エステティック大手TBCが、「ホワイト求人労働協約」を締結
8月26日(金)、エステティック大手、TBCグループ株式会社とエステ・ユニオン(総合サポートユニオンエステ支部)が、「ホワイト求人労働協約」を締結した。
労働協約とは、労働組合と企業の間の取り決めであり、通常は賃上げなど、すでに働いている社員の労働条件について話し合われている。
新人を採用する際の「求人詐欺」を是正する労働協約は日本初であり、「就活安心労働協約」とも銘打っている。
背後にはエステ業界において求人情報と入社後の労働条件が異なるというトラブル「求人詐欺」問題が多数発生している事情がある。同社は業界のリーディングカンパニーであり、率先して手を打った形だ。
同日の記者会見にはエステティックTBCの人事担当執行役員、採用課長も参加をして労働協約の内容を報告するという、異例のものとなった。
〈エステ・ユニオン〉TBCと労働協約締結 固定残業代明示(毎日新聞)
エステTBCと労組が「ホワイト求人」労働協約…「求人詐欺」防止へ条件明示を強化(弁護士ドットコム)
社会問題化する「求人詐欺」
現在、日本の労働市場ではエステ業界に限らず「求人詐欺」が横している現実がある。特に、給与のごまかしが深刻である。
求人情報では魅力的な条件を掲げて労働者を集めておきながら、入社前後に給料の中に「固定残業代」が含まれていることを伝える、実際の労働環境が求人情報と異なり劣悪であるといった、手法が蔓延している。
固定残業代とは、月給に残業代を含めて表示する方法だ。これを用いた「求人詐欺」のやり口は、例えば「月給20万円」などと表示しておきながら、実際には「80時間分の残業時間込」であるといった具合だ。
厚生労働省の調査によると、ハローワークの求人票に記載された内容と実際の労働条件が異なっているという相談は、2014年度には1万2252件にもおよんでいる。また、朝日新聞の報道によれば、「リクナビ」に掲載されている固定残業代込の月給表示の、実に3分の2に不正が認められたという。
そのような中で、厚生労働省は、2015年9月30日、新しい告示を出し、「募集段階からの固定残業代の明示」を義務付けている。また、2016年6月3日、厚生労働省の有識者検討会は、公共職業安定所(ハローワーク)や民間の職業紹介事業者に労働条件を偽った求人を出した企業と幹部に対し、懲役刑を含む罰則を設けることも検討された報告書をまとめている(「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書」)。
進んでいない求人詐欺対策
ところが、罰則もなく強制力がないため、各求人媒体に現在掲載されている様々な企業の求人情報を見ても、義務化されたはずの固定残業代の明示は徹底されていない。
また、ハローワークや大学へ出した求人、自社HPの記載がそれぞれ違う内容の大手企業もあり、「どれが本当かわからない」という状況も放置されている。
これでは就職活動を行っている側からすれば、「嘘かもしれない中で企業探しをする」しかない。特に、求人詐欺の事件報道が多い外食やエステ業界では、業界ごと敬遠されてしまう傾向も見えている。
そのような状況の中、エステティックTBCは、業界のリーディングカンパニーとして、自らが率先して情報公開等を行うべきであるとの結論に至り、「ホワイト求人労働協約」(就活安心労働協約)を締結するに至ったという。エステ業界で働くことを希望する求職者が、安心して就職・転職活動ができる環境を整備するためである。
中でも特筆すべきことは、これが、会社側からの「ホワイト企業だ」という一方的な主張ではないということである。よく自社PRとして、聞こえの良い施策を声高に訴える企業が見られる。曰く「有給は取れます」「ワークライフバランス充実!」といった具合だ。
だが、それらのPR企業から違法労働の労働相談が来ることは珍しくない。会社が「職場環境を良くします」と宣言したところで、それが実行されている保証はどこにもないのだ。
これに対し、今回の「労働協約」による「ホワイト企業」であるとの宣言は、産業別労働組合との間で労働協約を締結し、「確実な実行」を担保している点が画期的なのだ。
記者会見によれば、協約締結はエステ業界全体でエステ・ユニオンと、業界の改善のために協議重ねてきた結果だという。
では、この「ホワイト求人労働協約」とは、どのような内容なのだろうか。
ホワイト求人労働協約(就活安心労働協約)の内容と画期性
やや、読みにくいところもあるが、まずは協約の内容を箇条書きで見ておこう。
- (1) 会社は、若者雇用促進法及び女性活躍推進法が定める、全ての情報公開項目を各求人媒体において主体的に公開する。また、各事業場における36協定を組合、同業他社らと協議の上、各求人媒体で公開することを協議する。
