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働く親の救世主?「料理代行」じわり広がる 食の安全・罪悪感の値段は…

中野円佳東京大学特任助教
台所に立って料理をするのは母親の役割…?(写真:アフロ)

ワーママたちが「作り置き」に感動!

「仕事が今週忙しいので、家事代行お願いしました。神!!(T_T)」

Facebookの「作り置き」投稿に100を超える「イイネ」と賛同コメントが集まった
Facebookの「作り置き」投稿に100を超える「イイネ」と賛同コメントが集まった

テレビ局勤務で0歳児の母親Uさんが、Facebookに8品ほどの「作り置き」料理の写真をアップすると、ママ友などから「こんなのあるんだ!」「へ~!いくらなの?」とコメントが集まった。利用したのは家事代行マッチングプラットフォームのタスカジ。1時間1500~2600円の3時間の家事代行の中で「掃除、洗濯、料理、親同伴のチャイルドケア」などお願いしたい内容を選んで頼むことができる。

ハウスキーパーなどを自社で育てて抱える家事代行業者とは異なり、タスカジはあくまでも利用者と働き手である「タスカジさん」をマッチングするプラットフォーム。面接や研修、就労ビザなどを含む個人確認は経るものの、その質や得意分野は均一ではない。他の利用者のレビューをもとに利用者が自己責任で選び、価格もレビュー評価によって異なる仕組みになっている。

この均一でないサービスを逆手に取ったのが、個性を生かした家事の依頼。ホテルなどの清掃を経験した掃除の元プロもいれば、英語で子どもの世話をしてくれる外国人など多様な「タスカジさん」――。この中で、最近人気が出ているのが「作り置き」の代行だ。

家庭料理の呪縛?「罪悪感」の値段も

タスカジでは、栄養士やレストランで働いた経験を持つ料理の元プロ、子育てを終えた主婦などが、3時間のうち2時間程度を使ってその日食べるものと、何日か冷蔵庫や冷凍庫で保管できるものを作ってくれる。材料は依頼主が揃える、買い物から代行をお願いするなど相談して決める。

材料費が2000~3000円だとすると3時間の家事代行費用、交通費などを合わせて1万円近くかかる。1時間程度は台所の掃除など家事にも時間を割いてもらうことができ、「作り置き」で家族数人が数日食べられる。とはいえ、外食や惣菜を買ってくるのに比べて決して安くない。どうして働く親たちはこの費用をかけて「作り置き」を頼むのか。

背景には、「外で食べると油っぽく、味付けが濃い」「保存料や添加物が入っていないものを」という食の安全や健康面での判断に加え、子育て中の外食や惣菜の利用に対する「罪悪感」がある。共働き世帯数が専業主婦世帯数を超えた今も、何となく残る「料理は家庭の味を」という強迫観念。それでも「自分で作る余裕がない」「一生懸命作ったからといって子供が食べてくれるとも限らない」という女性たちが、「母親が自らの手で」という呪縛からは逃れるための折衷案が「作り置き」代行のようだ。

「子供との時間」は確保したい

元フランス料理シェフのタスカジさんに作ってもらったキッシュなど
元フランス料理シェフのタスカジさんに作ってもらったキッシュなど

実際、私も頼んでみた。我が家のメインシェフは夫だが、彼が週末に作ったおかずが切れつつある週半ば、「作り置き」を依頼をすると、途端に気持ちに余裕ができる。そもそも妊娠前まで終電で帰れるかどうかの生活で平日に料理をする習慣がなかった私。自分で作るより格段においしい。

何より、ばたばたとした平日の夕方、保育園から帰ってきた子どもをテレビの前に放置して夕食の支度をするのではなく、子どもとの時間に割くことができる。「ベビーシッター代を払うよりも、家事をする時間を減らして自分は子どもとの時間を大事にしたい」というワーキングペアレンツは少なくない。タスカジを運営するブランニュウスタイルの和田幸子社長は「アンケートを取ると掃除などの需要が高く、料理の需要はあまりでてこない。でも本当は頼みたい人は多いのでは」と話す。

家事代行のCaSyも3日、こうしたニーズを汲み取り、掃除以外のメニューも春夏以降に開始すると発表した。出張シェフのマッチングサービス「MyChef」では子供の誕生日や複数親子での集まりなどで1人当たり3000~5000円で料理を作ってもらうことができるサービスが母親たちに人気だという。

作る側の「やりがい」

料理におけるシェアリングエコノミーの究極形は、むしろ昔ながらの「おすそわけ」、得意な人が作って近所に配るという形なのかもしれない。ただ、インターネットを使って離れた人とも知り合えるマッチングサービスが生きてくる理由は「需要側と供給側が同じ地域に住んでいなくてもいいこと」(和田社長)。

MyChefの清水昌浩社長は「登録しているシェフたちは普段はレストランなどで働いていることが多い。その仕事ではお客さんの顔が見えないことや、オーナーの方針で作りたいものが作れていないこともあり、MyChefを通じて自分の料理で誰かを喜ばせたいという気持ちでやっている人が多い」という。

「得意な人が作って配る」をビジネス化したものが外食や惣菜販売ではあり、食の安全に配慮したPRをする企業も増えてはいる。各家庭で作るのは効率がいいとはいえない仕組みで、共働き家庭であっても頻繁に利用できる値段ではない。

しかし、使う側がたまに母親役割の呪縛から解き放たれ、作る側がやりがいと対価を得られる「料理代行」。SNSなどでの賛同を得て、じわりと広がる余地がありそうだ。次回記事では、こうしたサービスへの企業や国からの補助が家事労働を無償労働から有償労働に変えていく可能性について紹介したい。

東京大学特任助教

東京大学男女共同参画室特任助教。2007年東京大学教育学部卒、日本経済新聞社。14年、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士号取得、15年4月よりフリージャーナリスト。厚労省「働き方の未来2035懇談会」、経産省「競争戦略としてのダイバーシティ経営の在り方に関する検討会」「雇用関係によらない働き方に関する研究会」委員。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』『上司の「いじり」が許せない』『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。キッズラインを巡る報道でPEPジャーナリズム大賞2021特別賞。シンガポール5年滞在後帰国。

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