アル=カーイダによるアレッポ市制圧に乗じて、トルコが支援する反体制派、米軍、イスラエルもシリアを攻撃
「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が主導する「攻撃抑止」軍事作戦局が11月27日にシリア政府の支配下にあったアレッポ県西部、イドリブ県南東部への大規模侵攻を開始して、5日が経った。
イスラエルとレバノンのヒズブッラーの停戦合意発効(11日27日午前4時)直後に開始された侵攻により、意表を突かれたシリア軍、ロシア軍、「イランの民兵」は劣勢を強いられ、後退を余儀なくされた。
戦略的撤退
シリア軍武装部隊総司令部は11月30日午後12時38分、国防省のフェイスブックの公式アカウントを通じて以下の通り声明を出し、「イランの民兵」とともに戦略的撤退を行ったことを認めた。
英国を拠点とする反体制派系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア軍もまた11月28日の段階で、アレッポ県のタッル・リフアト市、マンナグ航空基地に駐留させていた部隊(憲兵隊)を撤退させていた。
アル=カーイダによるアレッポ市掌握
かくして「攻撃抑止」軍事作戦局は、11月28日にはシリア最大の商業都市であるアレッポ市に到達、30日には市内の大部分、そしてアレッポ国際空港を掌握した。また、イドリブ県でも、シリア軍が撤退したことを受けて、アレッポ市と首都ダマスカスを結ぶM5高速道路沿線のマアッラト・ヌウマーン市、ハーン・シャイフーン市、そして県東部の要衝で航空基地が併設されているアブー・ズフール町を手中に収めた。
アレッポ市の事実上の制圧を受けて、「攻撃抑止」軍事作戦局を主導するシャーム解放機構指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーは11月30日午後9時21分、ジャウラーニー指導者に以下の声明を出し、民間人に危害を加えないよう指示した。
ハマー県にも侵攻か?
「攻撃抑止」軍事作戦局は、テレグラムに解説した専用アカウントを通じて、ハマー県への進攻を開始したと発表、インターネットやSNSでは、反体制活動家やその支持者らが、ハマー市に駐留するシリア軍部隊が撤退を始めたといった情報を拡散した。
これに対して、シリアの国防省は11月30日午後8時53分に声明を出し、一連の情報を否定した。
シリアの国防省はまた午後11時33分にも以下の声明を出し、偽情報に惑わされないよう国民に呼びかけた。
「自由の暁」作戦
アレッポ市の事実上の喪失という痛手を負ったシリアへの追い打ちはこれに留まらなかった。
11月30日午前11時33分、トルコの占領下にあるシリア北部で活動するシリア国民軍が「自由の暁」と銘打った軍事作戦を開始すると発表したのだ。
「トルコの支援を受けるシリア国民軍」(Turkish-backed Free Syrian Army)として知られるシリア国民軍は、テレグラムに新たに開設した専用のアカウントを通じて、この作戦が、シリア政府、クルド民族主義組織でトルコが「分離主義テロリスト」とみなすクルディスタン労働者党(PKK)の系譜を汲む民主統一党(PYD)の民兵と目される人民防衛隊(YPG)、そして同隊を主体とし、米主導の有志連合のイスラーム国に対する「テロとの戦い」における協力部隊であるシリア民主軍によって奪われた地域の解放を目的とすると表明した。
この発表の数時間後(11月30日午後2時44分)、シリア国民軍を統括するシリア暫定内閣(シリア革命反対勢力国民連立(シリア国民連合)傘下)の国防省がフェイスブックを通じて声明を出し、作戦開始を改めて発表するとともに、シリア国民軍に所属する諸派が「攻撃抑止」軍事作戦局によるアレッポ市の「解放」に参加していたと明らかにした。シリア国民軍傘下の国民解放戦線が、シャーム解放機構とともに「決戦」作戦司令室を構成し、「攻撃抑止」軍事作戦局の一翼を担っていたことは、国民解放戦線のハサン・アブドゥルガニー報道官が軍事作戦局の総司令官を務めていることから確認できたが、トルコの占領統治を直接支援しているシリア暫定内閣がシャーム解放機構との協力関係を認めたのは、これが初めてだった。
「自由の暁」作戦を開始したシリア国民軍は、シリア政府とPYD(北・東シリア地域民主自治局)の支配下(あるいは共同支配下)にあるアレッポ市北部のタッル・リフアト市一帯地域とバーブ市南東部への侵攻を開始した。そして、1日も経たずして、アレッポ市とラッカ市を結ぶ高速道路(国道4号)、クワイリス航空基地など、30以上の町村、シリア軍の拠点などを制圧した。
混乱に乗じる米軍とイスラエル軍
シリア軍を背後から突いたのは反体制派だけではなかった。
シリア人権監視団によると、東部のダイル・ザウル県では、ユーフラテス川東岸のCONOCOガス田に違法に基地を設置し、駐留を続ける米軍(有志連合)が11月30日、ダイル・ザウル市に面する同川東岸でシリア政府が辛うじて統治する「7ヵ村」として知られる地域内にあるムッラート村とフシャーム町を砲撃した。
また、イスラエル軍も同日、ヒムス県のジュースィーヤ国境通行所、レバノンとシリアを隔てるカビール川に架かるハウズ橋とジューバーニーヤ橋を爆撃した。イスラエルはヒズブッラーとの停戦に応じているはずだが、イスラエル軍の発表によると、爆撃は、レバノンからシリアへのヒズブッラーの武器密輸に利用されている同地の軍事インフラを破壊することが目的とされた。
シリアは、2023年10月にイスラエル軍と、ハマース、そして「抵抗枢軸」と呼ばれるヒズブッラー、イラク・イスラーム抵抗、そしてイエメンのアンサール・アッラー(フーシー派)が交戦状態に入った際、「抵抗枢軸」を支援しつつも、武力紛争に関与することを嫌ってきた。イスラエルとの全面的な軍事衝突が、13年におよぶ紛争(シリア内戦)を経て疲弊した経済や社会の再建を阻害し、場合によっては体制存続の危機さえもたらす可能性があったためだ。
こうした消極姿勢に乗じるかたちで、イスラエル軍はシリア領内に対して爆撃を繰り返してきた。その爆撃が、イスラエルとヒズブッラーの停戦合意によっても収まらないなか、シリアは、アル=カーイダ系のシャーム解放機構を主体とする反体制派、トルコの支援を受ける反体制派、米国(有志連合)、そしてイスラエルの攻勢を受け、四面楚歌の状態に苛まれつつある。