- (2) 会社は、各求人媒体において、厚生労働省指針が求める新卒採用に加え、中途採用含め、1固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法、2固定残業代を除外した基本給の額、3固定残業時間を超える時間外労働、深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うことなどを明示する。
- (3) 会社は、各求人媒体において、求人条件が同一と認識されるよう基本的な労働条件(絶対的必要記載事項等)については、文言を統一化する。
- (4) 会社は、求人情報を下回る労働契約を締結しない。ただし、店舗の統廃合等、やむを得ない事情がある場合はこの限りではない。
- (5) 会社は、各求人媒体において、本協約(4)を担保する趣旨の文言を掲載する。
- (6) 会社は、求職者に内定通知を送付する際、合わせて労働条件通知書を書面交付する。
*資料画像を参照
この内容の画期性は、労働協約で実行が担保していることに加え、政府の法政策を待たずに率先した対策を実現しているところだ。
第一に、「職場環境の主体的な情報公開」を約束している。すでに、法律では求職者が求めた場合に、一部、企業情報の公開を義務付けている。
一方協約では求職者の求めを経ずに、企業側が自ら各求人媒体へ情報を公開する。
また、各事業場における36協定(残業時間の上限を定めた協定)に関しても公開することを予定しており、それによって、求職者は各事業場での残業時間の上限が把握でき、長時間労働の危険性がないことを事前に確認することが可能になる。
36協定は「何時間働かされるのか」を示すもの。求職側にとってはとても重要な資料だが、裁判所は情報公開の義務はないとの裁判例を示しており、政府も公開させる対策は示していない。極めて画期的な内容だろう。
第二に、協約は「求人条件表示の明確化・共通化」を約束している。
厚労省指針が義務付ける固定残業代制度の明示項目を、新卒求人・中途求人全てにおいて、各求人媒体に明示する。それによって、求人段階での給与の水増し表示を防止することができる。また、民間求人、ハローワーク求人、自社HP求人によって求人情報に齟齬が生じないよう、各求人媒体における文言の共通化を行うことで、求職者が正確な求人情報を把握できるようにする。
第三に、「求人情報以下の労働契約締結の禁止」を約束している。
求人情報を見て応募し内定を得て、実際に入社するまでの間に後出しで労働条件が下方修正されるという被害を防ぐため、各求人媒体において求人情報以下の労働契約を締結しない旨の文言を掲載するとともに、内定時に労働条件通知書を書面交付することにより、その実効性を担保する。
この対策は、「求人詐欺」を根絶するためにもっとも強力な措置だろう。「絶対に求人でごまかさない」という強い意志がない限り、このような協約を締結することはあり得ない。
企業側のメリットと労働市場の健全化
今回、エステティックTBCは既存の法律を大きく上回る労働協約を締結し、「求人詐欺・ブラック求人」を防止するという業界改善のための画期的な取り組みをスタートさせた。企業がエステ・ユニオンと「ホワイト求人労働協約」を締結していることは、求職者にとって、同社を魅力的な企業にするだろう。
つまり、「ホワイト求人協約」の締結は企業イメージの刷新や宣伝効果にもなる。その結果、企業にとっても優秀な人材が集まりやすくなり、長期的な企業の発展にも資するだろう。
また、求人詐欺が蔓延する労働市場でこのような協約締結の動きが広がれば、人集めのための「健全な競争」が企業の間で広がり、賃金の上昇、デフレの脱却にも重要な意義を持つに違いない。
ぜひ、同業他社にも積極的な労働協約の締結を期待したい。
このような動きを促進させるために、エステ・ユニオンは、同業他社にも労働協約の締結を提案したり、労働協約を締結しないまでも本協約内容の履行を求める公開質問状の送付を予定しているという。
ユニオンの今後の取り組みも注視していきたい。
最後に、「求人詐欺」の問題を抱えて悩まれているエステ業界で働く方は、ぜひ、エステ・ユニオンまで相談されることをお勧めする。「求人詐欺」の被害にあった場合、求人情報、労働条件通知書、実際の労働問題の証拠を集めてユニオンに加入すれば、騙された分の差額を請求できる。
業界大手も改革に乗り出した今、違法行為を我慢し続ける理由など、どこにもない。
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