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「現役終わるまで腐らずに」優勝、綱取り―― 大関・貴景勝が見据える大相撲2024年は妥協のない1年に

飯塚さきスポーツライター
新年、稽古後にインタビューにお応えいただいた貴景勝(写真:筆者撮影)

もう一つ先の番付――横綱へは手が届かぬままだった。昨年の大相撲で、2度の優勝を果たした大関・貴景勝。何度でも綱取りに挑戦する大関の精神とは。酸いも甘いも経験した昨年1年間を振り返りながら、年々変化することと変わらないことについても伺った。

痛感した「どこに原因があるかわからない難しさ」

――2023年は、2度の優勝、ケガとの戦い、さまざまありましたが、振り返ってどんな1年でしたか。

「その通り、いいことも悪いこともありました。でも、相撲界に入って毎年そうで、いいことを経験させてもらったら悪いこともあり、いいことしかなかった1年はありません。昨年は、2度の優勝を経験させてもらっているので、いい1年だったのかなと思います」

――綱取りへの重圧はあったのでしょうか。

「1回目の綱取りのときは重圧もありましたが、今回はみんなが思っているほどなかったんですけどね。いままでやってきた自分の集大成を出そうと思って挑戦して、跳ね返された。そういう感覚です。ケガしているから調子が悪い、ケガしてないから調子がいいと思われがちですが、ケガなく万全でも調子がいいときも悪いときもあるので、同じパフォーマンスを出し続けるのはなかなか難しいですね。原因がなくても調子の良し悪しがあるのがアスリートというか、体で勝負する人の難しさ。どこに原因があるかわからない難しさをまた痛感した1年間でもありました」

――昨年2回の優勝の心境は、その前までと違ったとおっしゃっていましたが。

「1回目と2回目の優勝は、もう思い切りやるだけだ、あとは力を出してどうなるかという感じでしたが、去年2回の優勝は絶対負けられない展開が多かったので、そのあたりの心境は少し違いました。でも、土俵に上がって蹲踞したらもうやるだけなので、あまり関係なかったかなと思いますね」

――綱取りの際、「できることを精一杯して、あとは相撲の神様に選ばれるかどうかだ」とおっしゃっていました。そのあたりの心境は。

「毎場所、その場所が綱取りか否かという感覚で臨んできたわけではないんです。序ノ口からどの場所も精一杯やってきたからいまの自分があるし、今場所はいいやと思ったことは一場所もないので、やることは変わらない。最大限の準備をして、あとは運もつかめるようにと思い、そういう言葉の使い方をしました。でも、結果としてもうちょっと頑張らないといけない成績だったので、また腐らずに取り組んでいくしかないですね、現役が終わるまで」

勝ち切れる人が横綱「もっと強くなりたい」

――九州場所はどんな場所でしたか。

「場所前からどちらかというと調子はよくなかったんですけど、調子が悪いなと思って優勝できた場所もあるし、調子がいいなと思って負け越した場所もあるので、こればかりは始まってみないとわからないという感じでした。結局9勝6敗で終わったのはよくはなかったと思うんですが、でも準備はしっかりしていたし、もっとこうしておけばよかったという後悔はあまり感じません」

――九州場所のよかった点は。

「自分のやるべき準備をしっかりできたこと。戦うまでの過程をしっかりできたのがよかったです」

――見つかった課題はありましたか。

「もっと強くならないといけない。横綱というのは、調子が悪くても勝ち切れる人だと思います。自分は100%調子がいいところまでもっていかないといけなくて、その分妥協せずにやってこられたし、これくらいでいいやと思ったらいまはなかっただろうとは思うんですが、でもやっぱり横綱って、極端な話6割くらいでも勝てるような実力があるから取りこぼしもないんだろうと思うんです。だから、もっと強くなる必要があるのかなって。それはいまに始まったことじゃないし、ずっと強くなろうと思ってやっているんですけど、それくらいですかね。あとはやり切っているつもりです」

――年々変化していることはありますか。

「経験はだいぶ生きるようになってきて、いろんな材料が整ってきていますが、体はやっぱり20歳くらいのときの元気を取り戻したいですね」

――経験値が上がると落ち着く部分もあると思いますが。

「はい、地に足がついていない感覚っていうのはなくなってきました。ただ、何も考えずに若々しくいることも大切だと思っています。自分はそこまでいっていないですが、あまり達観しすぎてもよくないこともあるので、冷静な部分と元気溌剌な闘志は両方必要なのかなと」

――もうひとつ上の番付を目指すにあたって、つけたい力は何ですか。

「馬力ですね。立ち合いの強さ。小学生の頃からのその教えのおかげでいまの自分がいる。そのパワーをこれからもっとつけるのは大変なことなんですが、そうなれるようにやっていきたいです」

何事も「まずは基礎が大事」

――大関として、角界全体を盛り上げるためにどうしていきたいですか。

「お相撲さんに何が求められるかといえば、やっぱり土俵の充実。ファンの皆さんは、四つ相撲が好きな人がいれば、押し相撲が好きな人、小さい力士が大きい力士を倒すのを見るのが好きな人などいろいろなので、いろんな個性の力士が集まれば、より多くの人が見てくれるようになると思います。相撲のセオリーはありますが、個性をもったお相撲さんが一生懸命力を発揮すればファンの皆さんに見てもらえるだろうと思います」

――先日は一緒にテレビ番組の出演もありがとうございました。こうした普及活動も大切かなと感じました。

「こちらこそ、オンエアも楽しく見ました。相撲の魅力を伝える番組はとてもいいと思います。お相撲さんってどういう生活してんねやろ?とか、神秘的な部分は神秘的なまま残しつつ、おいしいちゃんことか、知ってもらえるものは知ってもらって、興味を持ってもらえたらいいですね」

角界を背負う立場としても期待のかかる大関・貴景勝
角界を背負う立場としても期待のかかる大関・貴景勝写真:長田洋平/アフロスポーツ

――では、今年1年についても伺います。まずは初場所に向けて、稽古の様子はいかがですか。

「毎日自分のテーマに沿ってやっていっています。順調といえば順調だし、まだまだといえばまだまだです」

――最近の稽古のテーマとはなんですか。

「まずは基礎をしっかり作る、何事もそこからだと思っています」

――大関レベルになっても基礎が大事なんだっていうことに感銘を受けます。

「基礎だけですよ、本当に。四股も、日によって疲労度合いが違うので回数は決めていませんが、キツキツになるまでという感覚でやっています。2週間四股踏まないだけで脚が細くなっちゃうからね」

――今年はどんな1年にしていきたいですか。初場所の目標は。

「来場所の目標は優勝しかないです。あとは、自分に納得すること。明確な目標はやっぱり最後の番付なので、そのためにやるべきことをやっていく。(綱取りは)まず優勝しないとない話なので、優勝することは大事だし、そのためにはしっかり基礎や食事、自分にまた妥協のない1年にしていきたいですね」

スポーツライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライターとして『相撲』(同社)、『大相撲ジャーナル』(アプリスタイル)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』が発売中。

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