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2017年は生活保護家庭の子どもが大学進学できる社会にしよう!

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長
(写真:アフロ)

2017年は生活保護家庭の子どもが大学進学できる社会にしよう!

フローレンスの駒崎さんが年始にこんな記事を書いていました。

2017年にはぶっ壊したい、こどもの貧困を生みだす日本の5つの仕組みとは(駒崎弘樹) - Y!ニュース

この記事がとてもバズっていて、このなかで最初にでてくる「生活保護家庭の子どもは大学に行っちゃダメ」のところについて、僕のところにも生活保護家庭の大学進学についての取材や問い合わせがきています。

ですので、同じYahoo!ニュース個人ですし、もう少し深堀して以下解説します。

生活保護家庭の子どもが大学進学を認められていない理由

ずばり、「稼働能力の活用」というのが、大学進学が認められない理由です。

生活保護制度というのは、病気や高齢、失業などによって生活に困った時に使える「最後のセーフティネット」です。収入や資産が一定の基準(国が定める生活保護基準)を下回ったり、頼れる家族や友人がいないなどの場合に、誰でも利用することができる制度です。

そして、この生活保護利用中は、働ける年齢や体調の人は、まず就職したり就職活動をがんばることが求められます。

もちろん、不況で仕事が見つからない、とか、仕事は決まったがパートやアルバイトで収入が低く生活保護から脱却できない、などの状況はあります。(収入がある場合も生活保護基準に満たない分の支給を受けることができます)

しかし、基本的には、年齢や体調的に可能な人は仕事をして(探して)、制度を必要としなくなる状況になろう、というのが生活保護制度の大きな目的の一つで、そしてそれを「稼働能力の活用」という言い方をします。

簡単に言うと、働ける状況の人は働くことを求められる、という意味です。

そして、「稼働能力の活用」で大学進学が認められない、というのは、大学に行ってるヒマがあれば働け、と制度的にはなっている、ということです。

「世帯分離」によって進学

とはいえ、実際には生活保護世帯の子どもで大学に進学している人もいます。

制度上は「世帯分離」という形をとって、進学を可能にしています。

生活保護制度は「世帯単位の原則」というものがあり、一緒に住んでいる人は同一世帯と認定され、世帯単位で生活保護制度が適用されます。

「世帯分離」とは、大学に進学する子どもだけを、実際には同じ住居に住んでいるのだけれども、手続き上、その子どものみを生活保護から外す、ということを意味します。

なぜ、そうするかというと、「世帯分離」された子どもは生活保護ではなくなるので「稼働能力の活用」を求められなくなるので、進学が可能になる、という考え方です。

例えば、母と娘の2人世帯で生活保護を利用していたとして、2人分の生活保護費が支給されていたのが、子どもが大学進学すると「世帯分離」になり、母のみの生活保護になり、母の単身世帯としての生活保護になる、ということです。

「世帯分離」して進学
「世帯分離」して進学

そうすると、何が起こるか。

子どもは貸与の奨学金などで進学が可能になります。

しかし、同じ住居に生活しているにもかかわらず、生活保護で支給される金額が減少し(2人世帯から単身世帯へ)、生活が苦しくなります。

なので、大学進学した子どもは、勉強をしながらアルバイトをして自分の生活費分を稼いでいくことが絶対条件になります。(しかも大学の授業料などは奨学金が必須になります)

削減された生活保護費と就学にかかる費用を働いて稼ぎながら大学に行く。それはとても大変なことです。生活保護家庭の子どもたちの進学率は一般家庭と比べてもとても低くなっているのです。

生活保護家庭の子どもの大学進学率19.2%(一般世帯は53.9%)

政府がすすめる「子どもの貧困対策」のガイドラインとなる子供の貧困対策大綱では、この大学進学率を指標とすると書かれています。

一般家庭の進学率は、大学等(大学・短大)が53.9%、専修学校等が17%で進学率全体は70.9%

それに対して、生活保護家庭の子どもは、大学等(大学・短大)が19.2%、専修学校等が13.7%、進学率全体が32.9%と、大きな差になっています。

大学等への進学率(一般家庭と生活保護家庭の比較)
大学等への進学率(一般家庭と生活保護家庭の比較)

大学卒業と高校卒業で生涯年収が変わってしまうのは広く知られていること。

これでは「貧困の連鎖」の解消にはなりません。そして、一般家庭の7割の子どもが大学や専修学校に進学している現状を考えると、高校卒業後に進学する、という選択肢も、この2017年の日本では「贅沢」なものでは決してないと思います。

かつては高校進学も認められなかった

冒頭に「稼働能力の活用」という話をしました。実は、つい最近まで、生活保護世帯の子どもは、高校進学にも大きなハードルがありました。

義務教育中は、この「稼働能力の活用」は求められません。(教育を受ける権利が憲法26条にあるため)

