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久保建英が、日本以外のアジアの国で育っていたら?中国が弱小で、韓国が衰えた理由とは。

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:つのだよしお/アフロ)

「アジアで強いだけではない。ワールドクラスだ」

 2026年W杯アジア最終予選、中国は敵地で日本に7−0と大敗を喫し、指揮官であるブランコ・イバンコビッチは日本を称賛するしかなかった。

 基本的な技術、戦術の力が違いすぎた。中国が勝つ気配は、ただの一度も漂わなかった。悪名高いカンフーサッカーが最小限だっただけでも御の字だろう。あるいは、暴力的なファウルもできないほどのスピード感の違いだったのか。

 その後、日本と対戦したバーレーンも似たり寄ったりだった。

 バーレーンは、敵チームの国歌斉唱をブーイングで邪魔していた。野蛮な行為が当然だと考えているレベルだろう。そして試合中、上田綺世のPKには時代錯誤の悪辣なレーザー照射。質の悪い冗談のようで、30年以上前から時計が止まっているのだ。

 なぜ、アジアの国々は成長することができていないのか?

その答えは、なぜ日本がアジアの中で突出できたのか、の答えにも通じるかもしれない。

中国サッカー、失敗の必然

 中国は、サッカー大国になるために資金や人材を投じてきた。代表強化だけでなく、国内リーグは世界のスーパースターを次々に獲得。有力な外国人監督も多数、招聘している。

 しかし、すべてが空回りしている。

 それは、サッカーコンセプトがほとんどないからだろう。「勝てばいい」で競技への愛情も感じられない。必然の失敗だ。

 育成面では、フィジカル能力の高い選手をどんどん引き上げてきた。それ故、代表選手たちの肉体だけを見ると、実に屈強。走る、跳ぶなどアスリート能力は高く、総合の格闘家のようにも映る。

 しかし、ピッチでは情けない姿を晒す。

 なぜなら、止める、蹴るという基礎的な技術が鍛錬されていないからだ。どれだけ走って、いかに頑強であれ、ボールが収まらなくては話にならない。コントロールがままならなくては、プレービジョンが身につくはずもないのである。スペースを見つけられず、駆け引きにも劣り、コンビネーションを生み出せず、当然のように後手に回る。

 多かれ、少なかれ、他のアジアの国々で起こっている現象だ。

アジアサッカーの低迷

 カタールやUAEなど中東の国々は、テクニック自体を持っている選手はいる。しかし、それをチームという組織で運用することに問題が見える。タイやベトナムなど東南アジア勢はパスサッカーに取り組んでいるが、それを運用するための体力が足りない。ウズベキスタンやタジキスタンは技術と組織が融合しているが、圧倒的に経験が足りない印象だ。

 アジアカップで日本に金星を挙げたイラクは高さやパワーに定評があるが、その先がない。オーストラリアは高さや強さのサッカーから、ボールプレーに舵を切ったが、不十分で低迷。サウジアラビアは世界一の金満リーグを擁するが、むしろ国内選手が活躍の場を失っている。

「アジアの虎」

 そう呼ばれる韓国も、低迷している。結局、サッカーをフィジカルコンタクトのスポーツとして捉えるところから離れられていない。それが停滞を引き起こしている。

 もちろん、その土壌からも有力な選手を輩出してきた。ソン・フンミン(トッテナム)、ファン・ヒチャン(ウルバーハンプトン)、イ・ガンイン(パリ・サンジェルマン)、キム・ミンジェ(バイエルン・ミュンヘン)は屈強で、技術も鍛えられている。しかし、欧州の有力クラブに輩出する韓国人選手の数は、日本と大きな差がついた。

選手のスカウティング

 欧州や南米では、好選手の条件に挙げられるフレーズがある。

「サッカーを知っているか」

 その意味を、日本以外のアジアサッカーは認識すべきだろう。

〈知る〉

 それを正しく訳すのは難しいが、サッカーの仕組みを動かすことを知っていることで、それは突き詰めれば、「コントロールした後、どこにボールを出し、どこに走ればいいか」を知っている技術である。細部における、どうボールを受け、どう隠し、逆を取るか。そうした技術を用いるための全般的な戦術眼とも言い換えられる。

 アジアの国々では、なかなかここが徹底されていない。

 中国のようにハナから考えていない場合もあるし、ボールテクニックそのものに執着してしまうこともある。ボール扱いの「うまさ」でとどまってしまっては、知っていることにはならない。相手との駆け引き、味方との息の合わせ方、適応力も含めて、技術が戦術に昇華される。

 そうした基本ができた選手を肉体的にもフィットさせることで、戦える集団になるのだ。

久保建英が中国人選手だったら?

 日本以外でアジアから欧州で活躍できる選手が、目に見えて少なくなっている。

 例えばイランは長年アジアの雄で、今年のアジアカップでも準々決勝で日本を下している。インテル・ミラノのFWメフディ・タレミのように、伝統的にセンターフォワードにはアジアトップ、世界でも有数の選手を輩出してきた。

 しかし、かつての勢いはない。

 FWサルダル・アズムンは大いに期待されたが、レバークーゼン、ローマでは鳴かず飛ばず。最後は無断遅刻などで、UAEのアル・アハリに移籍することになった。フェイエノールトに在籍していたアリレザ・ジャハンバフシュは契約解除で、無所属。同じくブレントフォードに在籍していたサマン・ゴドスも契約解除でチームがない。

 なぜ、日本人選手は欧州で活躍を続けているのか?

 サッカーの技術をおざなりにしなかったからだろう。それを生かす戦術も身につければ、体力面は後からでも鍛えられる。細身で小柄な選手であっても、欧州でプレーを重ねて逞しくなっていく。適応することで、持ち前の技術を生かせる。一方、フィジカルプレーヤーは欧州ではプレーパターンを読まれると、途端に武器がない。技術を後から身につけるのは難しく、サッカー選手の限界を露呈するのだ。

「もしイニエスタが中国に生まれていたら、『小さいし、速くもない』と断じられ、表舞台に現れていなかっただろう」

 あるスペイン人指導者の言葉である。

 久保建英が中国で育成年代を過ごしたら――。ゾッとする想像である。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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