FacebookとTwitterが一転、トランプ氏アカウント停止の行方は?
ツイッターとフェイスブックは、群衆の連邦議会議事堂占拠を煽ったとしてトランプ大統領のアカウントを初めて停止した。
4人の死者が出た米連邦議会への乱入と一時占拠。なお選挙の「不正」を主張する動画。
これは、2016年の米大統領選以来、ソーシャルメディアとトランプ氏の間で繰り広げられてきた攻防の行き着いた結果だ。
そしてその攻防は、政権交代へのカウントダウンの中で、より緊張度を増している。
トランプ氏のツイッターアカウントは、ツイッターによる停止表明から1日を経過しても、再開の気配は見えない(※その後、アカウント停止は解除され、ツイッターによる停止表明から24時間後の東部時間7日午後7時10分に、トランプ氏は暴力への批判と国民の団結を呼びかける2分41秒のスピーチ動画をツイートしている)。
これまでトランプ大統領の投稿の抑制には消極的だったフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、アカウントの無期限停止の可能性も表明している。
1月20日の新政権への移行まで2週間足らず。その間に何が起きるのか、それをどのように抑制することができるのか。
ソーシャルメディアの役割が、改めて問われることになる。
●トランプ氏に削除を要求
ツイッターの安全利用に関する公式アカウントは1月6日午後7時2分(東部時間、太平洋時間午後4時2分)、トランプ氏のツイッターアカウントを宛先に含めた「メンション」の形で、そんな異例のツイートをした。
ツイートは続いてこう述べる。
そして、トランプ氏の対応次第で、永続的な凍結の可能性があることにも言及している。
連保議会ではこの日、大統領選の結果を承認する手続きが行われていた。
トランプ大統領は同日昼過ぎ、ホワイトハウス前での支持者らへのスピーチでこう述べている。
トランプ支持者ら数千人が連邦議会前に集まり、議事堂に侵入したのは午後2時ごろ。
ジャーナリストのブレンダン・グーテンシュワッガー氏は、群衆が窓を割り、議事堂に乱入する様子の動画をツイッターに投稿している。
議事堂内にいたハフポストの記者、イゴール・ボビック氏は、その一連の様子を写真や動画つきでツイッターに投稿している。
トランプ氏の動画がツイッターに投稿されたのは、議会乱入から2時間ほどが過ぎた午後4時17分。
この中でトランプ氏は、こう呼びかけている。
1分2秒の動画では、「退去」の言葉こそ使っているが、コメントの大半は「不正選挙」との主張だ。
この動画、およびこれに先だつ「マイク・ペンスは我が国と憲法を守るために、なすべきことをする勇気がなかった」とペンス副大統領を批判するツイートと、動画と同趣旨の「不正選挙」を主張するツイート。
問題となったこの3件のツイートに対し、ツイッターは当初、「『不正選挙』の主張については議論の対象となっており、このツイートは暴力の危険があるため、リプライ、リツイート、いいねはできません」との警告ラベルを表示していた。
だがフェイスブック、ユーチューブの対応が先行する中で、最終的に、ツイートの削除要求と非表示化、そしてトランプ氏のアカウントのロック(一時的な停止)という判断にいたったようだ。
●フェイスブック、ユーチューブも
まずトランプ氏の動画削除に動いたのはフェイスブックだった。
トランプ氏の動画投稿から1時間半足らずの午後5時43分(東部時間、太平洋時間午後2時43分)、フェイスブック副社長のガイ・ローゼン氏もツイッターにこう投稿。公式ブログにも投稿し、トランプ氏の動画をフェイスブックとインスタグラムから削除したことを明らかにしている。
フェイスブックも、当初は選挙の正当性に関する警告ラベル表示で対応していた。だが後述のように、事態の深刻化につれて対応の不十分さを指摘する声も高まっていた。
フェイスブック広報のツイッターアカウントは、午後8時36分(東部時間、太平洋時間午後5時36分)、「2つの規則違反」があったとしてトランプ氏アカウントに24時間のブロックを行ったことを明らかにしている。
さらにザッカーバーグ氏は翌7日午前11時前(東部時間)、自身のフェイスブックで、トランプ氏のアカウントの無期限停止の可能性について述べている。
ヴァージなどの報道によれば、フェイスブックに続き、ユーチューブもトランプ氏の動画を削除している。