1970年までは、高校進学に関しても、「世帯分離」の扱いで、原則的には認めていませんでした

それが、1970年からは「世帯分離」をせずに進学することが認められ、2005年からはじめて生活保護制度の枠の中から高校の授業料を支給する、ということがおこなわれるようになりました。

これは、一般世帯の高校進学率が高くなり高校に行くのが当たり前になったこと、そして、高校進学が中学卒業後に就職するよりも将来的な自立につながりやすいこと、などが理由ですが、2005年まではダメだった、ってあまりにも時代遅れすぎると思います。

生活保護家庭の子どもが負担なく高校進学できるようになってから、まだ10年ちょっとしか経っていない、ということでもあります。

このことはあまり知られていないのですが、制度が格差や貧困の連鎖をうむ原因になっていた、といっても言い過ぎではないと思います。

給付型奨学金ができる今だからこそ

昨年より、政府が給付型奨学金を創設する、という話が出ています。

まだ、予算規模など不透明な点が多いのですが、貧困家庭(生活保護家庭もふくまれる)の子どもの進学へのハードルを下げる施策は大歓迎です。

しかし、そういった制度をつくるならなおのこと、この「生活保護家庭の子どもの大学進学」に関しては、現状の運用を変えなければならないと思います。

では、一体どうすればいいのか。

世帯分離でなく「世帯内就学」へ

これは、あくまで個人的にこうしたらいいと思う案ですが、ずばり、世帯分離でなく「世帯内就学」へ制度運用を変えられないか、と思います。

もちろん、そもそも、給付型奨学金の給付額が大きくて「世帯分離」しても奨学金で学費や生活費がまかなえる、とか、大学の授業料が無料でお金がかからない、とかになったら状況は全く変わるわけではあるのですが。

とりあえず、ガラガラポンでなく現状の延長線上で考えた時の方法としては「世帯内就学」ではないかなと思います。

「世帯内就学」を認めると、さきほどの母と娘の2人世帯を考えると、「世帯分離」せずに2人世帯のままとなり、支給される生活保護費は変わりません。なので、子どもは勉強に集中することができます

一方で、アルバイトや奨学金で家計を助けることが必要なくなる分、そのお金がきちんと就学費用に充てられなければ意味がなくなってしまうわけですから(せっかくの奨学金やアルバイト代が生活費に消えては困るわけです)、奨学金やアルバイト代の認定除外や自立更生計画の策定など、運用上のルールを定めることが必要になります。

生活保護家庭の「世帯内就学」の場合
生活保護家庭の「世帯内就学」の場合

これらの技術的な課題や問題はありますが、1970年以降の高校進学が「世帯内」でおこなえるようになったのと同様に、この運用の変更は法律の改正を必要としません。

厚生労働省の発出する「通知」で、生活保護家庭の大学進学が制度内で可能になるのです。

もちろん、大学等(大学・短大)だけでなく、専修学校等に進学したい子どももいるでしょう。理容師になりたい、とか、介護の資格をとりたい、とか。

一般家庭の専修学校等もふくめた進学率は先述した通り70.9%なので、せめて生活保護家庭の子どもの進学率が現状の32.9%から70%台に持っていけるように、政策目標とするべきだと思います。

僕もあえて言いたい。人が作ったものは人が変えることができる、と。

生活保護基準部会資料によれば、平成26年時点で、生活保護家庭の子どもで、16歳の子どもは全国で21448人、17歳の子どもは21379人となっています。(平成26年度被保護者調査(年次調査(平成26年7月末日調査))特別集計)

この統計を見る限り、対象となる子どもは、1学年で約2万人。

現状、6000人の子ども(大学等への進学は約4000人)が制度の不備に苦しみながら進学し、14000人の子どもがもしかしたら進学したかったかもしれないのに、あきらめて高卒で働く。

これは、あきらかに時代遅れの制度の問題であり、生まれた家庭によって進学率に差が出てしまうという格差や貧困の連鎖の大きな要因になっています。

もちろん、「一般世帯でも進学しない子どももいる」「大学はみんなが行くものではない」「働いて自立した後に自費で行けばいい」「大卒じゃない労働者もたくさんいる」「努力すればなんとかなる」などなど、さまざまな意見があることでしょう。

しかし、僕は、この「生活保護家庭の大学進学を可能にする」ということは、日本の子どもの貧困対策のもっとも大きな第一歩になると思います。そして、生活保護にはいたらないが低所得の家庭への支援もふくめて拡げていけたら、と思うのです。

そして、時代遅れのこの制度運用も通知一本で変えられる。であれば、2017年、そろそろ変えませんか?

2017年、一緒に声をあげていきましょう!

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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