継は公式サイトよりご覧ください。

 また、対局の行われる札幌市では大盤解説会も開かれる。筆者が解説を担当するのだが、すでに定員に達しており北海道の将棋熱を感じる。

 熱戦を期待したい。

 そして、様々な女流棋士に密着して知られざる素顔をみせてくれる、BSフジで放送中の『白玲 ~女流棋士No.1決定戦~』。

 18日(日)14時~、放送が予定されている。

 今回はどの女流棋士に密着しているのだろうか。

 リンク先では今年放送された過去の放送回を観ることも可能なので、ぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事