●アカウント停止を求める声
議事堂への乱入をめぐっては、トランプ氏の投稿へのソーシャルメディアの対応に、厳しい批判が集中。アカウント停止を求める声は高まっていた。
有力ユダヤ人団体「名誉棄損防止同盟(ADL)」CEOのジョナサン・グリーンブラット氏は午後3時20分(東部時間)、ツイッターCEOのジャック・ドーシー氏にこんなツイートを送っている。
ツイッターやインスタグラムへの投資で知られる著名投資家のクリス・サッカ氏は午後4時前(東部時間)、ツイッターのドーシー氏とフェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏の名前を挙げて、強い調子でこうツイートしている。
フェイスブックの最高セキュリティ責任者(CSO)だったアレックス・スタモス氏も午後4時半、サッカ氏に続いてこう指摘している。
●ソーシャルメディア上での組織化
ニューヨーク・タイムズのシーラ・フレンケル氏の報道によれば、議会に乱入したトランプ氏支持者らの組織化と連絡用に使われたのは、「ギャブ」が「パーラー」といった右派ユーザーの多いソーシャルメディア。
ツイッターやフェイスブックが有害コンテンツや関連アカウントの排除を強める中で、右派ユーザーの移行先として注目されてきたのが、「ギャブ」や「パーラー」だ。
支持者らの議会乱入から間もない午後2時24分、トランプ氏が、非表示の対象となった「(ペンス氏は)勇気がない」とのツイートをすると、「ペンスはどこだ」と支持者らが会話をする動画が「ギャブ」に投稿されていた、という。
ツイッターやフェイスブックでアナウンスをするトランプ氏と、それを受けて「ギャブ」「パーラー」で組織化と連絡を行う支持者ら、という構図が見えてくる。
●権力とソーシャルメディア
権力者の有害な情報発信に、ソーシャルメディアはどのように対処すべきか。
この4年間、繰り返しソーシャルメディアが問われ続け、試行錯誤を続けてきた問題だ。
ソーシャルメディア側が主張したのは、「政治家の発言の公益性」、そして言論の価値判断に踏み込むような「真実の裁定者にならない」ということだった。
ツイッターのドーシー氏も、フェイスブックのザッカーバーグ氏も、特に政治家の投稿の内容に踏み込む「真実の裁定者」の役割を担うことは繰り返し否定している。
ザッカーバーグ氏は、トランプ氏のアカウント停止延長の投稿で、これまで同氏の投稿について、許容する姿勢を取ってきたことについて、こう釈明している。
※参照:FacebookとTwitterがSNSをあえて「遅く」する(11/08/2020 新聞紙学的)
特に大統領選期間中の2020年5月末、「郵便投票は実質的な詐欺以外の何物でもない」としたトランプ氏のツイートに、ツイッターは「郵便投票についてのファクトはこちら」との警告文を表示。
これに対し、トランプ氏はプラットフォームのコンテンツに対する免責を定めた通信品位法230条の見直しを求める大統領令に署名。
さらに、ミネソタ州ミネアポリスで発生した暴動に関して、トランプ氏は「略奪が始まれば、銃撃が始まる」と発砲を示唆。
ツイッターはこれを警告ラベルで非表示とし、「表示」のリンクをクリックすることで閲覧可能とした。
※参照:SNS対権力:プラットフォームの「免責」がなぜ問題となるのか(05/30/2020 新聞紙学的)
大統領選最終盤の10月半ばには、トランプ氏支持のニューズ・コーポレーション傘下のタブロイド紙、ニューヨーク・ポストが、対立候補だったジョー・バイデン氏の「暴露ニュース」を掲載。
これに対して、ツイッターとフェイスブックは、それぞれ記事のリンクの表示を抑制。これが政治問題化し、11月にドーシー氏とザッカーバーグ氏が上院司法委員会の公聴会に呼ばれ、通信品位法230条の修正の機運がさらに高まる。
そして、今回の事態だ。
マサチューセッツ工科大学教授のシナン・アラル氏は6日夕、ヤフーファイナンスのインタビューで、こう述べている。
1月20日に政権は交代し、政治状況は変化する。
だが、ソーシャルメディアがコンテンツ管理で担うべき責任、そして権力との位置関係については、明確なコンセンサスもないままに、回り舞台だけが動く。
(※2021年1月8日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)