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日本屈指の赤字路線「芸備線と木次線」に滞在し1ヵ月定期券で毎日乗車! 長期滞在で何が見えた?

鉄道乗蔵鉄道ライター
木次線と芸備線にまたがる定期券(写真:読者提供)

 2024年3月26日、改正地域公共交通活性化再生法に基づく第1回芸備線再構築協議会が開かれたことによりその存廃の行方に注目が集まっているJR西日本の芸備線。芸備線は、広島駅(広島県広島市)-備中神代駅(岡山県新見市)間の159.1kmを結ぶ路線であるが、JR西日本はこのうち輸送密度が特に低い備後庄原(広島県庄原市)-備中神代(岡山県新見市)間68.1kmの再構築協議を要請していた。しかし、広島県側から「広域的な視点から幅広い議論が行われるべき」との要望があったことから、広島-備中神代間の全区間が再構築協議の対象とされることになった。

 3月に開催された再構築協議会では、「大量輸送という鉄道としての特性を発揮できていない」というJR西日本側の主張と「鉄道は地域に欠かせない」とする自治体側の主張が対立する形となった。さらに、JR西日本は、芸備線の備後落合駅から島根県方面に分岐する木次線についても再構築協議を行いたい意向を示していることから、中国山地から鉄道が消えるのではないかという不安が広がっている。

 こうした中で、木次線と芸備線にまたがる八川-備後落合-道後山間の通勤定期を購入し、少しでも同路線に貢献しようと約1カ月間現地に滞在して、両路線を乗り続けたという男性がいるという情報を耳にしたことから、ご本人に話を聞いた。

現地滞在25日間で1日5~9回、芸備線と木次線に乗車!

 定期券を購入したのは、福岡県北九州市在住の50代の自営業の男性で、木次線の出雲横田駅で定期券を購入した際には「この区間の定期券を発見するのは何十年ぶり」と駅員の方から言われたという。この男性は、定期券の購入については「鉄道廃止に反対するためにもまずは定期券保持者がいることが大切だ」と考え、同区間の定期券の購入と長期滞在しての鉄道利用を決断した。

 沿線には26日間滞在し、定期券は実際に24日間使用したという。なお、滞在中に列車が運休する日が2日間あった。仕事の関係で、途中で一旦、福岡県に戻らなければならなくなった日もあるというが、沿線への滞在日には1日5回から9回列車に乗車。1日で乗車できる最大の行程は下記のようになった。

①道後山06:20→06:34備後落合 芸備線快速 備後落合行

②備後落合06:41→06:56道後山 芸備線 新見行

・道後山→八川 ※自家用車で移動

③八川08:05→09:07備後落合 木次線 備後落合行

④備後落合09:20→10:20八川 木次線 木次行

※昼食休憩

⑤八川13:17→14:25備後落合 木次線 備後落合行

⑥備後落合14:42→14:56道後山 芸備線 新見行

・道後山→比婆山 ※電動キックボードで移動

⑦比婆山15:57→16:12備後落合 芸備線 備後落合行

⑧備後落合17:41→18:44八川 木次線 宍道行

・八川→道後山 ※自家用車で移動

⑨道後山19:32→19:46備後落合 芸備線 備後落合行

⑩備後落合20:10→10:24道後山 芸備線 新見行

芸備線と木次線の乗換駅・備後落合(筆者撮影)
芸備線と木次線の乗換駅・備後落合(筆者撮影)

木次線の出雲横田―備後落合間を廃止したいJRの露骨な意図

 男性は約1カ月間現地に滞在して、芸備線と木次線の閑散区間に徹底的に乗車したことで「JR西日本の経営に対するやる気の無さ」や「鉄道廃止に反対している声なき声が多い」ことを強く感じたという。

 JR西日本は、昨年2023年に引退した木次線の「奥出雲おろち号」に変わる観光列車として「あめつち」の運行を開始しているが、運転区間はそれまでの木次線の全区間から出雲横田駅までに短縮。木次線の出雲横田駅から先の区間には、国内でも珍しい出雲坂根駅の三段スイッチバック区間が観光資源となってはいるものの、JR西日本は「あめつち」の乗客に対して備後落合方面の案内を行うことはなく、出雲横田駅からタクシーで伯備線の生山駅に行くように案内をしており、「木次線の出雲横田-備後落合駅を廃止にしたい意図が露骨だった」と男性は話す。

 こうしたことから男性は地域の方々に話を聞いたところ「おろち号がなくなってから観光客が明らかに減った」「日本各地で蒸気機関車の動態保存がなされていることを考えると、ディーゼル機関車けん引のおろち号の部品が確保できないという話には違和感を覚える」「島根原発で事故があった場合には道路は大渋滞して身動きがとれなくなる可能性があるので、木次線を避難路として使えるようにして欲しい」という声があった。

 また、男性によると出雲横田駅から、出雲坂根駅の三段スイッチバックを経由して三井野原駅に向かうツアーの設定もあるものの、こうしたツアーのチラシについては折りたたんで隅に置いており、木次線の利用不振のアリバイを意図的に作り出そうとしている様子が垣間見えたという。

 そして、「今後も機会を見つけて定期券を購入して芸備線と木次線に乗るつもりだ」といい、「JR西日本は、国鉄から引き継いだ大阪梅田の一等地を活用して莫大な不動産収益を上げている一方で、地方創生が叫ばれている中で地方路線を軽視する現在の経営姿勢はいかがなものか」と苦言を呈した。

木次線出雲横田駅と伯備線生山駅を結ぶ連絡タクシー「たったら~号」(写真:読者提供)
木次線出雲横田駅と伯備線生山駅を結ぶ連絡タクシー「たったら~号」(写真:読者提供)

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。

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