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開幕3戦「打率10割」。サンウルブズ長谷川慎スクラムコーチ、開幕前から自信。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
海外からやって来たバックファイブ勢の献身ぶりも評価。(写真:アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦3季目のサンウルブズは、目下、開幕4連敗中だ。しかし全15チーム中トップの項目がある。スクラムの自軍ボール獲得率だ。97パーセントをマークする。

前年度からサンウルブズでこの領域を指導する長谷川慎スクラムコーチは、開幕前から手ごたえを語っていた。

 日本代表の指導も兼ねる長谷川コーチは、「コア(体幹)の短い日本人に合う組み方」としてフォワード8人が相手よりも低い姿勢で互いに密着するフォームを提唱する。

 各ポジションの体勢や力の加える方向は明確化。全選手がその詳細を頭に入れていれば、試合ごとのメンバーの入れ替わりに左右されずスクラムを安定させられるという。

 現地時間3月17日、敵地ヨハネスブルグでは前年度優勝のライオンズに38-40と惜敗。初めて自軍ボールのスクラムをターンオーバーされたが、大男に掴み上げられた前年の対戦時よりも全体的に安定していた。なお第3試合にあたる第4節までは、自軍ボール獲得率は100パーセントを保っていた。いわば「打率10割」だった。

 長谷川コーチが単独取材に応じたのは、北九州での開幕前合宿だった2月5日。3月21日に発売(書店では3月24日から)される『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー 闘う狼たちの記録』のためのインタビューだったが、外国人プロップを多く擁する3シーズン目への展望も語っていた。

 練習のレビューなどを踏まえての対話には、開幕後の好スクラムを占う知見もある。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――改めて、2年間を振り返っていただきたいのですが。

「(身振りを交え)いまは、最初に計画を立てたものを遂行している途中です。ここ(日本代表が2019年に参加するワールドカップ日本大会)ができたら振り返ってもいいと思うのですけど、いまはまだ、真ん中(途中段階)なので…」

――では、前年を踏まえて、今年はどんな取り組みに着手しますか。

「去年はベーシック、システムのルーティーン(組み合うまでの個々の動作)、ディティールという形を決めてゆく時期だったと思う。それをしたことで、フィジカル(強化)をやる時間はそれほどなかった。(国内リーグも含め)試合が続いていたので、ジャパンの時も含めてトレーニング期はほとんどなかったんです。だから今回(3シーズン目開幕前)、トレーニング期が約3週間もあるのは本当にありがたい。

 さらに来年に至っては、もっとトレーニング期間ができる。試合期は、トレーニング期の練習はほとんどできませんからね。コンディションを作っていかないといけないなかでは、朝からウェイトトレーニングをするなどの時間はない。いまは比較的時間がしっかり取れるので、僕も含めて成長の速度は速いです」

――確保された練習時間は、どう活かされていますか。

「ユニット(ポジションごとの練習)に時間が取れるんです。いつもなら1週間で28分しか取れなかったスクラム練習が、いまは1回で28分以上できますから。トレーニング期もなく試合期に入ると、『皆が理解しきれていないのでは』など色々と不安なところは出てきます」

――昨季も、限られたスクラム練習の時間を有効活用している印象でした。実際に組み合うセッションでは、想定される相手のプレッシャーへの対処法をイメージ。選手が膝立ちで組み合って押し引きをする「スクラムの筋トレ」や首のトレーニングをおこなうことも。

「与えられた時間のなかで何ができるのかを考えながらやっています。それはいまもそうです」

――最前列中央の庭井祐輔選手は、昨季の第3節で自信を得たと言っていました。南アフリカのブルズとスクラムを組み、コラプシング(故意に崩す反則)を誘えたからだと言います。

「いまやっている組み方は、もともと(前所属先の)ヤマハで(自軍のフォワードを連れて)フランスに行って色々なチームと組んできたなか、『こういうのは外国人が嫌なんだな』ということを考えながら作ったものです。だから僕は『いける』と思っていた。ただ、選手には『大丈夫かな』と思っている選手もいるかもしれない。だからその時の庭井みたいに、早く『いける』という感覚を掴んで欲しいなと思います。練習内容は、変わっています。去年はシステム、ルーティーンの理解に時間を割いてきたけど、いまはフィジカル(強化)の時間が増えている」

