『ポケGO』のナイアンティックと群馬県が連携開催! 『ARと3Dスキャン体験会』が示す学びの未来
群馬県下の小中学生15名が参加
コロナ禍によるテレワークの推進、プログラミング教育の開始、地方創生と雇用創出など、さまざまな要素が混じり合い、社会をゆさぶっている。こうした中、地方自治体が音頭をとってデジタルクリエイティブ人材の育成を進める例が見られる。群馬県が2022年3月、商業施設のアクエル前橋に開設した「tsukurun-GUNMA CREATIVE FACTORY-」(以下、tsukurun)はその一つだ。本施設で2023年4月23日に実施された「3Dスキャン&AR体験会」の模様を取材した。
本イベントは県のeスポーツ・クリエイティブ推進課が、『ポケモンGO』などで知られるナイアンティックと、ARサービス事業を営むpalanとの連携事業で実施したものだ。当日は県下の小中学生15名が参加し、自宅から持ち寄った人形や縫いぐるみなどをスマートフォンで3Dスキャンし、クラウドサーバにアップロード。その後、シートに印刷されたQRコードを読み込んで、現実世界にAR(代替現実)として表示させるというワークショップを体験した。付き添いに来た保護者と共に、最先端のデジタル創作活動を楽しんでいた。
ScaniverseとpalanARを活用
講師を担当したのはナイアンティックでAR製品のプロモーションとパートナーシップを担当する白石淳二氏と、palan代表取締役でAR事業の旗振り役を担う齋藤瑛史氏だ。
子どもたちはまず、白石氏の解説に従ってスマートフォンを片手に、持参したアイテムの3Dスキャンを行った。使用するアプリはナイアンティックが開発・運営する3Dスキャンツール「Scaniverse」だ。本アプリは無料で使用でき、LiDARスキャナが搭載されていない端末でも3Dスキャンができる。白石氏が参加者の一人を3Dスキャンし、3Dキャラクターとして表示させると、会場から思わず歓声が上がった。
続いて齋藤氏はpalanが運営するWebAR作成サービス「palanAR」を利用し、3DキャラクターをARで表現する手法について解説した。参加者はスキャンした3DデータをGoogleDriveにアップロードし、ブラウザ上で読み込んでマーカー上に配置したうえで、エフェクトなどを設定した。その後、自分の顔写真とQRコードを添付したシートが印刷されると、互いにスマートフォンを読み取りあい、ARキャラクターを表示して楽しんだ。
ノーコードでARコンテンツが作成できた
筆者も持参したスマートフォンとタブレットで、粘土で作った恐竜のキャラクターなどを3Dスキャンしてみた。最初はうまくいかなかったが、何度か試すとコツがつかめ、3Dデータを作成できた。作成した3Dデータは画面上で自由に拡大縮小や回転ができる。今回のワークショップでは触れられなかったが、作成したデータをゲームエンジンに読み込ませて、ゲームのキャラクターに使用することも可能だ。
続いてpalanARを使用したAR表示にも挑戦してみた。palanARはブラウザ上で動作するため、タブレットでも使用できる。ナイアンティックのWebARプラットフォームである8th Wallが組みこまれているため、コーディング不要で直感的にARが作成できる点も特徴だ。実際に画面を見ながらデータを読み込み、配置していくと、ものの数分でARキャラクターが作成できた。言うまでもなくノーコード(=プログラム不要)による制作環境だ。
もっとも、ある程度のITリテラシーがなければ、途中で操作に失敗することもある。特に本ワークショップではScaniverseからGoogleDrive、そしてpalanARと、複数のツールで異なる作業を実施し、データを受け渡していく、比較的高度な作業を要求している。実際に保護者の中には操作を間違える例も見られた。一方で小学生であっても、一連の作業をスムーズにこなしている参加者も見られ、驚かされた。
マスコットや縫いぐるみといった現実のキャラクターを3Dスキャンし、クラウドにアップロードしてARコンテンツ化したデータを、紙の上にQRコードとして印刷するというワークショップの立て付けもポイントだ。ここではアナログからデジタルになったものが、再びアナログに回帰する様が見られる。紙であれば参加者が自由に持ち帰り、自宅で楽しむこともできる。主催者側がワークショップをデザインするうえでこだわった点だという。
ハコモノの建造に留まらない県のリーダーシップ
本ワークショップは展示会で偶然知り合った県の担当者が、白石氏に企画提案するところからスタートしたという。その後、ただ3Dスキャンするだけでは企画として弱いという判断から、齋藤氏を巻き込んで実施されることになった。つまり行政側が複数の民間業者を巻き込み、ワークショップを開催したというわけだ。ハコモノを作って終わりという例が多い中、こうした事例が全国に展開されることが期待される。
もう一つのポイントは、本ワークショップが無料アプリやツールの組み合わせでデザインされた点だ(palanARでは有料アカウントが活用されたが、無料でもARコンテンツは作成できる)。実際、参加者はプログラムを一行も書いていない。プログラミングスキルの獲得も重要だが、既存のアプリやツールを組み合わせ、新しい価値を創造する力を育むことも、また重要だと言えるだろう。
tsukurunでは月次ペースでこうした特別講座を実施しつつ、通常は参加者がゲーミングPCやVRデバイスなどを用いて、自由にコンテンツ制作などが楽しめる。3Dキャラクターやゲームを作ったり、イラストを描いたり、3Dプリンタでデータを出力したりなどで、県下の小中高生であれば無料で使用可能だ。本施設の利用者が大学や専門学校に進学し、アルバイトで指導にあたる、などの循環も生まれはじめているという。今後の展開が楽しみだ。