新型コロナ 時間差でやってくる「免疫性肺炎」に注意
新型コロナが「5類感染症」に移行してから1年以上が経過しました。若い人にとってはインフルエンザと同じような症状で済みますが、それを差し引いてもインフルエンザより肺炎の頻度が高いことから、全国的に入院患者数が増えています。発症後しばらくして、時間差の「免疫性肺炎」を起こす事例が増えています。
新型コロナが、なぜいまだ問題なのか?
現在、1週間で約4万人が新たに新型コロナを発症しています。そのうち、入院を要するのはごく一部で、約2,300人です(図1)。これが3,000人や4,000人を超えてくると医療が逼迫しうる水準になります。沖縄県を含む九州地方の一部地域では、すでに医療が逼迫し始めているようです。
『インフルエンザと同じ「5類感染症」になったのに、なぜいまだ問題になるのか?』とよく聞かれます。
これは、明確にインフルエンザよりも入院リスクが高いためです。
私たち医療従事者は、元気な人を入院させることはありません。「外来管理ではまずい」という患者さんに入院いただいています。その率が、インフルエンザよりもまだ高い現状なのです。
とはいえ、猛威をふるったデルタ株などの時期に比べると、ワクチン接種などもすすみ、幾分ましになりました。2021年は重症肺炎の患者さんが多く、入院する人をトリアージ(選別)せざるを得ない「医療災害」でした。
元気な若年層にとっては新型コロナの毒性は弱いです。ただの風邪と考えてもらっても問題ありません。
しかし、総合病院などでは、抗がん薬を使っている患者さんや、寝たきりの高齢者や、手術を受けた患者さんなど、多くの医学的弱者が暮らしています。そんな方々に感染を広げるわけにはいかないため、原則、新型コロナは個室隔離になります。やむなく大部屋に入っていただくこともありますが、リスクが高い人の隣に新型コロナ肺炎の人が入院してくるような事態は、できるだけ避ける必要があります。
なぜ肺炎は遅れてやってくるのか
新型コロナの主症状は、コロナ禍で多くの人が経験したように、発熱、のどの痛み、鼻水、咳などです。大きな病院の医療従事者が診ているのは、新型コロナで肺炎を起こした患者さんです。
高齢者、糖尿病、肥満の3つのどれかに当てはまる人が新型コロナで入院する場合、左右両方に肺炎があることが多いです。
この左右両方というのが重要な分水嶺(ぶんすいれい)になります(図2)。片方の肺に肺炎を起こしても、なんとか自宅で療養できる人も多いのですが、左右両方やられてしまうと、ずっと水に溺れているようなもので、酸素投与が必要になることが多いです。
新型コロナ肺炎は、発症後しばらくしてから出てくることも多いです。典型的なパターンは、「新型コロナが治ると思っていた矢先、1週間後に肺炎で救急搬送」というものです。
なぜこのような「時間差」が生じるかというと、ウイルスが直接肺を傷害する「ウイルス性肺炎」のあとに、「頑張ってやっつけないと!」とヒトの身体が頑張って炎症を起こそうとする「免疫性肺炎」を起こすためです(2)。
この「免疫性肺炎」というのは、発症後1~2週間でやってきますが、経験上、割とキツめの肺炎を起こします。体のウイルス自体は減っているのに、「根こそぎやっつけるぞ」と身体が頑張ってくれているのです(図3)。
個々に感染対策を
この猛暑でマスクをするのは現実的ではないと思いますので、場面ごとに個々がその感染対策を判断するくらいの位置づけでよいでしょう。
発熱やのどの痛みなどで発症することが多く、風邪かなと思っていたら新型コロナだったということはよくあるので、その際は周囲に配慮した行動を心がけましょう。
(参考)
(1) 厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況)2024年(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00461.html)
(2) 日本呼吸器学会. COVID-19 FAQ広場. (https://www.jrs.or.jp/covid19/faq/epidemiology/20210311150805.html)
(3) Cevik M, et al. BMJ. 2020 Oct 23:371:m3862.