実子5人を売り飛ばし300万円を稼いだ父親。中国の児童売買の根深さ
中国では、頻発する児童誘拐と人身売買が今、改めて注目されている。そうした中、自分の子供5人を次から次へと他人に売り飛ばし、日本円で300万円以上の“売り上げ”をあげていた父親の犯罪が明らかになり、問題の根深さを印象づけた。
子供の値段が一人35万円から140万円?
この事件は、河北省蔚県の裁判所が、近日、判決を出した裁判として先月11月26日にHP上で明かしたもの。それを複数の中国メディアが報じた。
裁判所の発表によれば、楊という名の被告が、2012年から2020年までの8年間で、妻との間に授かった5人の子供を次々と他人に売り渡したという。売り値は、一人当たり2万元から8万元。現在のレートでは、日本円で約35万円から142万円になる。
楊本人の供述によれば、合わせて約18万元(約320万円)の利益を得たという。
実の子供5人を次々と"売却”
売った子供は、男の子2人と女の子3人で、上から女、男、女、女、男。このうち、上から2番目の男の子は、妻が出産で入院していた際の、同室だった患者を通じて別人に売ったという。他の4人の子は、李という名の人物を通じて売り捌き、子供の父親である楊はこの李に、1000元(約1万8000円)から2000元(約3万6000円)程度の“紹介料”を支払っていたという。
驚きの“構図”はさらに続く。
家族ぐるみの人身売買
この李という人物が、いわば楊の子供たちを売り捌くブローカーとしての役割を担っていたわけだが、犯罪には更に李の実の息子の妻である段という女が関わる。つまり、舅(しゅうと)である李から見れば、嫁という家族の一員である。
李は、楊の子供たちを売りに行くに際し、その段という女に、子供たちの母親の振りをさせたという。そして段は、取引が成立した暁には、子供たちの実の父親である楊と、子供を買い取った側の双方から、紹介料を得ていた。
段本人の供述によれば、合わせて1400元(約2万5000円)を得ていたという。
河北省蔚県の裁判所は、実の子5人を売り飛ばした楊に対し、児童誘拐・売却罪で懲役10年と罰金1万5千元(約27万円)、政治的権利剥奪2年の判決を言い渡した。また、ブローカーの役割を担った李に対し、懲役7年と罰金1万元(約18万円)、子供たちの母親役を演じた段に対して懲役1年9か月と罰金5千元(約9万円)などの判決を言い渡した。
14年ぶりの誘拐解決
裁判所が先月すでに発表していた上の事案を、中国メディアが今、注目したのには訳がある。先週12月6日、14年前に誘拐された子供が見つかり実の親と再会できた、という大きなニュースがあったからだ。
その親とは、4歳で誘拐された息子を探すために中国各地を歩き回り、情報を求め続けた男性。中国では彼をモデルにした映画が作られ、広く感動と同情を呼んだ。いわば児童誘拐の被害者の象徴的な存在だった人物の再会劇だった。その男性のケースを含め、警察が3つの児童誘拐、いずれも10年越しで未解決だった事件を同時に解決したという事情もあった。
そのため、中国メディアは連日、続報を流しており、今一度、中国における児童誘拐・売買の問題をクローズアップしているのだ。
児童誘拐の闇の深さ
時間がかかり過ぎたとはいえ、警察の頑張りには賛辞を惜しまないが、10年越しの3つの事件の解決で、中国における児童誘拐・売買の問題の根の深さも明るみに出てしまった。
それは、実の親たちの元から連れ去られた子供たちが、その後育てられていたのは、子供を誘拐した実行犯の親戚や、実行犯の親戚から紹介された家庭だったという陰鬱な事実だった。
中国の、特に一部の農村では「家を継ぐのは男の子」や「子供が多ければ多いほど良い」という観念が今も根強く残る。その結果、児童誘拐や売買が、現代の日本では考えられないほど頻発する。
先に触れた父親が5人の実子を売り飛ばした事件を、裁判所がHP上で紹介した文章のタイトルは「実の子を売れば、何の罪になるのか?」。
裁判所が、異例にも事件の詳細を紹介したのは啓蒙が目的と見られるが、中国における児童誘拐の問題は、それほどまでに根深い。