――組み方の理解がどんどん進むなか、その組み方を高い強度でこなす肉体を作るイメージ。

「ちょっと崩された時に戻すフィジカル、押し切るフィジカル、(互いの密着などが)ずれた時に皆でどう戻すか…。そういう、次の段階に行けると思います。もともと、2016年(日本代表コーチ着任時)に考えた計画通りになっています。いい順番できています」

――今年は、最前列のフロントローに海外出身者が5名(韓国出身で日本育ちの具智元は除く)います。かねて「日本人向き」とされるスクラムの形を外国人選手に伝授するのは、新しいチャレンジになりそうですが。

「外国人だらけのなかに僕が教えに行くのではなく、去年までやってきた日本人選手たちのなかに何人かの外国人選手が入っているんです。彼ら主導ではなく、彼らがこちらにいかにはまれるかという目線でやっていきます。フィジカルの強い彼らがはまったらどうなるかは、見てみたい。(力のある)外国人が日本人みたいな細かいことができたら、絶対に強いですよ」

――海外選手が「はまる」手応え、あるようです。

「それに、日本人も捨てたもんじゃなくて。そこへ外国人のバックファイブ(ロック、フランカー、ナンバーエイト)もいい。皆がうまくはまれて、自信を持って力いっぱい押せたら、何とかなるかなと。去年した失敗は種類が似ていて、その対策の練習をしていたら11月の日本代表ツアーでもある程度成果は出た」

――「失敗」。様々な選手に聞いた話を総合すると、「組み合う際に、1人でも違う動きをしたら崩れてしまう」という現象が浮かび上がります。

「今年は、経験値をつけてきた選手が多い。僕も、毎週、毎週、違う相手と試合をして、出てきた課題に対して何をやったらいいかを考えてきた。選手も、僕も、皆、いい経験を積んできている」

――11月23日に敵地でおこなった日本代表対フランス代表戦(23―23)のスクラムからも、手応えや課題があったのでしょうか。

「そうですね。そこで見えたフィジカルの足りないところは、試合期では鍛えられない。だからいまの時期が大事だと思います」

――そのお話を伺う限り、フランス代表戦では形を遂行しようとしながら力ずくで崩されたシーンがあると感じたのでしょうか。

「(つま先の位置が相手方向へ)あと半歩、詰まっていたら潰れない…とか。見ている人にはわからない、そういうところで勝負が決まる」

――「あと半歩」は、身体を鍛えることでクリアになるのでしょうか。

「ひとりでは、難しい。(鍛えたうえで)タイミング、前後の人との呼吸なども合わせていかないと」

――今季も、前年度同じく試合ごとの選手の入れ替わりは起こりえます。それを前提に「呼吸」を合わせるには。

「この組み方を知っている選手が多いので、ローテーションがあっても大丈夫。さっきも言ったようにできる選手ばかりになったので、次の段階に行けています。(新しく入った選手が)そこにはまるだけなので」

――第三者は「システムの習熟度に差のある選手同士が入れ替わった場合のリスク」を心配しがちです。昨季は、この問題がスクラム以外の領域でも生じていました。

「皆、本当にいい奴でね。コーチ陣のいないところでも、選手同士がミーティングルームの端っこで教え合っています。きょうだって、ヘンカスに教えてあげていた」

――確かにこの取材が始まる前の練習後、長谷川コーチは南アフリカ出身で新加入のヘンカス・ファン・ヴィック選手にスクラムの際の「ルーティーン」を個別指導していました。

「皆にディティールを話しても、外国人選手はわかっているのかわかっていないのかがわからないところがある。練習中は秀(佐藤秀典通訳)が話してくれているけど、本当に伝わっているかは(直接)確認しなくてはいけない。…で、やはり、わかっていなかったので!

 要注意の選手にはちゃんと言って、やって見せて、確認する。あいつ(ファン・ヴィック)がそれをできなくて試合に出られないのはかわいそうだから」

――その周りを、日本人フロントロー勢が取り囲んでいたのも印象的でした。

「そうすることで、あいつは二度とそこ(確認した部分)でミスはできない。皆が見ていたんだから」

 前年度の自軍ボール獲得率は全18チーム中6位の93パーセント。序盤戦は100パーセントを保っていたが、選手の入れ替わりや中断明けにおこなわれたライオンズ戦での苦戦などに伴い数字を下げた格好だ。

 今季は過去のトライアルアンドエラーを活かしつつ、「次の段階」へ行けると長谷川コーチは言う。個別指導などもおこなって全選手へシステムを涵養。独自のスクラムシステムを、他国に真似できぬ強みへと昇華させたい。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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