コピーからホンモノへ!松岡洸希、林昌勇(イム・チャンヨン)超えを誓う《2019 ドラフト候補》
(昨日の記事の続き)
■半年前には想像もしなかった世界
半年で人生が変わった。取り巻く環境は想像を超えている。驚くほどの注目を浴びている。
最も変わったのは投手としての自分自身だ。
投球フォームも変わり、憧れでしかなかったNPBの選手たちから三振を取れるまでになった。
大舞台に強い。
そのステージが大きくなればなるほど、眠っている潜在能力を目覚めさせ、力を発揮する。そしてその度、ステップアップをしていく。
埼玉武蔵ヒートベアーズの背番号19・松岡洸希は、まったく現実味のなかった世界の扉を今、自らの手で開けようとしている。
■片山博視コーチへの感謝
こんなにも進化しようとは、自分でも考え及ばなかったことだ。
しかしそれも、周りの人々のサポートがなくては成し得なかったことだと、松岡投手は理解している。
とりわけ片山博視コーチ(元東北楽天ゴールデンイーグルス)には「一番、感謝しないといけない」という。
「僕がここまでこられたのは片山さんがいたから。片山さんがいなかったら、まだ上で投げてたかもしれない。本当にアドバイスのおかげ」と頭を下げる。
横手投げへの転向を勧めてくれたことだけではない。登板間隔や登板回も考慮するなど、最大限に力が発揮できるよう常に気を配ってくれた。
高校を卒業したばかりのルーキーをここまで育て上げるため、さまざまな手を尽くしてくれたことは十二分に響いている。
そして自身も、そんな片山コーチに応えたいという思いがあったから、ここまで頑張れた。
■元NPBの先輩投手たち
さらにチームには元NPBの投手が2人いる。
宮川将投手(元東北楽天ゴールデンイーグルス)には変化球の握りや投げ方を教わった。持っている球種の精度を上げるべく、アドバイスを受けた。
持ち球であるスライダーやチェンジアップがゲームで使えるレベルになったのも、宮川投手の助言によるところが大きい。
さらに今、「カットボールも投げ始めた。選抜でも投球練習では投げた」と新球の習得にも励んでいる。今後、実戦で使えるよう磨いていく。
また、辻空投手(元広島東洋カープ)には練習メニューを教わった。
「空さんはトレーニング法をたくさん知っている。NPBで得たこととかもあって。それを自分も取り入れるようにしている」。
もともと物怖じや人見知りをしない性格だ。年が離れた先輩とでも臆することなく会話ができる。だからこそ可愛がられ、親身になって接してもらえるのだ。
■対戦を楽しめた
最初は「こんなにレベルが高いとは思わなかった」とビックリしたBCリーグだったが、だんだんと「バッターの特徴を見て投げられるようになった。それがBCで成長できたところ」とうなずく。
さまざまな体験ができ、その中で打者との対戦を楽しむこともできた。
栃木ゴールデンブレーブスの西岡剛選手(元千葉ロッテマリーンズ―ミネソタ・ツインズ―阪神タイガース)との対戦は「すごく嬉しくなった」という。
高校を出たばかりの自分がメジャーにも行った打者と対決できるなんて…!胸が高鳴った。
3度あった対戦の結果は一ゴロ、空振り三振、四球だった。
「僕、抑えましたよ!」と声を弾ませる。そりゃもう、純粋に嬉しいだろう。
また、同い年のカレオン選手(福島レッドホープス)との対戦も、「投げながら楽しいなと思っていた」と、いつも心待ちにしていた。
6月の横浜DeNAベイスターズ(ファーム)との選抜試合で仲良くなり、以降は「投げる前にアイコンタクトする。最初、僕が2打席ヒットを打たれていたけど、選抜のあとは意識して三振を取りにいくようになった」という。
たしかに選抜以前の2打席は、いずれも初球をヒットにされている。しかし選抜後に対決した3打席は、中飛と三振が2つ。
「試合後に『今日はオレの勝ち』とか言っている(笑)」。
お互いに切磋琢磨し合える同級生の存在も大きい。
こうした数々の対戦がすべて、ルーキー右腕の肥やしになった。
■サボり癖?
