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日本企業の資産強制売却が韓国最高裁の最終結論?元徴用工問題解決策の「代位弁済」への3つの障害

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ソウル大法院前で日本企業を訴える元徴用工ら被害者(JPニュース提供)

 韓国大法院(最高裁)の判決で敗訴した三菱重工業の資産強制売却(現金化)を巡る大法院の最終判断がこの件を担当している主審の大法官(最高裁判事)が来月4日には退官することから数日内にも結論が出るようだが、強制売却は避けられそうにもない。

 日韓両国は8月26日に東京で外務省局長級協議を開き、双方が受け入れ可能な接点を模索したようだが、どうやら時間切れとなり、今後は大法院の決定を踏まえた上での対策に没頭することになりそうだ。

 韓国政府は大法院が現金化決定をしても資産の鑑定評価および売却手続きなど時間がかかることからその間に被害者側と日本が同意できる解決策を用意するとして日本が性急に報復措置を取らないよう求めている。

 韓国政府は日本が同意できる解決策として元徴用工らに支払われるべき補償金を韓国側が全額代位弁済する案を真剣に検討しているようだが、現実には障害が幾つもある。

 一つは、原告である元徴用工らの同意を取り付けなければならないことだ。

 原告が日本企業の債権を政府に譲渡しなければ勝手にはできない。その原告らは日本企業を抜きにした韓国だけの代位弁済には断固反対の立場で、外交部が立ち上げた官民協議会をボイコットしている。

 次に、国民の理解を得なければならないことだ。

 国民が代位弁済を支持しなければ、弁済金の原資となる税金を投入することができない。国民の中には「我々がなぜ日本企業の借金(賠償金)を肩代わりしなければならないのか」との不満が根強くあるだけに簡単ではない。

 最後に、野党の賛同が欠かせないことだ。

 文在寅(ムン・ジェイン)前政権下で与党だった最大野党「共に民主党」は国会(300議席)で過半数以上の169議席を握っている。「共に民主党」が反対すれば、予算は何一つ通らない。その「共に民主党」の代表に3月の大統領選挙で尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領に0.7ポイントの超僅差で惜敗した前京畿道知事の李在明(イ・ジェミョン)議員が一昨日(28日)選出された。

 李代表は歴史認識の問題では対日強硬論者として知られている。元徴用工問題については「加害企業と被害を受けた民間人の間で行われた判決を執行しないよう求めることは事実上不可能」として、「大法院の判決を日本企業が認め、真摯に謝罪すれば、最後に残る賠償問題は現実的な方策をいくらでも見つけられる」と大統領選挙期間中に述べていた。

 韓国では元徴用工らが大法院(最高裁)で敗訴した三菱重工業から受け取る金銭代価について尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が「補償金」と表現したことから最大野党「共に民主党」が「賠償金」と呼称すべきではないかと、尹政権を攻撃している。

 李代表に限らず、「共に民主党」所属議員は誰もが日本に対しては手厳しい。尹大統領の日本に対する融和外交も「弱腰」「低姿勢」とみなし、容赦していない。

 尹大統領は大統領就任から100日を迎えた8月17日の記者会見で「強制徴用はすでに我が国の大法院で確定判決が出ており、その判決債権者が法に従って補償を受け取ることになっている」と、「賠償」ではなく、「補償」という言葉を使っていた。ところが、「共に民主党」はこの発言を捉え、尹大統領の「対日観」を追及していた。

 大統領攻撃の口火を切ったのは李在明代表と代表の座を争った朴柱民(パク・チュミン)議員で先週(22日)開かれた国会法制司法委員会で尹大統領が「賠償ではなく、補償という言葉を使っていたが、賠償と補償では意味が異なる。賠償は日本の戦犯企業の強制動員行為が不法である点を内包しているが、補償はその不法性を認めていない」と述べ、尹大統領が「補償」という言葉を使ったのは問題であると迫った。

 朴議員は司法委員会に出席していたカン・サンホ法院事務局長に対して「我が国の大法院は日帝時代(日本の占領期)の強制動員は不法で、我が国の憲法的価値からしてもとても容認できない行為であると判断を下している。そうではないのか?」と質し、カン事務局長から「その通り」との同意を取り付けると、「では、他の大法院での判決で賠償ではなく、補償と認めたケースはあるのか?」と畳みかけた。

 カン事務局長から「他の大法院での判決でも賠償となっている」との答弁を引き出すと、「では、(大統領が使った)用語(補償)は適法なのか」と詰問すると、さすがにカン事務局長は尹大統領を庇え切れず、「私の考えを申し上げならば、(大統領の発言は)大法院の判断とは一致していないと思う」と答えざるを得なかった。

 カン事務局長の答弁が終わると、朴議員は鬼の首を取ったかのように尹大統領に批判の矛先を向け、以下のように声を張り上げていた。

 「ところが、あの人は補償と言い続けている。あの人が誰だか、わかりますよね?」と、委員会に設置されているスクリーンに尹大統領の発言を写し出させて、「記者会見で補償、補償と言い続け、そしてこの判決が執行すること自体が日本の主権と衝突すると説明していた者がいた」と、尹大統領を揶揄していた。

 さらに朴議員は尹大統領が「判決を執行する過程で日本が憂慮する主権問題と衝突せずに(債権者が)補償を受けられる方策を講じている」と発言したことも問題視し、「強制徴用被害者らが日本政府でなく、日本企業に損害賠償を請求することは日本の主権を侵害することになるのか」と追及していた。

 朴議員の追及に対してカン事務局長は「大法院の判断主旨に基づけば、その部分に関する争点(主権侵害かどうか)についてはそうではないと判断したものと受け止めている」と答えていた。

 野党対策が容易でないことはこの一例からも容易に窺い知ることができる。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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