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やや苦戦→交代で采配的中。ジダンの「自作自演」でレアル・マドリードCL3連覇!

杉山茂樹スポーツライター
オリンピスキスタジアム(キエフ)Photo Shigeki SUGIYAMA

 レアル・マドリードがリバプールを3-1で下し、チャンピオンズリーグ(CL)史上初の3連覇を達成した。

 下馬評で上回っていたチームが順当に勝利した一戦といえば、それまでだが、展開的には波乱に富んだ目の離せない試合だった。

 リバプールは前半31分、右ウイングを務めるチームのエース、モハメド・サラーが故障で退場。下馬評の”弱者”はこれ以上ない痛手を被った。レアル・マドリードの一方的な展開になってもおかしくない状況に陥ったが、そうならないのがサッカーの面白いところ。レアル・マドリードはサラーがベンチに下がった後も、苦しい展開を強いられた。

 想起したのは昨季の決勝戦、ユベントス戦だ。うりふたつの展開だった。レアル・マドリードが先制するも、ユーベは即、同点に追いつく。今季もレアル・マドリードが先制し、リバプールがすぐに追いついて試合はもつれそうなムードになった。

 レアル・マドリードはスタメン、そして布陣も昨季と同じだった。珍しい話だ。前線にクリスティアーノ・ロナウド、カリム・ベンゼマを置き、その下にイスコを配す中盤ダイヤモンド型4-4-2。2トップと2トップ下の3人は、間隔が狭くならないように気をつけていたが、この布陣の問題はサイド攻撃が決まりにくいことだ。

 サイドバックにボールが渡っても、その前方に誰かが必ず構えているわけではないので、ボールはライン際を進んで行きにくい。早い段階で真ん中に入る。奪われる場所として、真ん中はサイドより危険だ。高度な技術の持ち主であるイスコを真ん中に置いても、そのリスクは解消されない。パスは円滑に回らない。この布陣を用いたレアル・マドリードが、うまく試合を進めたことは希だ。しかし、ジネディーヌ・ジダン監督はなぜかこの布陣に固執する。わざわざ苦戦の原因を作り出している。

 イスコがピッチを去り、交代でサイドアタッカーが投入されると、問題はまさに雲散霧消する。これが毎度のパターンだ。昨シーズンの決勝に限った話ではない。中盤ダイヤモンド型4-4-2より、サイドアタッカーが投入され、4-3-3や中盤フラット型4-4-2になった方が、レアル・マドリードのサッカーは断然、円滑になる。

 この決勝戦。イスコと入れ替わりでガレス・ベイルが投入され、布陣が4-3-3になったのは後半16分。スコアはそのとき1-1だった。

 レアル・マドリードは後半6分、ベンゼマがリバプールGKロリス・カリウスのフィードミスを引っかけ、あっけないゴールで先制した。

 さすがにこのままで終わったら、試合は締まらない。リバプールの反撃に期待すると、その4分後、期待通り、コーナーキックをデヤン・ロブレンが頭で落としたボールに対し、サディオ・マネがコースを変えゴールに流し込む。

 ジダンがイスコを諦め、中盤ダイヤモンド型4-4-2を断念したのは、同点に追いつかれたこのタイミングだった。ジダンにも自覚はあるのだろう。引っ張りすぎることはない。傷が深くなる前にあっさり変える。

 スコアは1-1。エースが故障でリタイアしたリバプールに対し、万全の態勢を整えることになったレアル・マドリード。その差がスコアになって表れたのは、ベイル投入のわずか4分後だった。

 確かベイルはそれまでの間に、1度しかボールを触っていなかった。問題のシーンは2タッチ目の出来事だったと記憶する。左サイドでボールを受けたマルセロはそれを持ち直し、軽く切り返すと、利き足とは逆の右足で柔らかいボールを中央に送り込んだ。

 オーバーヘッドシュートといえば、今季のCL準々決勝対ユーベ戦でクリスティアーノ・ロナウドが叩き込んだ一撃を思い出すが、ここで見せたベイルの一発は、それ以上に完成度が高い、まさに芸術品だった。一瞬、ふわりと身体を浮かせると、滑らかな身のこなしから、左足を巻くようにシャープに振り抜いた。

 CL決勝で披露されたスーパーゴールとして知られるのは、2001~02シーズン決勝、レアル・マドリード対レバークーゼン戦のジダンのボレーだが、このベイルのバイシクルシュートは、まさに監督を超える一撃だった。

 このベイルのシュートこそ、この決勝戦最大の見どころになる。ベイルは後半38分にも、リバプールGKカリウスのファンブルを誘うミドルシュートを決め、この試合のマンオブザマッチ(MOM)に選ばれた。交代選手がここまで図ったように活躍する試合も珍しい。監督の采配的中とは、まさにこのことだ。

 とはいえ、繰り返すが、スタメンと布陣を決め、前半の悪い流れを作っているのも監督だ。ベイル、そしてこの日、交代出場を果たしたマルコ・アセンシオ、ルーカス・バスケスといったスペイン代表クラスのサイドアタッカーを揃えているにもかかわらず。

 先発の判断を誤り、交代選手を的中させる。これではまさに自作自演だ。ジダンはこれを繰り返しながら、これまで大きなヤマを乗り切ってきた。メンバーが豊富だからこそできる芸当だ。多少、回り道になっても、チームはこの方が回るのかもしれない。

 とはいえ、MOMに輝いたベイルは来季、レアル・マドリードにはいないだろうといわれている。アセンシオ、ルーカス・バスケスは控えに回されても問題ないかもしれないが、彼らより選手としてのランクが高いベイルクラスになると、常時出場は譲れない一線になる。

 だが、ベイル以外はうまくいっている。決勝戦のスタメンが2年続けて同じだと述べたが、それでいながら思いのほかチームは健康的なのだ。そこにネイマールが加わるのか否か、いまのところ定かではないが、この顔ぶれを見る限り、もう1年ぐらいはいけそうなムードが漂う。

 3連覇はCLでは初めてながら、チャンピオンズカップ時代に遡ると、1970~71、71~72、72~73を制したアヤックスと、1973~74、74~75、75~76を制したバイエルンの2チームが存在する。

 しかし、レアル・マドリードはチャンピオンズカップ草創期に1955~56から5連覇という偉業を達成しているので、ライバルはもはや自分自身になる。

 サラーを途中で欠き、そしてGKミスが2本連続するというまさに三重苦が続けば、リバプールには、ジダンが少々、采配ミスを犯しても勝ち目はない。1-3でも大善戦。0-1から同点に追いついた瞬間は、さすがリバプールと、拍手を送りたくなったものだ。来季の捲土重来(けんどちょうらい)を期待したい。

(集英社 webSportiva 5月27日掲載原稿に一部加筆)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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