「消費税は社会保障に使われていない」はミスリード。社会保障給付費の総額は消費税導入時と比べて約3倍に
参議院選挙が公示され、消費税についての議論が増えてきました。そのなかで、「消費税は社会保障に使われていない。国民の負担は増えている」といった話が拡散していますが、これはミスリードです。
国民の負担が増えているのは事実
「消費税は社会保障に使われていない」論は大きくわけてふたつの流れがあります。ひとつは「法人税の穴埋めに使われている」で、もうひとつは「国民の負担は増えている(社会保障は削られている)」です。
この記事では後者の「国民の負担は増えている(社会保障は削られている)」について取り上げます。
国民の負担が増えている証拠として、以下の3つの画像がよく拡散されています。
たしかにこれらの比較を見ると、消費税の導入前後と比べて国民の負担は増えています。「消費税は社会保障に使われていない」と思ってしまうかもしれません。
しかし、それはミスリードです。
なぜなら、国民に対して支払われている社会保障給付費の総額は増え続けているからです。
2022年の社会保障給付費は131.1兆円。1990年当時の47.4兆円と比べて3倍近くに
こちらは厚生労働省が公開している社会保障給付費の推移です。
社会保障給付費には年金、医療、福祉その他(介護、子供、子育て向け予算を含む)が含まれています。
消費税が導入されたのは1989年です。その翌年の1990年の社会保障給付費の総額は47.4兆円となっています。
対して2022年現在は予算ベースで社会保障給付費の総額は131.1兆円と、1990年と比較して約2.77倍。つまり3倍近くになっています。
国民に支払われる社会保障給付費の総額が1990年と変わらないのであれば負担が増えているのはおかしいでしょうが、あのときよりも国民に支払われる金額は増えているのです。
これを家庭に置き換えるのであれば、上述の画像を使った「消費税は社会保障に使われていない」という主張は、「家族2人のときは生活費はこれだけだった。なのに、家族が増えて6人になったら生活費が上がるのはおかしい!」と言っているようなものです。
この説明をせずに「消費税は社会保障に使われていない」と主張するのは、ミスリードであると言えます。
消費税を廃止しても負担は軽くならない
「消費税は社会保障に使われていない」をミスリードだと取り上げる理由は、消費税を廃止して法人税を上げたり、所得税を上げたりしても負担は軽くならないことを知って欲しいからです。
消費税を下げた(なくした)分を法人税と所得税で補ったとしても、医療費の自己負担額も、年金保険料も、受け取る年金もいまと同じです。社会保障給付費に使えるお金を増やさない限り、負担は軽くなりません。
もっと法人税と所得税を上げるのか、国債を増やすのか、軍事費を減らすのか(と言っても日本の軍事費は5兆円ですが)、その説明をきちんと国民に対して行っており、その内容に納得できる候補者や政党に票を投じるべきだと筆者は考えます。
ちなみに法人税と所得税のみで社会保障給付費を賄う場合、それは現役世代のみで高齢者を支えるということです。
「現役世代、何人で高齢者を支えるか?」といった話を耳にしたことがあると思いますが、消費税は働いていない子供や高齢者にも社会保障を負担してもらうため、ある意味で公平な税金です。
もちろん、その消費税が私たちの暮らしを苦しくしているとも言えます。
消費税は社会保障に使われています。しかし、高齢化が進む日本では今後も年金と医療費は増加するとみられています。そんななか、誰がそれを負担するのか?
「消費税は社会保障に使われていない」というミスリードに騙されることなく、増え続ける社会保障給付費への対策を語る候補者の話に耳を傾けましょう。