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藤井聡太七段(17)2日制タイトル戦初陣で力強く踏み込みリードを奪う 王位戦七番勝負第1局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 7月1日。愛知県豊橋市において第61期王位戦七番勝負第1局▲藤井聡太七段(17歳)-△木村一基王位(47歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。

 対局は9時に開始。18時になった時点で手番の側の木村王位が規定により次の53手目を封じ、1日目が終了しました。

 明日2日目朝に封じ手が開封され、9時に再開されます。

藤井七段、堂々たる戦いぶり

 藤井七段先手で、戦型は現代将棋の最前線ともいえる角換わり腰掛銀となりました。

 38手目。後手番の木村王位は4筋の歩を突きました。最近ではやや珍しい布陣です。木村王位がこの大一番に採用したということは、相当な準備があろうことを思わせます。

 対して藤井七段は9分考え、元気よく仕掛けていきます。前例があるとはいえ、初の2日制タイトル戦でまったく臆する姿勢は見られません。

 以下は藤井七段の攻め、木村王位の受けという構図で推移していきます。

 木村王位は玉を中央へと寄せます。このあたりに木村王位の準備があったものと思われます。

 対して藤井七段は自然に攻めていきます。そしていつしか次第にペースをつかんでいったように見えました。

 51手目。藤井七段は7筋の歩を取りながら、桂取りとします。

 ABEMAの中継では中村修九段が解説を担当していました。木村王位は7分ほど考えて、力強い応手を放ちました。

中村「うわなんかすごい手出ましたよ!」

 木村王位はカウンターで端に自陣角を打ちました。

中村「ちょっといやな予感したよ、これ」

 角換わりはあっという間に終盤となる戦型です。そこで藤井七段が踏み込めば、1日目午後にして、もう玉が詰む、詰まないまでも見据えた終盤戦となります。

 持ち時間の長い2日制の対局を楽しみにしていたという藤井七段。勝負どころで惜しみなく時間を使うスタイルの藤井七段は、ここで腰を落として考え始めます。

 王位戦では1日目18時の時点で手番の側が「封じ手」をおこないます。もし藤井七段が2時間半ほど考えて次の手を指さなければ、封じ手となります。

 藤井七段は1時間36分を使って▲7三歩成。歩で桂を取って決着をつけにいく。成算があればこそ、藤井七段は踏み込んだのでしょう。

 木村王位の側からは、先ほど打った角で△2九角成と飛車を取る手が見えています。そうなればもう終盤戦で、調べてみると藤井七段の方に分がある寄せ合いとなりそうです。

 しかし飛車を取れずにじっと△7三同金とするのであれば、木村王位が打った角は何だったのか、ということになります。

 形勢はどうやら、藤井七段が優位に立ちました。

 18時。立会人の谷川浩司九段が声をかけ、木村王位が54手目を封じることになりました。

 考えること59分。

「封じます」

 木村王位は次の手を封じる意思を示します。記録係の中西悠真三段が記入した図面用紙や封筒などを受け取り、木村王位は別室に行きます。

 封じ手の候補手の本命△2九角成。もしそうなれば一気に終盤戦で、あるいは早めの終局も考えられるかもしれません。

 少しして木村王位が対局場に戻ってきます。そして封筒を2通、藤井七段に渡します。

 藤井七段はこの封筒に赤ペンで封印のサインをします。この時、藤井七段はどのように書いていいのか、ちょっと迷った仕草を見せました。そして封筒を脇息(ひじかけ)の上に乗せてサインをしました。

中村「うーん、できれば脇息の上で書いてほしくなかったですけどね(笑)。手で持って、普通にささっと書けるもんだと思うんですけど」

 確かにあまり見慣れない光景ではありました。マナー違反かどうかは、筆者にはわかりません。ともかくも、2日制タイトル戦に慣れていない、新人らしさが表れた場面でした。過去には行方尚史八段(現九段)も王位戦で初めてタイトル挑戦した際、同様にしたそうです。(参考ページ

 対局が密室でおこなわれていた昔だったら、わりと「どっちでもええやないか」ですまされたようなことも、現在はネット中継によってつぶさに見守られています。このあたり、現代の対局者や関係者は大変そうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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