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エルトン・ジョンとマイク・タイソンの共通点

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
もっともっと愛された筈の"Iron" Mike Tyson(写真:ロイター/アフロ)

 23日から日本でも公開中の映画『ロケットマン』。エルトン・ジョンの半生を描いた作品だ。第72回カンヌ国際映画祭で、スタンディングオベーションが4分間続いただけあって、見応えは充分。

パンフレット
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 スクリーンを見詰めながら私は、何度もあるボクサーに思いを巡らせていた。

 マイク・タイソン

 エルトン・ジョンもタイソンも、天賦の才に恵まれながら、心を許せる人間が周囲にいなかった。功績を称えられながらも、ずっと「孤独」との闘いを強いられる。そして、ドラッグに溺れていくーー。

 タイソンは現役時代に3億ドルを超える金を稼いだが、少なくとも4350 万ドルをプロモータのドン・キングに搾取され、キャリアの晩年に破産した。

 世界各国の総計で3億枚ものレコードを売り上げたエルトン・ジョンも友人のような顔をして近付いて来た人間が、実は「金のなる木」としか己を見ていなかったことに、深く傷つく。また、同性愛者であることに悩むーーー。

 本作品のテーマは「孤独」であると私は見た。時代の寵児となる人間は、ハイエナに集られてしまい、何を信じればいいのか分からなくなってしまう。

 哀しみを振り払うかのように歌い続けるエルトン・ジョン。全盛期からは比べようもない程ボロボロになり、最後は格下に敗れてリングを去っていったタイソン。両者は一見、成功者のように映るが、凡人には想像もつかない虚無感に体が潰されそうになっていたのではなかったか。

 人間というものを考えさせられる作品だ。

 エンディング時、現在のエルトン・ジョンの幸せそうな姿に心が休まった。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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