9年越しのメダルならず。発展する世界の女子サッカーになでしこジャパンは追いつけるのか?
2012年のロンドン五輪以来、9年間、なでしこジャパンが目指してきたメダル獲得の夢は破れた。
7月30日、埼玉スタジアム2002で行われた準々決勝で、なでしこジャパンはスウェーデンに3-1で敗れ、ベスト8で敗退することとなった。
スウェーデンは、グループステージを3連勝で勝ち上がり、3試合目のニュージーランド戦では主力を温存して決勝トーナメントに備える余裕も見せていた。主力選手の中には、マンチェスター・シティやチェルシー、バイエルン・ミュンヘンなどのビッグクラブでプレーする選手も多く、ここ数年で急激なレベルアップを見せている優勝候補だ。
立ち上がりの7分に、相手コーナーキックのこぼれ球を先に拾われ、右のゴールライン上から上がったクロスを、中央でDFマクダレナ・エリクソンに高い打点で合わされ失点。23分に右サイドの連係で崩し、MF長谷川唯のクロスにFW田中美南が飛び込んで同点とした。しかし、後半立ち上がりの53分にFWスティナ・ブラックステニウスに右サイドを突破されて決められ、再び追う展開に。66分にはペナルティエリア内で相手のシュートがMF三浦成美の手に当たってハンドを取られ、PKを決められて3-1となり、そのまま試合は終了。
90分間で目の当たりにしたのは、日本が課題とするフィジカル的な要素だけでなく、組織力すらもアドバンテージではなくなってしまったという現実だ。
就任以来、東京五輪でのメダルを目指してきた5年間、そのチーム作りにどのような誤算があったのか。試合後の公式会見で、高倉麻子監督はこう答えている。
「世界の中で、日本がやっていくサッカーのスタイルであるとか、フィジカル的な要素も補うべく、選手が努力を重ねてレベルアップした部分もありますし、自分たちのサッカーで世界に挑んでいくという部分では、表現できた部分もあると思います。ただ、世界中の女子サッカーの急速な進歩の幅が、自分の計算とは違っていたのかなと思います」
2016年にリオデジャネイロ五輪出場を逃し、世代交代を進めるとともに、技術力、持久力、組織力など、日本人の良さを生かすサッカー、「Japan’s Way」を追求してきた。しかし、欧州各国を筆頭に世界の女子サッカー界が急速に発展する中、その差は開いている。
今大会で日本が敗れたイギリス(●0-1)やスウェーデンには、少ないチャンスを確実に決めてくる強力なFWがいた。加えて選手層が厚く、強力な攻撃パターンを複数持っていた。日本はどうだったのか。長谷川は試合直後、言葉に危機感をにじませて、こう語っている。
「イギリスやスウェーデンは、フィジカルがありながらもつないできて、いい位置に立ってポゼッションしてくるチームでした。そうやってヨーロッパのサッカーが変化している中で、日本のようにつなぐサッカーにプラスして、スピードがある相手にどう戦っていくかを考えなければいけないし、理論的に(状況に応じた)立ち位置なども理解しながら、もっと突き詰めないといけないと思いました」
グループステージの3試合に比べて、この試合では前線からの守備が機能し、主導権を握る時間が長かった。だが、決定機は限られていた。FW岩渕真奈は、「これが今の自分たちの現在地だと思います」と受け止める。
「ボールを持つ時間もありましたが、それだけでゴールは取れません。海外でプレーしているからこそ感じますが、外国人選手は本当にゴールに対して貪欲です。ミスを恐れるのは日本人選手の良くないところだと思うし、そこを変えることができず、悔しいです」
7分の先制点は、決して埋めることが容易ではないフィジカルの差を感じさせた。だが、単純な高さやスピード、パワーだけでなく、コンディションや試合勘の差もあったのではないだろうか。日本は3月から長期の国内合宿を重ねてきたが、5月までリーグ戦が続いた欧州リーグと比べると、公式戦がなく、コロナ禍で1年以上、強豪国とのマッチメイクができなかったことによる強度不足も否めない。
試合勘が失われる不安を、イメージで補っていると前向きに話す選手もいたが、他国との差はそうしたところでも開いてしまっていたように思う。
カナダ、イギリス、チリ、そしてスウェーデン戦と、4試合中3試合で先制され、苦しい試合運びを強いられた。相手の戦い方に慣れてようやくゴールへの光を見出しても、後半に相手が戦い方を変化させてくると、再び後手に回った。そこで、先手を取るような積極的な采配は見られなかった。今大会前、「選んだ選手全員の中で、大会中に化ける、“ラッキーガール”的な存在が出てくれば、チームにとてつもない力を与えてくれると思います」と高倉監督は語っていた。実際、強豪国との対戦経験がほとんどない中でも、グループステージで光るプレーを見せたMF塩越柚歩やMF林穂之香、チリ戦の途中出場で流れを引き寄せたMF木下桃香らは“ラッキーガール”候補だった。だが、この試合では、負けている状況ながら最初の交代が相手よりも遅い72分と、消極的に映った。4試合を通じて、試合ごとに4、5人の先発メンバーを入れ替えたが、調子の良さを感じさせる選手が、さらに上向きになる好循環は作り出せなかった。唯一、その波を掴み、この試合でもゴールの匂いを放っていたのが田中だ。試合後は悔しい思いをひとしきり吐露した後、「こういう苦しい時に、どんな形でもゴールを取り続けるFWになるしかないと思います」と、絞り出すように語った。
他会場の準々決勝3試合はすべて延長戦にもつれ込む熱戦で、結果は、イギリスを4-3で下したオーストラリア、ブラジルをスコアレスドローの末にPK戦で下したカナダ、そして、2019年W杯決勝と同じカードで、オランダを2-2の末にPK戦で退けたアメリカがベスト4に進出。結果的に、G組から勝ち上がった3チームが決勝に残った。スウェーデンはグループステージでオーストラリアに4−2で勝っている。アメリカとカナダは同じ北中米カリブ海のライバルで、互いの手の内は知り尽くしているだろう。今年2月のシービリーブスカップで対戦した際にはアメリカが1−0で勝ったが、今回はどうなるか。
スウェーデンがこのまま突き進むのか、オーストラリアが初のメダル獲得を確定させるのか。カナダが初の決勝進出を決めるのか、はたまた、ロンドン五輪以来の金メダルを目指すアメリカが勝負強さを見せるのか。日本は敗れてしまったが、今後、世界を争うことになるライバルたちの戦いをしっかりと目に焼き付けておきたい。
オーストラリアとニュージーランドの共催で2023年に予定されているW杯まであと2年。残された時間は少ない。9月に女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が始まるが、女子サッカー界の未来を作るためには、その前に、危機感を持ち総力を上げて新たな強化方針を打ち出していくことが必要だろう。今大会の検証は、改めて記事にしたいと思う。