コロナ禍での3度目の年末年始 支援現場の今
■コロナ禍の貧困、そして、物価高
コロナ禍は、貧困問題を深刻化させています。
長引くコロナ禍では、経済活動等の制限もあり、不安定な働き方をしていた人などに、失業や収入減といった形で、特に大きな影響が出ていると言われています。
さらに、今秋以降の急速な物価高によるダメージは深刻です。
食料品や生活用品などの値上げは、ダイレクトに家計を直撃します。いま、生活の苦しさを感じている人は決して少なくないことでしょう。
もちろん、コロナ禍は、貧困だけではなく、自殺者数の増加、DVや虐待件数の急増、不登校やひきこもりの人の増加など、さまざまなデータでその影響の大きさが語られています。
コロナ禍は、まさに、あらゆる「生きづらさ」を可視化した、むしろ、潜在化していたものを顕在化した、と言えるかもしれません。
■600人以上が食料品配布の活動に訪れる
ここでは、私が理事長をつとめる生活困窮者支援をおこなっている〈もやい〉の現場の状況を報告させてください。
〈もやい〉では、コロナ禍でも、感染症対策を徹底しながら、通常の相談活動にプラスして、事業を拡大して支援を実施してきました。
そのなかでも一番大きな規模の活動となっているのが、2020年4月より、毎週土曜日に新宿都庁下にて開催している食料品配布と相談会の活動です。
下の図を見ていただくと、食料品配布に来られる人の人数が、2020年4月には106人だったのが、2021年に入り200人をこえると、2022年には500人ごえになり、600人以上の人数にまで現在進行形で拡大していることがわかります。
これまでで過去最多の人数となったのは2022年11月26日で644人。これは、物価高の影響によるものが大きいと思いますが、この年末年始には700人近くにまで達してしまうのではないかと恐怖を覚えるほどの人数です。
■「年越し派遣村」をこえる規模に拡大している
いわゆる「リーマンショック」後の2008年~2009年の年末年始に東京の日比谷公園でおこなわれた「年越し派遣村」に集まった人々は500人であったと言われています。
この毎週600人という数字は、まさに毎週「年越し派遣村」をこえる規模で支援活動がおこなわれている、ということになります。
前代未聞の状況と言えるでしょう。
■約5万人に食料品をとどけてきた
また、集計すると、この都庁下での食料品配布では、このコロナ禍でこれまで約5万人に、食料品のセットをお配りしていることになります。
こちらも、コロナ禍前には想像もしなかった活動の規模となっています。
■都庁下に食料品を求めに来られる方の状況
一般的に路上での食料品の配布等の活動は、ホームレス支援活動の延長線上にある取り組みと理解されることも多く、子ども食堂でおこなう食料品配布に子育て世帯が多く集うのと同様に、来られる方の傾向が一定程度あります。
しかし、コロナ禍での活動では、実際には、「ホームレス状態」にとどまらない、さまざまな状況が見てとれます。
簡単な事例として下記を紹介します。(プライバシーへの配慮から一部改変したり、複数の事例を組み合わせています)
・住まいなし、要保護状態
Aさん(30代男性):地方の工場で派遣で働くも契約更新されず失職。寮を出てネットカフェ生活へ。父母は離婚し疎遠で連絡先も不明。所持金数百円。うつ病もあるが長らく受診していない。
・住まいはあるが、要保護状態
Bさん(40代男性):飲食店で契約社員として働くもコロナで失業。家賃滞納ないが更新料用意できず、貯金はほぼなし。特例貸付利用中。
・住まいあり、生活ギリギリ 生活防衛のために利用
Cさん(30代女性・シングルマザー・未就学児1人):パートをかけ持ち。公営住宅で生活。パート先の1つがコロナの影響でシフトが減り収入減。
・住まいあり、生活再建したが……不安解消や生活防衛のために利用
Dさん(20代女性):コロナで失業し特例貸付利用後に再就職。再就職先は派遣、手取りで月に14万円ほど。いつ失職するか不安。
これまで路上での食料品配布等の活動に参加する人の多くは、住まいがない、要保護状態(生活保護が利用できるくらいの困窮度合いの状態)の人が多かった、という傾向がありました。
