チームの一体感を支えたキャプテン。岩清水梓が感じる「連覇の重み」
【連覇を支えた闘将】
今季のなでしこリーグは、残り2試合を残して日テレ・ベレーザ(以下:ベレーザ)が優勝を決め、昨年に続くリーグ2連覇を達成。15日に行われたホーム最終戦(AC長野パルセイロ・レディース)後に、優勝セレモニーが行われた。
キャプテンの岩清水梓は、穏やかな笑顔でメダルを胸にかけ、優勝カップを高々と掲げた。
これで、今季ベレーザが獲得したタイトルは、リーグカップと合わせて2冠目となった。リーグ戦はあと1試合残っている(10月19日現在)が、ここまでリーグ戦とカップ戦を合わせ、27試合で83得点、9失点。今季のベレーザは結果だけでなく、内容でも他チームを圧倒してきた。
1試合平均3ゴール以上を決めた得点力も素晴らしいが、特筆すべきはむしろ、その失点の少なさだ。圧倒的なボール支配率で、奪われてもすぐに奪い返し、相手にボールを持つ時間を与えなかった。だが一方で、高いディフェンスラインの裏の広大なスペースは常に狙われた。その守備ラインをコントロールしたのが、ディフェンスリーダーであり、キャプテンの岩清水梓だ。
「ここ数年、こんなに得失点差(得点−失点)が大きくなったシーズンってないんですよ。これだけ攻撃で得点してくれると助かりますね。サイドバックも含めた攻撃時の運動量、パスを出した後の動き直しとか切り替えの速さとか、後ろから見ている風景はどこのチームにも負けていない。上手いなぁ〜と思いながら、若干、客観的に見ているんです(笑)。本当に頼もしいんですよ。」(岩清水)
キャプテンマークを巻いて6年目になった闘将は、誇らしげに言った。声でもプレーでも、後方からチームを支えてきたリーダーへの絶対的な信頼感が、チームにはある。
今季、ベレーザの登録メンバーは18人。その18人全員が(各年代代表も含む)代表経験者という精鋭である。だが、紅白戦(11対11)をするにはメンバーが足りず、代表に呼ばれる選手が多いため、メンバー編成の調整の難しさも常につきまとった。そんな中、総力戦で戦い抜いた。
【歴史の証人】
「タイトルを取れなかった時期を経験した上での今があるので、この連覇は感慨深いです。」
しみじみと口をついた言葉は印象的だった。
2003年に16歳でなでしこリーグにデビューした岩清水にとって、タイトルをとることは特別なことではなかったという。
「当時は若手の立場で、先輩たちに引っ張ってもらっていました。その中でタイトルを取ることはごく当たり前だったし、今考えると、その重みを分かっていなかったですね。」(岩清水)
ベレーザは05年度〜08年度までリーグ4連覇を達成し、全日本女子サッカー選手権大会(現・皇后杯)は、04年度〜09年度で5回の戴冠を果たした。当時のメンバーは、澤穂希、川上直子、酒井與恵(2007年の結婚により加藤に改姓)、小林弥生、荒川恵理子ら、代表の中心選手が揃っていた。その中で、10代からコンスタントに出場機会を得ていた岩清水は、勝者のメンタリティを自然と身に付けていったのだろう。
しかし、2010年のリーグ優勝を最後に、ベレーザはタイトルから遠ざかった。
永里優季がドイツへ、宇津木瑠美はフランスへ移籍。10年のシーズン後には澤穂希、大野忍、近賀ゆかりら代表選手がINAC神戸レオネッサに移籍し、チームは新たなメンバーで再スタートを切った。岩清水がキャプテンを任されたのは、チームがそのターニングポイントを迎えた2011年のこと。
「キャプテンになって最初の2年間は、バランスをとるのが大変でした。気持ちでもプレーでも、チームを引っ張っていかなきゃいけない。でも人に言うってことは、自分のプレーに責任も持たなければいけない。『引っ張ろう』と気持ちばかりが先行して、やるべきことが果たせないもどかしさがありました。」(岩清水)
その後も海外移籍などで選手の入れ替わりは続き、チーム作りの試行錯誤は続いた。だが、2013年以降、現在、主力として活躍するU-20世代の隅田凜、籾木結花、長谷川唯、清水梨紗らがメニーナから昇格してからは、腰を据えて世代交代を進めてきた。徐々に連携は熟成し、トップリーグの経験を糧に、若手は殻を破っていった。そして、2014年の皇后杯でタイトルをとると、2015年は5年ぶりになでしこリーグで優勝した。そして、今季はさらなるバージョンアップを見せた。
「この4年間、やってきたメンバーが一緒だから、今、籾ちゃん(籾木結花)とか唯(長谷川)の代が、チームを活性化してくれています。カツオ(村松智子)たちの代も、まだ年齢は若手ですけれど、中堅の立場でチームを引っ張ってくれる側に成長しました。その分、逆に(自分は)どんどん楽になってきているというか(笑)みんながやれることが多くなってきて、頼もしいなぁと感じています。」(岩清水)
岩清水とセンターバックを組む村松は、下部組織のメニーナ時代からその背中を見て育った。今はなでしこジャパンの若手筆頭株として期待される。
「『言うところは(厳しく)言う』というところは、イワシさんを見習うようにしています。すごく尊敬していますし、イワシさんのことは自分が一番近くで見て一緒にやって来たと思うので、良いところを吸収して、いつかは追い越したい存在でもあります。」(村松)
【タイトルへのこだわり】
「イワシさん」「イワシ」
年下も年上も、監督もチームスタッフも、サポーターも、敬愛の念を込めて彼女に声をかける。ピッチの上では頼もしいリーダーだが、ピッチを離れればいじられ役も買って出る。
「キャプテンで年齢も一番上なので、気を遣うこともあります。自分が言うことで(萎縮して)若い選手たちができなくなってしまうこともあるだろうし、先輩の言葉に『はい』と言わなければいけない気持ちは分かるので。言葉やタイミングなど、自分がでしゃばらないように、オンザピッチ、オフザピッチで使い分けをしています。」(岩清水)
なでしこリーグでの10年連続ベストイレブンは、現役選手では、岩清水が唯一となった。今季11回目のベストイレブン選出になれば、加藤與恵さん(96年〜06年)が持つ最多記録に並ぶ。
「今シーズン3冠をとるという目標を掲げてシーズンを始めています。昨年は皇后杯で負けてしまっていますし、(皇后杯は)まさしくトーナメントの難しさがありますが、最後まで、タイトルにこだわりを持っていきたいと思います。」(岩清水)
リーグは10月23日(日)に最終節を迎える。皇后杯に向け、女王を率いるキャプテンのプレーにも注目だ。