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EURO2020、南米選手権も延期、Jリーグは再開するのか?コロナ禍が招くサッカーの分断

小宮良之スポーツライター・小説家
サッカーを支える人々の熱(写真:ロイター/アフロ)

 中国、武漢に端を発した新型コロナウィルスの禍が、世界中を襲っている。

 未知のウィルスだったため、当初は様々なうわさが上がった。「人同士の感染はない」「風邪のようなもの」「子供はかからない」「自然界のものではなく、生物兵器の可能性」「致死率は低いのでは」。どれも真偽のほどは分からない。今も、正体は不明だ。

 明白になってきたのは、感染力が非常に強いということだろう。今や世界中に広がって、モノの流れを大幅に制限し、経済活動を叩きのめしている。なにより、人と人の関係を断つ脅威を持ち、その危険度は想定以上だ。

<人間同士の接触がままならない>

 それは身の毛もよだつ恐怖と言える。人と人の信頼が失われる――。

コロナとスポーツ

 スポーツは、人々が向き合い、肌を合わせ、そこに熱を生み出してきた。それを見守り、応援する人は声を出し、感情を露にし、その熱を増幅させる。温度を上げた熱によって、アスリートたちは発奮し、想定を超えたプレーをやってのけた。それが感動につながり、感情が爆発し、世界に伝播したのだ。

 それは人間らしい行動の最たるもので、奇跡だった。

 そのスポーツが危機的状況にある。イコール、人類的なピンチだ。

EUROは延期

 サッカー界はコロナ禍の影響をまともに受けている。欧州各国リーグは次々に延期を発表。4月初旬の再開を目指しているが、実現の見通しは厳しい。

 今年6月に予定されていたEURO2020(欧州選手権)も、1年延期が決まった。各国での分散開催になるはずだったが、EU内の往来も制限されている状況で、必然と言える(EUROが延期になったことで日程的に余裕が出て、リーガ再開の可能性は生まれたが…)。とくにイタリア、スペインは深刻な事態である。

「ラテン人は日本人と違い、接触が濃厚で、コミュニケーションも距離が近い」

 日本も知るスペインの友人は、欧州でのパンデミックに関し、そう持論を述べている。

 たしかに、スペイン人は知り合いでなくても紹介された人には、いちいち握手し、抱擁し、頬にキスをする。そして会話の距離が近く、声を張る。そしてうがい、手洗いの習慣が乏しい。マスクをつけることもないので、それが潜伏期間に被害を拡大させた理由と言われるが…。

 彼らの能天気さやエモーションこそ、サッカーの熱狂を生み出してきたのだ。

サッカー界にも感染者が…

 サッカー界も、スタッフや関係者だけでなく、選手や監督も感染者が出ている。その混乱は人の心を蝕む。インテル・ミラノのベルギー代表ルメル・ルカクは「昨日はほとんどおかしくなりそうだった。閉じ込められている感じで、9日間。家族にも会えていない」と(観戦していないが、濃厚接触者として)隔離された状況を告白。選手たちは、練習できず、体を動かせないのもストレスで、部屋にエアロバイクを持ち込んでいるという。イタリアの北部は被害がひどく、チームごと隔離されているのだ(ユベントスのクリスティアーノ・ロナウドはすでに故郷マデイラ島に”避難”。ゴンサロ・イグアインはアルゼンチンへプライベートジェットで…)。

 ウィルスへの疑いは、人を過敏にさせる。

 レアル・マドリーのセルビア代表ルカ・ヨビッチは、検査で陰性だったことでクラブの許可を得て母国に戻り、支援活動を考えていたという。しかし多数の感染者のいるスペインから戻っているのにもかかわらず(再びテストを受けて陰性も)、恋人と町に出ていた姿が目撃され、痛烈な非難を浴びている。スペインなどからの渡航者は陰性でも2週間の自宅待機が義務付けられ、大統領が「逮捕も辞さない」と警告するほどの事態に。ヨビッチは規制を知らされていなかった様子(スペインでは薬局、スーパーは限定的に許可)で、「誰かを危険にさらしてしまったなら謝罪したい」と釈明に追われている。

 3月20日の時点で、イタリアの死者数は中国を超えた。封鎖しても、制御はままならない。スペインのオーバーシュートぶりも顕著で、一気に感染者が2万人以上、死者も千人以上だ。

南米選手権も1年延期

 すでに南米でも、コロナの被害は多く確認されつつある。そこで南米サッカー連盟は、南米王者を決めるリベルタドーレスカップを5月まで延期。また、コロンビア、アルゼンチンで共催予定だったコパ・アメリカ(南米選手権)を1年先送りにした。

 そして2022年にカタールで開催予定のワールドカップも、ダメージを受けている。ワールドカップに向けた新スタジアムのお披露目を、クロアチア、スイス、ポルトガル、ベルギーを招いて親善試合を行う予定だったが、コロナの被害拡大を防ぐために中止にした。そして日本代表も3月に予定していたアジア予選が延期になるなど、本大会まで多くの予定が不透明だ。

 Jリーグは、2月下旬に延期を発表している。3月中旬の再開を目指していたが、事態の悪化で4月3日に再び延期。クラブの経営状況を考慮し、「降格チームはなし」という処置が決まった。3月25日には、再開可否の発表があるというが…。

 混迷の事態に、サッカーはどうあるべきなのか。

無観客の是非

「観客の熱狂が後押しになる。それは間違いない」

 多くのサッカー選手は言う。これはリップサービスなどではない。サポーターと言われる人々の声援だけを指すのではなく、自分のプレーに対する気持ちを込めた拍手や自然と出るような熱が彼らを刺激する。それによって、素晴らしいプレーが生み出される。カタルシスを得るのだ。

 スポーツシーンを作るのは、観客である。無観客試合は、そこに矛盾を生じさせる。

「もし人々が来られないなら、自分たちがプレーする意味がない。観客なしでプレーするべきなのか?我々(プロ)は人々にプレーを見せるために存在している」

 マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督のメッセージである。その言葉は重い。選手と観客の絆で、サッカーは成立しているのだ。

 断たれたつながりが再び結ばれることを、今は祈るしかない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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