Yahoo!ニュース

森保ジャパンと同じく無敗行進中の韓国。ベント監督が抱える「リスク」とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
ソン・フンミンは11月のAマッチに参加しなかった(写真:ロイター/アフロ)

2018年も年の瀬が近づいている。

振り返れば、サッカー日本代表は今年、直前にヴァヒド・ハリルホジッチ監督を更迭し西野朗監督体制で臨んだロシア・ワールドカップでベスト16入り。

森保一監督就任後も、今月のホーム2連戦(ベネズエラ戦1-1、キルギス戦4-0)まで5戦4勝1分けを記録している。森保監督就任後は負けなしで2018年を終えた。

無敗行進を続けているのは韓国も同様だ。

ロシア・ワールドカップではグループリーグ敗退に終わったが、最終戦でドイツを相手に大金星を挙げ、8月にポルトガル出身のパウロ・ベント監督が就任して以降は6試合を戦い3勝3分けを記録。来年1月にアジアカップを控えるなか、韓国国内の代表チームへの注目度も高まっている。

特に今月のAマッチ2連戦は、韓国サッカーファンの期待感を高めるきっかけとなった。

韓国は11月のAマッチをホームで行わず、オーストラリア遠征に発っていた。17日にはオーストラリア代表と対戦し1-1のドロー。20日にはウズベキスタン代表と対戦し、4-0で勝利している。

このオーストラリア遠征がアジアカップに向けた強化の一環であったことは言うまでもないが、遠征出発前には不安要素も少なくなかった。

例えば、今月1日にはFC東京のチャン・ヒョンスが兵役義務をねつ造したとして代表資格の永久剥奪処分を受けている。

(参考記事:なぜ? FC東京チャン・ヒョンスに“代表資格剥奪”処分が下された2つの理由

2014年の仁川(インチョン)アジア大会で金メダルを獲得し兵役免除の恩恵を受けたなか、義務付けられているボランティア活動の書類を水増ししたとして下された処分だが、当然、チャン・ヒョンスはオーストラリア遠征のメンバーからも外れた。

チャン・ヒョンスの代表剥奪は韓国で大きな波紋を呼んだが、ベント監督にとっては青天の霹靂だったに違いない。というのも、10月のウルグアイ戦後の記者会見で、チャン・ヒョンスを高く評価していた。筆者もその記者会見を見守ったが、「とても重要な選手」という言葉を何度も強調していた。

そんな代表チームのディフェンスリーダーが抜けることについては、ベント監督も「チャン・ヒョンスが抜けた穴は大きい。技術だけでなく、戦術的な理解度、経験がチームにとって力になっただろう」と危惧していた。

また、欧州組のソン・フンミンとキ・ソンヨンも所属クラブとの協議の結果、召集されず、チョン・ウヨンやファン・ヒチャンらも負傷で離脱。出発直前には、ジャカルタ・アジア大会の金メダル組であるサイドバックのキム・ムンファンも負傷した。

(参考記事:韓国代表の着実な世代交代、“ジャカルタ世代”が続々とA代表デビュー

主軸を欠き、遠征出発前には韓国メディアに「1.5軍」と呼ばれていた韓国代表だが、そんななかで臨んだ2連戦の結果は1勝1分け。アジアカップ前の最後の実戦機会を無敗で終えただけに、韓国メディアも満足気に報じている。

「敗北を忘れたベント号…アジアカップに向けた歩みは軽い」(『江原日報』)

「選手層の分厚いベント号、アジアカップの自信も漲る」(『ジョイニュース24』)

「上昇気流に乗るベント号、2019アジアカップの展望“青信号”」(『スポーツトゥデイ』)

といった具合だ。

この11月の2連戦の結果によって、ベント監督体制の無敗記録は6に伸び、歴代代表監督のデビュー戦以後の最長記録を更新。カウンターサッカーに傾倒してきた韓国代表においてポゼッションサッカーを提唱するベント監督のスタイルも肯定的に評価されている。

ただ、変化にはリスクも付き物であり、これまで安定飛行を続けてきたからといって気を抜くことはできないだろう。

例えば、ベント監督と同じくポルトガル出身のウンベルト・コエーリョの前例もある。

コエーリョは2002年ワールドカップで韓国をベスト4に導いたフース・ヒディンクの後任として2003年に指揮官に就任。同年12月に日本で行われた東アジア選手権(現E-1選手権)を制すも、アジアカップ2次予選でベトナムやオマーンに敗れるなど成績不振が響き、契約期間をまっとうできずその座を退いている。

2000年の欧州選手権でポルトガル代表をベスト4に導いたコエーリョが実質的な解任に追い込まれた一因には、既存のスタイルとは異なる指導法もあったという。当時、韓国サッカー協会(KFA)の技術委員はこう語っていた。

「ベトナム、オマーンに敗れた時点でコエーリョの解任を検討した。4バックに未練を残す守備、“約束されたプレー”ではなく個人の打開力に頼った攻撃、管理ではなく自立を強調する指導法は韓国には合わないのではないか、と」

そんな前例もあるなか、ベント監督が今後も結果を出し続けられるかどうかは未知数だが、だからこそ注目されるのが来年1月のアジアカップでもある。韓国が1960年にホームで優勝して以来、59年ぶりのアジア制覇を狙うこの大会で結果を残せるかどうかが、ベント監督に対する評価の分かれ道の一つとなるのは間違いないだろう。

韓国がアジアカップで属したのはC組。中国、フィリピン、キルギスと同組だが、韓国国内ではグループリーグ突破は問題ないという見方が強い。

「アジアカップでは日本、あるいはイランと最後の勝負を繰り広げる可能性が高い。ベスト8、準決勝で力を蓄えて、決勝で疲労する日本やイランを制圧せよ」(『スポーツソウル』)と報じるメディアもあるが、はたして。

(参考記事:「アジアカップ決勝の相手は日本かイラン」59年ぶりの優勝を目指す韓国の思惑

森保ジャパンと同じく、無敗行進を続け2018年を終えた韓国代表。アジアカップまで残された時間は少ないが、その準備状況には今後も注目していきたい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

慎武宏の最近の記事