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酒さとピロリ菌感染の意外な関係 - 最新のメタ分析で明らかに

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

酒さは、顔面の紅斑、毛細血管拡張(もうさいけっかんかくちょう:毛細血管が広がり目立つこと)、丘疹(きゅうしん:皮膚が盛り上がってできる小さなできもの)、膿疱(のうほう:膿を含んだ袋状のできもの)を特徴とする慢性炎症性皮膚疾患です。一方、ピロリ菌は胃粘膜に生息するグラム陰性のらせん状細菌で、様々な消化器疾患との関連が知られています。一見すると関係なさそうなこの2つですが、実は密接な関わりがあることが最新の研究で明らかになりました。

中国の研究者らが行ったメタ分析(複数の研究結果を統合して解析する手法)では、酒さ患者51,054人と酒さのない対照群4,709,074人を対象に、25のデータセットを解析しました。その結果、酒さ患者では対照群と比較して、ピロリ菌感染の有病率(ある病気にかかっている人の割合)が有意に高いことが示されました(オッズ比:1.51、95%信頼区間:1.17-1.95、p<0.001)。

【ピロリ菌感染の診断方法によって異なる関連性】

興味深いことに、ピロリ菌感染の診断方法によって、酒さとの関連性に差が見られました。血清学的検査(血液中の抗体を調べる検査)や尿素呼気試験(尿素を使って呼気中の二酸化炭素を測定する検査)、便中抗原検査(便中のピロリ菌抗原を調べる検査)など、1つ以上の臨床検査でピロリ菌感染を診断した研究では、酒さとの関連性が強く示されました。一方、ピロリ菌除菌薬の処方記録に基づいて感染を推定した大規模な疫学研究では、有意な関連性は認められませんでした。

ピロリ菌感染の診断方法によって結果に差が出た理由として、除菌薬の処方記録では、無症状のピロリ菌感染者が見落とされている可能性が考えられます。今後は、より精度の高い診断方法を用いた大規模な前向き研究(現在から将来に向かって調査する研究)が必要だと思われます。

【酒さの発症メカニズムとピロリ菌の関与】

酒さの発症メカニズムは複雑で、免疫系の異常、血管新生シグナル伝達経路の障害、慢性炎症反応、皮膚常在菌の過剰増殖などが関与していると考えられています。ピロリ菌は、胃粘膜の炎症を引き起こすだけでなく、血管拡張、炎症、免疫調節などの生理機能を乱す可能性があり、酒さの病態形成に関与している可能性が示唆されています。

【今後の展望と皮膚疾患との関連】

今回のメタ分析では、酒さとピロリ菌感染の関連性が示されましたが、因果関係を明らかにするためには、交絡因子(結果に影響を与える他の要因)を綿密にコントロールした質の高い前向き研究が必要です。また、ピロリ菌感染が酒さの重症度にどのような影響を与えるのか、ピロリ菌の除菌治療が酒さの症状改善や再発率の低下につながるのかなど、臨床的な意義を検討する必要があります。

さらに、ピロリ菌感染は、酒さ以外の皮膚疾患とも関連している可能性があります。例えば、尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん:皮膚が赤く盛り上がり、白い鱗屑が付着する慢性の皮膚疾患)や慢性蕁麻疹などの炎症性皮膚疾患との関連が報告されています。皮膚と腸内環境の関わりが注目される中、ピロリ菌を含む消化管内の細菌叢と皮膚疾患の関係性についても、今後の研究が期待されます。

参考文献:

Gao Y, et al. Association between rosacea and helicobacter pylori infection: A meta-analysis. PLoS ONE. 2024;19(4):e0301703. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0301703

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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