Wikileaksが暴露した大筋合意版TPP条文(著作権関連)を分析する
ようやくTPP(環太平洋パートナーシップ協定)が大筋合意となりました(参考ニュース記事)。どのような条文案で大筋合意になったのかは相変わらず非公開ですが、内閣官房が概要を公開しています。
上記資料での著作権関係の内容は以下のようになっています。
基本的に今まで予想されていたことと大きな違いはありません。注目すべきは以前にWikileaksが暴露した条文案から予測されたように、著作権侵害罪の非親告罪化に関して「商業的規模」という条件、および、「市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない」という条件がちゃんと入った点です(参照過去記事)。コミケ等で流通している良質なパロディ作品は非親告罪化の対象にしなくてもよいという点が一応担保されたのは喜ばしい限りです。
この概要資料だけでははっきりしない点もあるのですが、例によってWikileaksが10月5時点での条文案を公開しているので条文レベルでも検討してみましょう。以下、上記の概要資料に追加すべき点について書きます。
1)著作権保護期間の延長について
基本的に上記の概要資料に書いてあるとおりです(著作権保護期間延長についての過去の分析記事)。
なお、Article QQ.G.8において、ベルヌ条約の18条に従うことを求められており、ベルヌ条約18条には「従来認められていた保護期間の満了により保護が要求される同盟国において公共のものとなった著作物は、その国において新たに保護されることはない」と規定されていますので。いったん日本においてパブリックドメインとなった著作物が保護期間延長により、また保護対象になる(パブリックドメインではなくなる)ということはないと思われます。
2)著作権侵害罪の非親告罪化について
刑事罰の要件についてはArticle QQ.H.7(1)等に規定されています。「商業的規模」または「権利者の市場での利益に大きな影響を与える場合」には刑事罰を規定せよと書いてあります。
(日本で言うところの)非親告罪化についてはArticle QQ.H.7(6)(g)に規定されています。上記の刑事罰については、権利者や私人の告訴なしでも訴追できるようにしなければならないと書いてあります。
さらに注144において、この非親告罪化は「商業的規模でかつ権利者の市場での収益性に影響を与える場合に限る」とすることができると念押しされています(このあたりは日本サイドががんばって交渉してくれた結果ではないかと思います)。
なお、細かい話ですが、TPP上は商業的規模または市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合は刑事罰を適用しなければならず、そして、その刑事罰は非親告罪でなければならないと書いています。なので、商業的規模でもなく、原著作物等の収益性に大きな影響を与えない時には刑事罰を適用しない(つまり、軽微な著作権侵害はそもそも刑事罰を適用しない)という国内法を作ってもTPPには違反しません(米国の著作権法はそういう規定です)。もちろん、だからといって日本が著作権法の(元々の親告罪の)刑事罰規定を改正することは考えにくいですが。
長くなったので法定損害賠償制度についてはまた後日。
もちろん、上記は大筋合意ですから、これから発効までの間に変更される可能性は十分にあり得ます(米国大統領選の流れ次第では仕切り直しになる可能性もないわけではないでしょう)。また、国内法は協定の強行規定に反しない限り自由に決められますから、日本の著作権法をどうするかは今後の重要課題です。特に、上記の「市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与る場合」(the cases where there is an impact on the right holder’s ability to exploit the work in the market)という条件を国内の著作権法でどう規定するかは非常に重要な論点です。