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不可解なパウンド・フォー・パウンド7位

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 井上尚弥が上位にランクされていることで、日本のファンがチェックしては一喜一憂するパウンド・フォー・パウンド・ランキング。

 各メディアによって、順位も顔ぶれも異なるが、現地時間6月15日にWBAライト級タイトルを防衛した30戦全勝28KOのチャンピオン、ジャーボンテイ・“タンク”・デービスが、ESPN、リング・マガジン、CBS、それぞれで7位である点は解せない。この選手は、1位となっても良いほどの実力者だ。

 WBA/IBFスーパーフェザー、WBAスーパーライトと、3階級を制し、13度の世界タイトルマッチを経験している。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 昨年4月に“スーパーファイト”と謳われたライアン・ガルシア戦において、デービスはボディブローでアイドルボクサーを沈めた。7回ノックアウト勝ちで人気先行型有名人の化けの皮を剥いだのだ。去る6月15日も、18戦全勝12KOでWBAライト級2位にランクされていたフランク・マーティンを8ラウンドで沈め、格の違いを見せつけた。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 次戦ではWBC同級チャンプのシャクール・スティーブンソンかIBF王者であるワシリー・ロマチェンコとの統一戦が噂されている。どちらを相手にしても、デービスの勝ちは揺るがないだろう。

 しかし、である。デービスはガルシアを葬った2023年4月22日から、マーティン戦まで、1年2カ月のブランクを余儀なくされた。家庭内暴力の罪で自宅謹慎処分を受けたにもかかわらず、これに違反し、44日間の懲役刑を食らったことで試合がなかなか決まらなかった。

 パウンド・フォー・パウンドはそれぞれの媒体が、記者に票を投じさせることでランキングが決まる。私生活の乱れに厳しい視線を送るジャーナリストが多いことから、デービスは7位に甘んじているのだ。

Esther Lin/Premier Boxing Champions
Esther Lin/Premier Boxing Champions

 ここで思い出すのがWBAジュニアウエルター級でKINGとされた、アーロン・プライアーだ。オハイオ州シンシナティで誕生したプライアーは、7人きょうだいの5番目として誕生した。7人全員が違う父親で、母親はキッチンドランカーだった。

 プライアーの母親は、子供たちに銃口を向け、殺人未遂で逮捕されている。兄も姉も、刑務所と娑婆を行ったり来たりというタイプが多かった。ボクシングで成功しなければ、どうなっていたか分からない男だった。

 ジムの片隅に簡易ベッドを置いてくれたオーナーのはからいで、プライアーは日々トレーニングに打ち込む。モントリオール五輪を目指したが、疑惑の判定で負けにされた。―――星条旗を背負うに相応しくない―――と判断されたのだ。※プライアーの人生を詳しく知りたい方は、是非、拙著『神様のリング』(講談社)をお読みください。

2度拳を交えたアレクシス・アルゲリョとプライアー。共に鬼籍に入った。撮影:筆者
2度拳を交えたアレクシス・アルゲリョとプライアー。共に鬼籍に入った。撮影:筆者

 デービスの7位も犯罪歴が大きく影響している。彼は今後、どのようにキャリアを彩るのか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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