鬼怒川温泉の廃墟ホテル~固定資産税都市計画税の額と、課税の問題点と解決策を探る(後編)
■現地の廃墟ホテルに行ってみた
さて、前編では市役所で見解を伺いましたが、いよいよ現地です。
日光市役所最寄りの下今市駅から、東武鬼怒川線のローカル列車で25分ほど揺られて鬼怒川公園駅に着きました。
バブル期はすごかったのでしょうが、現状は、例えば箱根湯本や熱海ほどの賑わいはありません。「大都市からの直通特急がない温泉の駅」ほどではないものの、やや閑散としています。
目につく範囲で廃墟はいくつかありますが、そのうちの一つの立入禁止エリア外側まで行ってみました。
現状は、写真の通り、ロープで囲われてはいるものの不法侵入者もいて、防犯カメラがとりつけられています。
「歓迎」とある看板が、逆にさみしさを醸し出しています。また、ある建物は看板が一部だけ取り残されていて、それが逆にうらぶれた感を出しています(写真は前編参照)。
筆者が訪問した2022年1月13日は雪が舞っており、廃墟ホテルにも降り積もり始めています。
■なぜ解体しないのか?
建物の解体費用は、業者や建物の状況、場合によっては有害物質処理の負担等もあったりするので一概には語れませんが、鉄筋コンクリート造のホテルとの点に配慮しつつ一般的水準に基づき仮に「有害物質等がなく、かつ、がけ地でないとしての想定」で延べ面積あたり25,000円/平米とすると、下記になります。
9,105.66平米(登記簿上の建物の各階の床面積合計)×25,000円/→約2.3億円
もっとも、建物が河川沿いのがけ地にあるため、その負担が大きいと思われます。しかも、報道によるとアスベストもあるようであり、有害物質の処理がある場合は更に負担がかさむことに。このため、実際の解体費用は例えば5~10億円以上であってもおかしくないと個人的には考えています。
一方で、土地価格は、固定資産税評価額ベースでは前編で述べた通り、概算でわずか39百万円程度です。
つまり、数億円の解体費用をかけて得られる更地の価値があまりにも少額のため、解体する気にならないのです。しかも、ホテルという特殊用途の上に老朽化も進行しているため現況建物を継続使用しようとする人も現れにくい。このために、「この不動産を購入して有効活用しよう」という買い手が現れない結果となるのです。
であれば、仮に金融機関の返済等の資金繰りの問題がない場合においても、毎年の固定資産税等の毎年400万円以上(算定根拠は前編参照)の負担は甘受しても、放置している方が当面はマシとの結果となります。
実はこの手の話は鬼怒川温泉に限らず、全国の地価が低い地方の「解体してまで更地を得る価値がない」老朽化した大規模建物に起きている話で、荒廃した建物がはびこる一因となっているのです。
■どういう制度を社会的に構築していくべきか
ここからは個人的見解を述べたいと思います。
実は、建物の固定資産税評価額は、建物が古いほど低くなり、耐用年数満了以後の年は新築時の固定資産税価格の20%評価となります。ただし、固定資産税の世界での建物新築価格は市場価格の概ね半額程度で査定されるので、市場での新築価格との比較では20%×5割(半額)で概ね1割程度です。
つまり古いほど、建物の固定資産税等の額も低くなり、耐用年数満了後は低水準で落ち着くのです。
たしかに担税力に応じた課税という課税当局側が依拠したがる税制の思考を考えると、この考え方は理解できなくはありません。
しかし、社会一般において、「放置していても建物が古いために大した税額負担ではない」ことが原因となって所有者が取壊し費用をかけてまで解体をせず、荒廃した建物がはびこる実態があります。
また、仮に現況で利用中であったとしても古い建物の場合、老朽化による周辺環境の安全性に悪影響を及ぼす問題もあるでしょう。
つまり、既存の税制には、「建物が古いこと等の理由でその不動産が周囲に及ぼす迷惑料」が考慮されていない点がこの問題の根幹と言えるのではないでしょうか。
個人的には、これを一律に解決する手法として、地方税法の改正等を通じて「空き家や、歴史的価値がなく耐用年数満了後一定年数を経過したリフォームがなされていない建物を含む不動産については、固定資産税都市計画税を割り増しする」制度の構築が望ましいと考えています。
すなわち、「放置した不動産や古い建物の不動産は税負担がむしろ強化される」のであれば、ある程度は建て替えられない古い建物や荒廃した建物の発生の制御にはなるでしょう。また、地域においても昔の建物がなくなるため、周辺環境の安全性向上にも寄与します。
しかも、割り増し分で行政による既存の建物の解体費用に充当できる場合もあるというメリットも指摘できます。
このケースも「日光市の財政が厳しいため解体費用を捻出できない」ことが廃墟ホテル放置の一因となっていますが、割り増し分を行政に解体費用としてプールできれば、行政による不適切な建物の解体が進めやすくなり、所有者の同意等の法的な問題は残るものの財務的な観点では一つの解決策にできます。
■最後に
現地に行ってみて感じたのは、報道では廃墟ホテルが強調されていますが、鬼怒川温泉郷の中でも廃墟ホテルは一部で、コロナ禍でも健全なホテルや土産物屋等は頑張って稼働しています。たまたま筆者が訪れたのは1月中旬の雪の降る平日という閑散期で人出は少なかったものの、温泉地として捨てたものではありません。
また、東武鉄道がSLを走らせたり、2月の土日には無料でフリーパスを配布する等、いろいろな試みもしているようです。
それだけに、頑張って営業しているホテルやその他観光業者から見て、荒廃したホテルの存在は迷惑でしかないでしょう。
とくに建物を解体してまで得られる土地の価値が少ない地方においては、解体費用を建物が現役である間から公共においてプールしておくことは必須と言えるのではないでしょうか。ひいてはそれが全国各地の地方創生に繋がるとも言えます。
この記事も一つの意見として、社会全体として、考える機会にしていただければと思います。
※この記事の写真はすべて公道もしくは駅構内の安全かつ適切な範囲から筆者が撮影しており、筆者は不法侵入はしていません。
なお、これらの写真はこの記事からの抜粋である旨を明示して頂ければ、自由にお使いいただいて構いません。