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【フランス代表】アントワーヌ・グリーズマン。「メッシ・クリスティアーノ時代」を打ち破る刺客。

森田泰史スポーツライター
チームの得点源であるグリーズマン(写真:ロイター/アフロ)

この4年間で、着実にステップアップしてきた選手だ。

アントワーヌ・グリーズマンはアトレティコ・マドリーとフランス代表で確実にゴールを重ね、エースの座を確立した。ディエゴ・シメオネ監督、ディディエ・デシャン監督は彼に絶大な信頼を寄せている。

■体格の問題

グリーズマンのキャリアは茨の道だった。中学生年代に差し掛かる頃、リヨンの下部組織に入団するためにトライアウトを受けたグリーズマンだが、小柄で線の細かった少年は体格面の問題でテストをパスできず。幼い頃からファンだったクラブでプロになる夢は早くも絶たれた。

リヨンだけではない。ソショー、サンテティエンヌ、メス、オセールと複数クラブがグリーズマンの入団を見送ったといわれている。オセールに至っては、将来的な身長を予測するために手首のレントゲン図が撮られ、その結果、不合格になった。

しかし、才能は数奇な運命を手繰り寄せる。13歳で、あるトーナメント戦に参加していたグリーズマンに、レアル・ソシエダが目を付けたのだ。

当時ソシエダで育成部門に従事していたエリック・オルハッツはグリーズマンを見て即座にロベルト・オラべ(現スポーツディレクター)に電話をかけたという。「彼は異彩を放っている」。こうして、少年の国外挑戦が決まった。

■移籍の噂

順調に成長したグリーズマンは2009年9月にトップデビューを飾る。2010年4月に念願のプロ契約を果たし、その後ソシエダの主力として活躍する。

すると2014年夏に、アトレティコ・マドリーがグリーズマン獲得に動く。移籍金3000万ユーロ(約39億円)で加入が決定した。

しかしながらアトレティコでは、度々ファンとの関係に亀裂が走った。今季のリーガエスパニョーラ第22節、本拠地ワンダ・メトロポリターノでのバレンシア戦では、1点リードで迎えたカウンターのチャンスの際、攻撃を望むファンに対してボールキープを優先したグリーズマンが人差し指を口にあて、「黙れ」と指図する場面があった。

グリーズマンとアトレティコファンの関係がギクシャクしている背景には、移籍の噂が絶えないという現状がある。昨年夏、マンチェスター・ユナイテッドがグリーズマン獲得に動いていた。グリーズマンは「移籍の可能性は10段階で言えば6」と退団をほのめかし、自クラブのファンをやきもきさせた。

最終的には、アトレティコがFIFAの処分で補強を禁止されていたこともあって、グリーズマンは残留を決めた。しかしシーズンが始まっても状況は変わらなかった。バルセロナのジョゼップ・マリア・バルトメウ会長は昨年10月にグリーズマンの代理人と接触。公の場でそれを認めており、選手への興味を隠そうとさえしていない。

だがグリーズマンはそうした重圧を乗り越え、ヨーロッパリーグ決勝マルセイユ戦で圧巻の2ゴール。アトレティコのタイトル獲得に貢献すると、アトレティコスは祝勝会の場で「グリーズマン、残ってくれ!」と連呼した。結果で周囲の喧騒を鎮め、移籍に関しては一時「休戦」となっている。

■メッシとクリスティアーノを追う

長く続いてきた、メッシ・クリスティアーノ時代ーー。

2008年以降、この10年、バロンドール賞とFIFAバロンドール賞を獲得したのは、バルセロナのリオネル・メッシ(アルゼンチン代表)とレアル・マドリーのクリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル代表)の2選手しかいない。

スペイン代表がワールドカップで優勝しても、バイエルン・ミュンヘンがチャンピオンズリーグを制覇しても、彼らの覇権は揺るがなかった。

グリーズマンは2016年にバロンドールの最終候補に残っている。彼が最もバロンドーラーに近づいたのは、間違いなくこの年だ。アトレティコがチャンピオンズリーグで決勝に進出。クラブ初のビッグイヤー獲得へと、周囲の期待は高まっていた。だが、グリーズマンはこの試合、1点ビハインドで迎えた47分にPKを失敗している。アトレティコはその後何とか追いつくも、PK戦の末に涙を呑んだ。

フットボールの世界に、「たられば」は存在しない。しかし、あの試合でグリーズマンがPKを成功させ、アトレティコが欧州の頂点に立っていたら、メッシ・クリスティアーノ時代の牙城が崩れていた可能性がある。

■フランスの自己矛盾

意外にも、前回のワールドカップが初出場だった。

だが、その2年後のEURO2016では、完全にフランスの得点源となっていた。6得点で大会得点王とMVPをダブル受賞。一方でフランスは決勝でポルトガルに敗れ、グリーズマンは「悲運のストライカー」に成り果てた。

多彩なゴールパターン。類を見ない決定力。正確な左足。プレースタイルは異なるが、そのエレガントな立ち姿はジネディーヌ・ジダンを彷彿させる。

先に挙げたように、グリーズマンは体格の問題でプロクラブに跳ねられた。それは当時、ジダン、パトリック・ヴィエラ、ティエリ・アンリなど大柄で技術に優れた選手が一線で活躍していたことと無関係ではないだろう。

しかし、今大会、フランス国民の期待は細身のアタッカーに託される。1998年大会以来のワールドカップ制覇、その中心にグリーズマンがいたとしたら、フランスにとってある種の自己矛盾を孕んだタイトル獲得となるかもしれない。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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