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金沢に行くべき?行かないべき?~宿泊・飲食サービス業、食品製造業が大きな存在

中村智彦神戸国際大学経済学部教授
連休中には観光客が戻ってきた。金沢・ひがし茶屋街(画像・筆者撮影)

「来てほしいけれど、大きな声では言えない雰囲気」

 「連休に入って、観光客が戻ってきて、ホッとしているところです。まだ、以前のようでないけれど。ただ、来てほしいけれど、大きな声では言えない雰囲気ですよね。」

 金沢市内の飲食店経営者は、そのように複雑な思いを説明します。

 「金沢市内の中心部では、震災の影響もほとんど見られませんが、郊外に少しでると道路なども被害が出ていますからねえ。しかし、観光客にも来てもらわないと私たちの経営も持ちませんから。」

 JR西日本が、2月末に北陸新幹線金沢敦賀間開業のCM「つながる北陸」編をテレビやネットで流すと、ネット上などで批判の声が起きました。金沢市内やその周辺のホテルや旅館には、復興支援の関係者やボランティアが宿泊し、空き室がないのに、観光客を誘致するのはいかがなものかという意見も出されていました。しかし、情勢は日々変化しています。

 「1月の直後は、そうでしたが、2月に入って、うちのホテルでも空室が目立っています。金沢市内だけではなく、加賀温泉郷の旅館関係者と話しても、このまま自粛の雰囲気が続くのは困るなあと。」

 金沢市内のホテル従業員は、そう話します。ホテルの予約サイトを見ても、例年だと、卒業旅行などで混みあう3月後半の春分の日の前後でも、まだ空室が目立っています。

 観光庁は、3月8日からは「令和6年能登半島地震」の影響により落ち込んだ福井県・石川県・富山県・新潟県の観光需要を回復するため、交通付き旅行商品や宿泊代金を最大50%割引支援するという施策が開始されます。もちろん、「時期尚早」との批判の声もあります。しかし、石川県は北陸三県の中でも宿泊・飲食サービス業のGDPが特化しており、観光産業の経済への影響は大です。「観光産業は、宿泊、運輸、飲食と幅広く、さらに農林水産、食品加工などにも経済波及効果が大きいので、時期尚早との批判も判りますが、観光客に戻ってきてもらわないと、地域の経済が沈滞します」と、石川県内のある自治体職員は話します。

石川県は全国平均と比較しても「宿泊・飲食サービス業」への特化が目立つ。
石川県は全国平均と比較しても「宿泊・飲食サービス業」への特化が目立つ。

戻り始めている観光客

 2月23日からの3連休の金沢市には、観光客の姿が戻り始めていました。金沢の観光名所である近江町市場には、多くの観光客が買い物を楽しんでいました。

 「まだ、震災前の人出ではないけれど、1月に比べるとやっと観光客が戻ってきた感じがします。ただ、あれほどいた外国人観光客は全く姿を消してしまいましたねえ」と、土産物店の従業員は話します。

 金沢市内では、外国人観光客向けに町家やビルなどを改築した宿泊施設が増加していた。外国人観光客の減少は、こうした宿泊施設への影響も大きいようです。

 「能登半島は、海産物はもちろん能登牛や能登金時などの能登野菜の産地です。うちの店でも、能登の産品は人気のメニューだったので、今後の供給がどうなるのか。知り合いも能登半島に多くいますし、これからが心配です」と、飲食店経営者は話します。

 能登半島は、ナマコ(海鼠)の産地として古くから有名です。そのナマコのわた(腸)が「このわた」です。また、ナマコの生殖巣を「このこ」あるいは、「くちこ」と呼び、これを拡げて乾燥させたものを形から「ばちこ」と呼びます。これらは、あまり採れない上に、加工が難しく、これまでも珍味中の珍味と言われてきました。「割烹店や小料理屋などでも人気があります。長い歴史のある食べ物ですし、食文化の伝承という面でも、復興して欲しいですね」と、この経営者は言います。

 金沢市内では、飲食店やスーパーなどでも能登半島の産品を購入しようという呼びかけを多く見かけました。しかし、被害の深刻さと復興の長期化から、産品などの供給問題を懸念する意見も多く耳にしました。

金沢の観光名所・近江町市場も観光客で賑わっていた。2023年2月24日。(画像・筆者撮影)
金沢の観光名所・近江町市場も観光客で賑わっていた。2023年2月24日。(画像・筆者撮影)

旅行による支出は地域経済に大きな影響を与える

 石川県の産業を部門別にみると、食料品製造業は繊維産業とほぼ同程度の規模を持っていることが判ります。2020年の段階ですが、約1万3千人が働く県内で大きな産業だといえます。

 日本人国内旅行の1人1回当たり旅行支出(旅行単価)*1は、4万3,995円です。また、宿泊旅行が6万3,212円、日帰り旅行が1万9,023円と、観光客による消費額は非常に大きく、地域経済に大きな影響を与えます。

 石川県においては、宿泊・飲食サービス業、食品製造業が大きな存在であることは見てきた通りです。旅行に行かずに、被災地の商品などを購入する支援方法も重要です。しかし、それだけでは震災後の復興を軌道に乗せていくことは難しいことも確かです。

 震災被害が深刻で、観光客を受け入れる態勢が整わない地域もあります。こうした地域に、不用意に立ち入らないようにすることは、もちろんです。しかし、金沢市のように観光客の受け入れ態勢が整っている地域に関しては、必要以上の自粛を行う必要はないと思われます。

食料品製造産業では、1万人以上が働く。
食料品製造産業では、1万人以上が働く。

*1 国土交通省、『旅行・観光消費動向調査2023年年間値(速報)』

神戸国際大学経済学部教授

1964年生。上智大学卒業後、タイ国際航空、PHP総合研究所を経て、大阪府立産業開発研究所国際調査室研究員として勤務。2000年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程を修了(学術博士号取得)。その後、日本福祉大学経済学部助教授を経て、神戸国際大学経済学部教授。関西大学商学部非常勤講師、愛知工科大学非常勤講師、総務省地域力創造アドバイザー、京都府の公設試の在り方検討委員会委員、東京都北区産業活性化ビジョン策定委員会委員、向日市ふるさと創生計画委員会委員長などの役職を務める。営業、総務、経理、海外駐在を経験、公務員時代に経済調査を担当。企業経営者や自治体へのアドバイス、プロジェクトの運営を担う。

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