バーナンキFRB議長の証言を受けて乱高下した金価格
今週の金市場におけるメインイベントであるバーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言が、22日の米両院合同経済委員会で行われた。同日のCOMEX金先物相場は1オンス(約31.1グラム)で前日比-10.20ドルの1,367.40ドルと売り優勢の反応で終わったが、同証言の内容が伝わった直後には一時1,413.30ドルまで急伸する場面も見られるなど、実際の所は評価が難しい内容になっている。
金市場が当初買い反応を示したのは、議会証言のほぼ最後に指摘された「時期尚早な金融引き締めは、金利の一時的な上昇のみならず、景気回復の減速や終わり、インフレの一段の低下といった深刻なリスクを伴う」との文言だった。要するに、金融緩和政策の縮小を拙速に行うことで、景気回復傾向に深刻なダメージを及ぼすと同時にデフレの危機に直面するリスクを指摘したのである。
今月は、フィラデルフィア連銀のプロッサー総裁が6月米連邦公開市場委員会(FOMC)で資産購入ペースの減速を行うべきと主張するなど、量的緩和政策第3弾(QE3)の見直し議論が活発化していたが、少なくとも議長は緩和政策を継続することのリスクよりも、緩和政策を縮小することのリスクを重視していることが窺える。
同議長は、「(債券)購入ペースを加速もしくは減速することがあり得る」と中立的なスタンスを強調しており、この意味では金市場の弱気筋(ドルの強気筋)が期待していた債券購入プログラム縮小に向けての言質を取ることには失敗したとも言える。
■マーケットは資産購入縮小の言質を探す
しかし、この証言後の質疑応答でケビン・ブレイディ下院議員(共和党)からの質問に対して、「引き続き景気改善が見られ、その改善が持続的だと確信した場合、今後数回の会合で債券購入ペースの減速を決定することもあり得る」と回答したことが、その後の金価格急落を促した。
この発言を引き出したブレイディ議員は、FRBの責務を物価安定に限定すべきと主張するなどFRBに対する政治的圧力の急先鋒であり、従来から金融緩和政策による景気刺激策には否定的な立場で知られている。このため、バーナンキ議長の回答内容にはリップサービス的な色もみられない訳ではないが、議長から「債券購入ペースの減速」に関するロードマップを、曖昧なものとは言いながらも入手できたことが金市場の弱気派を勢い付けた。少なくとも、今回の証言内容からは金融緩和によるドルの通貨価値毀損を進める動きがピークアウトに向かっているとの見方に修正を迫るには至っていない。
米商品先物取引協会(CFTC)が発表している建玉報告(COTレポート)を見ると、COMEX金市場では過去3週にわたってファンドが買いポジションの縮小に動くと同時に、売りポジションの拡大を進める最悪の内部要因環境にある。現状では、この資金フローのどちらか一方にさえ、180度方向転換を迫ることは難しい情勢になっている。
■9月は金トレーダーにとって危険な月に?
では、今後の米金融政策はどのような経緯を辿るのかとなるが、これはダドリー・ニューヨーク連銀総裁の発言内容が手掛かりになると考えている。同総裁は、次の政策変更について、「3、4ヶ月すれば、景気が財政面での問題を克服できるほど健全になっているか否か、より良く分かるようになっている」と発言している。
この発言は、バーナンキ議長の「今後数回の会合で」という発言内容とも整合性が取れるものであり、FOMC中心メンバーは6月、7月、8月の経済指標で米景気の体力を推し量りつつ、9月17~18日開催のFOMCでの政策変更を検討していると言えるだろう。すなわち、現状では債券購入プログラム縮小の最短日程は9月FOMCになる可能性が高いと考えている。
このため、9月は金市場にとって再び危険な月になる可能性が高い。そしてこれを裏返せば、そこまでに緩和政策の規模維持、または逆に規模拡大を決定付けるような経済・金融環境の悪化がなければ、ドル建て金価格にとって厳しい時代が続く可能性は高いということでもある。
冷静に考えれば、これでQE3が完全停止される訳でも、これまでのQE1、QE2、QE3で購入された資産売却が行われる訳でもないため、ドルの通貨価値が直ちに回復方向に向かう訳ではない。実際に資産売却を進めるハードルは高く、FOMC議事録でも出口戦略の見直しに着手したことが明らかにされたばかりである。ただ、マーケットは将来を先取りする傾向が強く、QE3の縮小が一気に「出口」を巡る議論に発展しているのが現状である。