灼熱の砂漠で孤立無援。地雷を踏んで身動きできない兵士の絶体絶命サスペンス『ALONE』
地雷を踏んだ仲間は目の前で吹っ飛び、自分も地雷を踏んでしまって身動きできない。灼熱の太陽が容赦なく照りつける砂漠の地雷原でたった1人、はたして兵士は救援が到着するまで持ち堪えることができるのか?
オリジナル脚本も手がけて長編監督デビューをはたしたイタリア人のクリエーター・ユニット、ファビオ・レジナーロ&ファビオ・グアリョーネの『ALONE/アローン』(原題:Mine)は、砂漠で地雷を踏んで一歩も動けなくなった米軍兵士を巡るワン・シチュエーション・スリラー。絶体絶命の極限状況下に追い込まれた主人公マイクを、アーミー・ハマーが演じています。
テロ組織の最高幹部の暗殺というミッションを背負い、砂漠に身を潜めていたマイクと相棒のトミー(トム・カレン)。しかし、マイクが土壇場で狙撃を躊躇したことから、任務は失敗。やむなく逃走した2人が徒歩で砂漠を移動しているうちに足を踏み入れてしまったのは、無数の地雷が埋められた危険地帯。相棒は地雷で吹き飛ばされ、マイク自身も地雷を踏んでしまい、一歩でも足を動かせば地雷が起爆してしまう状況に。無線で救助を求めるものの、部隊が到着するのは52時間後! 地雷から足を外すわけにいかない彼は、片膝をついた格好で救助を待つことになる。
サスペンス好きならそそられずにいられない緊迫感溢れる設定ですが、ちょっと気になるのは舞台が砂漠だということ。たった1人で身動きがとれない絶望的な状況ということではライアン・レイノルズ主演の『[リミット]』を思い浮かべる方も多いでしょうが、あちらは地中に埋められた棺という究極の密閉空間。こちらは360°見渡すかぎりの砂漠という広大な空間。密室サスペンスに比べると、こうしたシチュエーションはどうしても緊迫感が薄れるもの(そもそも監督コンビも、限られた空間という設定では『[リミット]』を超えられるものはないと考え、広大な空間へと発想転換したそう)。
しかも、主演はアーミー・ハマーです。『ソーシャル・ネットワーク』でウィンクルヴォス兄弟役のエリート然とした佇まいで一躍注目株になったものの、芝居で観客を巻きこんでいくような演技巧者ではありません。はたして砂漠にたった1人という作品で緊迫感を保ち続けられるのか? 期待と不安が交錯するという意味で、観る前から違う意味でのサスペンスが募る作品でもありました。
しかし、アーミーは、マイクにハマっていたのです。
そもそも、マイクが暗殺任務に失敗したのは、ターゲットが姿を見せた状況が兵士である以前に、人として、狙撃をためらわせるものだったから。そこにマイクという人物の善良さがうかがえると同時に、彼が逃げるように戦場へ赴いた理由も重なってくる。
そう、人生の大きな決断から逃げてきた男は、その逃げ出した問題が心に引っかかっていたがゆえに、絶体絶命のピンチに追い込まれことになるのです。
そんな彼が、極限状況下で向き合うことになるのは、もちろん自分自身。
煮えきらなさゆえに人生に悔いを抱える男の心理劇が、砂漠のサバイバル・スリラーと同時進行しつつ、相乗効果をあげていくのが本作の醍醐味。
救助が来るのが52時間後と告げられた時点で、マイクが置かれた状況は絶望的ですが、それでも片膝をついたまま待ち続ける彼には、灼熱の太陽のみならず、凄まじい砂嵐や、獲物に飢えた凶暴な獣が襲いかかる。謎めいた砂漠の民が現れたかと思えば、何度もフラッシュバックするトラウマや後悔の念に苛まれるなか、自分の人生を見つめることに。
灼熱の砂漠でマイクの意識が朦朧とするなか、観客もどこまでが現実でどこまでが彼の幻覚なのかわからなくなる。その構成がうまい! そして、優柔不断であるがゆえに苦境に陥ったマイクに、キレのいいキャラクターよりも鬱屈や葛藤を抱える役が得意なハマーがハマっている。
主人公が悶々と苦悩する時間が描かれるぶん、観客も何かと先読みせずにいられないのですが、必ずしもその予想どおりにはいかない加減が絶妙。そして、身動きできないマイクとは対照的に地雷原を飄々と進む砂漠の民の存在をはじめとして、散りばめられたかずかずのメタファーの意味が、すべてが終わったあとに沁みてくる。
映画の余韻はラストショットで決まる。その事実に改めて興奮させられるはず。
配給:パルコ
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『ANOLE /アローン』
6月16日(土)より新宿シネマカリテほか全国公開中