紆余曲折あったシーズン中、つらかったことはと訊くと、即座に返ってきたのが「トレーニング!」だった。よほどしごかれたのだろうと推察できる。
自分自身の直したいところを尋ねたときに「サボり癖(笑)」と答えた松岡投手だから、さぞかしそこは耐えて、自分に鞭打って頑張ったのだろう。
「自分のためだと思って…」と苦笑する。
ずっと続けているインナーマッスルのトレーニングのおかげで、体が変わってきたことも実感している。
「前期はバテて肩や肘が痛くなったりしたこともあったけど、後期はそれがなくなった。(トレーニングを)やり続けてるから」。
自分に何が必要なのかはわかっているし、継続することが重要であると身をもって知った。サボることなど決してない。
しかし敢えて「サボり癖」と口にして自らを戒めているのだ。
■周りの人々に、チームに感謝
「半年でここまでできるとは思わなかった」と自認するくらい、頑張れたシーズンだった。
「上(NPB)に行きたいという気持ちがあったから試行錯誤できたし、それができる環境があった」。
NPBのスカウトに注目され、試合だけでなく練習にも足を運んでもらっている。ドラフト候補としてテレビや新聞、ネットなどメディアで話題になり、今やその名が広く知れ渡ってきた。
半年前には想像もできなかった自分に驚いている。と同時に「注目されて取り上げられることは嬉しい。僕だけじゃなくて武蔵の名前も認知度が上がったと思う」と自身はもちろんだが、「埼玉武蔵ヒートベアーズ」というチームを多くの人々に知ってもらえたことを大いに喜ぶ。
なによりも野球ができる環境、しかもNPBを目指せる環境を与えてくれたチームに感謝しているのだ。
■もはや「松岡洸希のフォーム」に!?
元東京ヤクルトスワローズの守護神・林昌勇(イム・チャンヨン)投手のフォームを自ら模倣したということも、注目を集める要因のひとつだ。
松岡投手のフォームを見ていると、左足を引いて振りかぶったときにほんの一瞬、両膝をキュッと小さく曲げる。
「タメを作るというか、バランスをとるというか…。僕のフォームは独特なので、バランスをとりにくい。タイミングでバランスを整えるっていうか、勢いをつけたときにバランスをとるっていうので、フォームを身につける過程で勝手にそうなった」。
膝がピーンと伸びてまっすぐだと勢いがつけられないそうだが、よく見ると林昌勇投手もやや曲げている。
「フォームを取り入れるとき、体が勝手にそうなった。これが必要だったんだと思う」という。まさに完コピだ。こんなところまで真似ているとは。
いや、そうではない。このフォームを完全に自分のものにしているからこそ、こういう些細な動きも体が“勝手に”してしまうのだ。
それくらいもう、これは「松岡洸希のフォーム」になっている。
■もしも林昌勇氏に会ったら・・・
NBPに入ったら林昌勇氏に会える可能性は高まるだろう。1軍で活躍すれば、対談などの企画も浮上するかもしれない。
もし会えたらどうするか尋ねると、ひとしきり「うーん…」と考えたあと、「連絡先を交換したい!」と無邪気に言った。
連絡先とは…。その返答に思わず笑った。まだまだあどけない19歳である。
「フォームのことを教わりたいし、いろいろ話を聞きたい。NPBで活躍した話とか」。
その場で聞くのではないのか。たしかに聞きたいことは山ほどあるだろう。連絡先は交換しておいたほうがいいかもしれない。
■林昌勇超えを誓った
最後に、NPBに入ったら、どんな投手になりたいか訊いた。
「1軍で活躍してタイトルを取りたい。目指す以上、イム選手のコピーじゃダメ。超えないといけない」。
勢いよく“林昌勇超え”をブチ上げた。
「やるからには、そこまでいかないと。登板数だったり、セーブ数だったり、防御率だったり」。
林昌勇投手は日本での5年間で238試合、128セーブ、防御率2.09という成績を残しており、オールスターにも3度出場している。
松岡投手は、その数字をすべて塗り替えるくらいの覚悟で挑むのだ。非常に強気で気持ちがいい。
常に前向きだ。根底には、どんな困難も乗り越え、レベルアップしてきた自負がある。
じゃあ、160キロは?との問いには、即座に「それは無理です!」と笑った。
とてつもなく大きな可能性を秘めた“武蔵の林昌勇”・松岡洸希は今日、運命のときを迎える。
【松岡 洸希(まつおか こうき)*プロフィール】
2000年8月31日生(19歳)/埼玉県出身
179cm・83kg/右投右打/A型
桶川西高校→埼玉武蔵ヒートベアーズ(2019~)
《球種》ストレート、スライダー、チェンジアップ、カットボール、カーブ
《最速》149キロ
《趣味》アニメ、映画鑑賞
《特技》大食い。実家では毎日5合の米を炊くが、そのうち「僕が3合くらい」食べている。
【松岡 洸希*今季成績】
32試合 0勝2敗 27・2/3回 被安打22 被本塁打1 奪三振33 与四球20 与死球4 失点16 自責11 暴投3 ボーク0 失策0 防御率3.58 奪三振率10.24
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)