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なぜグアルディオラはサイドバックを重視するのか?D・アウベスへの郷愁とカンセロの新たなタスク。

森田泰史スポーツライター
カンセロとグアルディオラ監督(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

フットボールの世界において、サイドバックは軽視されがちなポジションだ。

だがその状況を逆手に取るように、サイドバックを重視して勝利を目指す指揮官がいる。マンチェスター・シティを率いる、ジョゼップ・グアルディオラ監督である。

■バルセロナのクライフイズム

グアルディオラ監督はこれまでバルセロナ、バイエルン・ミュンヘン、シティと複数のビッグクラブで指揮を執ってきた。

ボールを握るという概念を守りながら、彼は行く先々で自身のチームのプレースタイルに変化を加えていった。バルセロナでは、クライフイズム(クライフ主義)を現代版にアップデートさせるべく腐心した。リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタといった才能がひしめくジェネレーションにあたり、4年間で14個のタイトルを奪取するという偉業を成し遂げた。

バイエルン時代のグアルディオラ監督
バイエルン時代のグアルディオラ監督写真:アフロ

「カウンターのスピードに衝撃を受けた」というブンデスリーガでは、バルセロナ時代のようにはパスを繋げなかった。3冠を達成した前任者ユップ・ハインケスが作り上げたチームの主力が残っており、フランク・リベリ、アリエン・ロッベン、トーマス・ミュラー、バスティアン・シュバインシュタイガーを中心に戦う必要があり、ゴール前の華麗な崩しは鳴りを潜めた。

バイエルン時代に「センターバックがワイドに開いて、サイドバックは内に絞る。ウィングはサイドに張る。それが理想の形だ。センターバックからウィングに直接的にパスが出せるようになるし、そうすれば相手の中盤のプレスを掻い潜れる。ボールを失ったとしても、サイドバックが即座にスペースを埋められる」とグアルディオラ監督は語っている。

「相手のプレスの方法によって、我々は修正しなければいけない。サイドバックが内に絞った時、相手のウィングの選手を引っ張れる。もし相手のボランチがマークに来たら、我々のサイドハーフがフリーになる。常にそういったことを考えるべきなんだ」

バイエルンでは、フィリップ・ラームをアンカー起用した。その後、サイドバックに戻している。また、グアルディオラ政権で、ジョスア・キミッヒというタレントが出てきた。彼もまたサイドバックとボランチを高いレベルでこなす選手だ。これは偶然ではない。

競り合うD・アウベスとマルセロ
競り合うD・アウベスとマルセロ写真:なかしまだいすけ/アフロ

前述のように、グアルディオラ監督はバルセロナでクライフイズムのアップデートに挑戦した。彼自身、「エル・ドリームチーム」の一員だったわけだが、その過程で重要な役割を担ったのがダニ・アウベスだ。

D・アウベスはグアルディオラ政権で208試合出場で15得点67アシストを記録。グアルディオラ監督はバルセロナでのラストシーズン、D・アウベスについて次のように語っている。

「アウベスは代替不可能な選手だ。バルサにとって必要不可欠な選手だった。彼がチームに与えてくれたものを与えられる選手は限られている。彼の将来については私には分からない。けれどバルサで必要な選手であり続けることを願っている」

■グアルディオラが選んだカンセロ

そして、現在、シティでカンセロに新たなタスクが課せられている。

【4-3-3】の右サイドバックに入るカンセロ。先のブライトン戦では左サイドバックのオレクサンドル・ジンチェンコが下がり、ジョン・ストーンズ、ルベン・ディアスと3バックになる。その際、カンセロはロドリ・エルナンデスとダブルボランチを形成する。

あるいは、ロドリ・エルナンデスが最終ラインに入る。その時、ダブルボランチを組んでいるのはカンセロとイルカイ・ギュンドアンだ。【4-2-4】の形がつくられる。ここでカンセロに与えられるのは「5番」のポジションだ。

攻撃時には、インナーラップをする。右のハーフスペースを突いて、ウィングをサポートする。偽インサイドハーフになり、これによってシティはボール保持時に数的優位を作りやすくなる。

シティでプレーするカンセロ
シティでプレーするカンセロ写真:ロイター/アフロ

2016年夏にシティの指揮官に就任したグアルディオラ監督だが、サイドバックの発掘には力を入れてきた。

パブロ・サバレタ、バッカリ・サニャ、ガエル・クリシー、アレクサンドル・コラロフ。彼らは2016-17シーズンを最後にシティを去っている。

シティはサイドバックの選手におよそ1億9000万ユーロ(約229億円)を投じてきた。カンセロに移籍金3500万ユーロ(約40億円)、ダニーロに移籍金3000万ユーロ(約36億円)、カイル・ウォーカーに移籍金5300万ユーロ(約63億円)、バンジャマン・メンディに移籍金5750万ユーロ(約69億円)、アンヘリーニョ獲得に移籍金1200万ユーロ(約14億円)、ジンチェンコ獲得に移籍金200万ユーロ(約2億円)を費やしている。

グアルディオラにとって、サイドバックは「2番」であり、「5番」であり、「8番」であり、「11番」である。指揮官の執心ーー。その末に、ビッグタイトル獲得が待っているのかも知れない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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