しかし、こういった事例からもわかるように、コロナ禍では、生活保護基準以上の収入等の状況にあり、一般的には「働いていて自立している」とされる人が、「生活を守る」ために食料品を求めたり、「生活の不安」を解消するために、数食分の食料品を求めて支援団体を訪ねています。
路上でおこなう食料品配布に女性や子ども連れの方も並ぶ。そんな状況は私自身も10年以上支援の現場に身を置いていますが、はじめての光景です。
訪れる方の状況というものが、コロナ禍では大きく変容しているのです。
■生活に「不安」を抱える人が増加している
そして、これらの状況から浮かび上がってくるのは、コロナ禍が顕在化した、「生活困難層」「生活不安層」の存在です。
簡単に下記のように分類をしました。
- 要保護の層:生活保護の利用ができる程度の困窮状態の人
- 生活困難層:要保護状態に近く、要保護と労働市場を行き来している人
- 生活不安層:これまで「自立している」と見られていたワーキングプアなどの状況で、恒常的な低所得で生活の不安を抱える人
これまで、支援の現場に訪れるのは「要保護の層」のように、すぐさま生活保護などの支援が利用できるほどの困窮度合いの高い状況の方が中心でした。
しかし、コロナ禍では、生活保護と労働市場を行き来する「生活困難層」と、ワーキングプアなど慢性的な低所得状態にある「生活不安層」の存在が可視化されたと言えます。
しかも、そういった状況の方は、女性や若年層などに拡大していて、不安定就労、低賃金、DV・虐待、家族関係の厳しさ等…構造的な「生きづらさ」を抱えてしまっています。
もっとも、「生活困難層」と「生活不安層」については、コロナ禍で新たに発生した、というよりも、コロナ禍前からすでに一定の規模で存在していたと考えられます。
■働いていても生活が苦しい
例えば、最低賃金でフルタイムで働いても東京では、手取りは14~15万円程度です。
都内の単身の生活保護基準が12~13万円(生活扶助費+住宅扶助費)なので、生活保護基準をこえてはいるが、決して高い所得水準とは言えません。
ギリギリのところで踏ん張っている人が多いことが想像できます。
働いていても生活が苦しい。そして、収入があがる未来を描けない。そんな状況の人がたくさんいるのではないか、コロナ禍で支援に携わりながらそんなことを感じています。
■コロナ禍の貧困から見えてきた、構造的な「生きづらさ」
コロナ禍で「生活困難層」と「生活不安層」という、これまであまり考えられてこなかった慢性的な低所得者の存在が見えてきました。
そして、構造的な「生きづらさ」を抱えている、と書きました。
この「生きづらさ」は、急性的なものというよりは、もっと静かに、じわじわと、心や身体、生活の端々にそっと浸み込んでいくような、そういった類の「生きづらさ」なのではないか、と想像します。
絶望や悲愴というような激しい感情というよりは、慢性的な諦めや自信のなさ、自身や他者への無関心、などといった、ゆっくりと、そして無機質な性質のもののようにも思います。
私は、貧困問題というフィールドにいますが、この「生きづらさ」には、分野や専門性をこえて、横断的な支援や取り組みが必要なのではないか、と強く思っています。
■年末年始は生活に困ってしまう方が増える
年末年始は、仕事を失ったり、収入が減少してしまう人が多くうまれてしまうと言われています。
また、公的機関の窓口も「閉庁」といってお休みに入ってしまうことも多く、支援を必要とする人が増加します。
〈もやい〉でも年末年始に支援活動をおこないます。
〈もやい〉以外にも全国各地で、さまざまな支援活動がおこなわれます。
ご支援、ご協力いただければと思います。
■貧困の問題には「共助」でなく「公助」の拡大が必要
とはいえ、民間のNPO等の活動には限界があります。
端的に言うと、公的なセーフティネットを拡充させていくことが必要です。特に急速な物価高への早急な「手当」は急務です。まだまだ「公助」が足りない、と言わざるを得ません。
「公助」の拡大なしに、コロナ禍での貧困は解決には向かいません。私たちの社会の「在り方」が問われている、と言えるでしょう。
ここまでご紹介したのは、あくまで東京の一つの支援現場でのデータであり状況でしかありません。
しかし、こういった支援現場の変化、変容を見ていくことが、長引くコロナ禍、そして、コロナ禍後のセーフティネットを考える一つのきっかけになれば幸いです。
以上