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ライヴ配信における新しい価値の提示――でんぱ組.inc有料無観客ライヴ配信レポート

宗像明将音楽評論家
でんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)

2020年5月16日、でんぱ組.incによる有料無観客ライヴ配信「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」が行われた。それは単なるオンライン・ライヴの枠を超えて、独立した映像作品として成立しうるものだった。

「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)

でんぱ組.incは、2020年4月にニュー・アルバム「愛が地球救うんさ!だってでんぱ組.incはファミリーでしょ」をリリース。2020年5月には全国6か所で「THE FAMILY TOUR 2020」を開催する予定だったが、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の感染拡大により、全公演が中止になってしまった。そのため今回の配信は、「THE FAMILY TOUR 2020」のセットリストをそのままオンラインで披露する試みだった。

でんぱ組.incのメンバー6人は、それぞれスタジオの別室におり、そこから映像を配信。画面は6分割され、歌割などによって映像がスイッチングされていった。驚くほど画質も良い。でんぱ組.incの大きな魅力であるダンス・パフォーマンスは封じられた状態で、しかも上半身しか映らないのは、メンバーにとって試練であっただろうが、表情の豊かさでカヴァーしていた。

「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)

さらに、VJのようにリアルタイムで画面上にエフェクトが施されていった。アーティストの顔面上での加工をここまで躊躇しない事例も珍しい。今回の映像演出は、数々のライヴで名を馳せる空間演出ユニット・huez(ヒューズ)によるものだった。

「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」での鹿目凛(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」での鹿目凛(筆者によるスクリーンショット)

特に衝撃的だったのは「もしもし、インターネット」だ。17歳のマルルーンがMVを制作した楽曲だが、そのMVのヴェイパーウェイヴな世界観をhuezは大胆に踏襲してみせ、画面を6分割して見せるという概念をあっさりと捨ててしまった。

「もしもし、インターネット」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「もしもし、インターネット」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「もしもし、インターネット」での根本凪(筆者によるスクリーンショット)
「もしもし、インターネット」での根本凪(筆者によるスクリーンショット)
「もしもし、インターネット」での藤咲彩音(筆者によるスクリーンショット)
「もしもし、インターネット」での藤咲彩音(筆者によるスクリーンショット)

さらに「ギラメタスでんぱスターズ」では、気が狂ったかのように画面を分割してみせる。

「ギラメタスでんぱスターズ」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「ギラメタスでんぱスターズ」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)

アンコールは「なんと!世界公認 引きこもり!」。アルバムのリリース後に発表された楽曲で、企画スタートから8日で、インターネット上でMVまで完成させた楽曲だ。新型コロナウイルスの影響を受けている現状を踏まえながらも、彼女たちはポジティヴなメッセージをファンに届ける。それと同時に、ファンのツイートが一斉に画面に表示されていく演出は圧巻だった。

「なんと!世界公認 引きこもり!」とともにファンのツイートが表示された(筆者によるスクリーンショット)
「なんと!世界公認 引きこもり!」とともにファンのツイートが表示された(筆者によるスクリーンショット)

ハッシュタグ「#でんぱ組オンラインライブ」は、配信の開始直後からTwitterでトレンド入り。メンバーがMCでツイートを読む光景もあった。

有料無観客ライヴ配信は数多く行われているが、最近はその難しさも感じている。やはり「生のライヴが懐かしい」と感じてしまうからだ。複数台のカメラを用意して、従来のようなライヴの光景を体験させることは、そろそろ限界に来ているのではないかとも感じる。そんな状況下で、でんぱ組.incとhuezは、過剰なほどの映像表現によって、通常のライヴの再現にとどまらないスタイルを見せた。それは、ライヴ配信における新しい価値を提示したということなのだ。

「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)
「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」でのでんぱ組.inc(筆者によるスクリーンショット)

今回はZAIKOを通じて、2,000円で配信されたが、その価格でこのクオリティというのは、有料無観客ライヴ配信のハードルを著しく上げたと感じるほど。緊急事態宣言は解除に向かっているが、ライヴの再開についてはまだまだ不透明な状況が続く。そんな状況下でも文化が発展し続けている姿を体現してみせたのが「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」だった。

「THE FAMILY TOUR 2020 ONLINE」

https://dearstage.zaiko.io/_item/326149

音楽評論家

1972年、神奈川県生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。著書に『大森靖子ライブクロニクル』(2024年)、『72年間のTOKYO、鈴木慶一の記憶』(2023年)、『渡辺淳之介 アイドルをクリエイトする』(2016年)。稲葉浩志氏の著書『シアン』(2023年)では、15時間の取材による10万字インタビューを担当。

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