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昨季王者サントリー、次はヤマハと激突。沢木敬介監督の「冗談」の真意とは。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
観察眼に定評あり。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 日本最高峰のトップリーグで昨季全勝優勝を果たしたサントリーは、今季も開幕2連勝中。9月2日の第3節では、同2位のヤマハと対戦する(東京・秩父宮ラグビー場)。相手陣営では元日本代表副キャプテンの五郎丸歩が復帰していることもあってか、一部の前売り券が完売。注目を集めている。

 スター選手の働きと同様にファンが関心を寄せるのが、サントリーの沢木監督の言葉である。スマートな顔立ちであまり笑わず、ストレートに核心を突く。そのさまが、女性のみならず長く競技に親しむ愛好家のハートも掴みつつある。

 8月25日、秩父宮。リコーを31-15で下した直後の記者会見でも然りだった。流大キャプテンとともに出席し、この日の反省や次戦への展望を語る。渦中、「冗談です」と言ったのちにクラブの攻撃の肝についても話すこととなる。

 公式発言から、注目のカードへの見どころを探る。

 以下、共同取材時の一問一答(編集箇所あり)。

沢木監督

「皆さん、お疲れさまでした。前半は、自分たちのプラン通りに入れたんですけども(21-3とリード)、観ての通り後半は自分たちの弱い部分が出た(やや攻めあぐねて10-12)。相手を生き返らせるという一番悪い癖が出ている。ヤマハ戦に向けては、そのタフな部分から改善する。月曜から準備していきたいです」

「監督も言われたのですけど、後半は意図したプレーはほとんどなく、目指しているのとは程遠いラグビーをしてしまった。それでも勝って5ポイントを取って次に迎えることだけが、よかったこと。ヤマハは強敵でもあるので、しっかりといい準備をして勝ちたいと思います」

――後半はどんな戦いがしたいと思っていて、なぜそれができなかったのか。

沢木監督

「後半も前半と同じような入りで行こうと言ってはいたけど、あの点差になって選手たちにどこか油断というか…。シンプルな判断ではなく、複雑な判断をするという隙間ができたと思うんですよね。それが自分たちのコミュニケーション、ディシジョン(判断)を少しずつずらして、結果、あのパフォーマンスになったのだと思います」

「気持ちの部分ですね。21―3で折り返して油断があったかもしれないですし、サントリーはボディランゲージを大事にしているのですけど、それも目指しているものとは程遠く、相手に弱みを見せてしまいました」

――目指しているのとは程遠いボディランゲージ。疲れて膝に手を置くなどのことですか。

「トライを取られた時に落ち込んだり、コミュニケーションが減っていったり。そういったところです」

――それでも、チームは崩壊しなかったように思えるのですが。

「正直、後半はいいところがなかった。スタンダードを高くプレーしようとは言い続けていたのですが、相手に合わせて質の低いラグビーをしてしまったと思っています」

――内容的に満足できないなかでも2連勝したことについては、どう捉えられていますか。

沢木監督

「僕だけではなく、選手たちも満足していない。今日も試合後のミーティングはお通夜みたいでした。ただ、それがすごく大事だと思うんですよね。サントリーの今年のスローガンは『Stay Hungry』なので。現状に満足しないで、常に成長したいという思いを持ちながら、もう1回、来週からいい準備をしていきたいと思います」

――来週のヤマハ戦。どんな試合をして勝ちたいか。

「真っ向勝負。セットプレーとブレイクダウン(接点)でヤマハに勝つことがテーマになる。ただ、自分たちのアグレッシブアタッキングという軸は変わらない。スペースにアタックするという、僕らが目指すラグビーで必ず勝ちたいです」

沢木監督

「まず、オブストラクションに気を付けます。…あ、これは冗談ですけど」

 場内に笑いを誘った一言の背景には、きっと前半20分台のあるプレーがあった。

 敵陣中盤まで攻め込んだサントリーは、左オープンへ展開。インサイドセンターのマット・ギタウが防御網を破り、ナンバーエイトのジョージ・スミス、ウイングの江見翔太と繋いでインゴールを割ったかに映った。

 ところが、担当レフリーは「テレビジョン・マッチ・オフィシャル(TMO)」の制度を採用。リプレイ映像に映ったのは、攻撃するサントリーの囮役の選手がギタウの真横でリコーのタックラーとぶつかる瞬間だった。

 ルール上、レフリーに「プレーを妨害した」と見なされた選手はオブストラクションの反則を取られる。TMOの審議の結果、サントリーのオブストラクションが取られ、トライは帳消しとなった。

 それを受け、沢木監督はサントリーの攻撃の特徴を改めて強調する。

「ラグビーって、ボールを持っていない選手にタックルしちゃダメなスポーツなんですよ。それをディフェンス側のミスと取るか、(攻撃側の)オブストラクションと取るか…。そこの判定はすごく難しいとは思うんですけど、自分たちは、いろんなオプションを持ちながら、ディフェンスに的を絞らせないというトレーニングをしてきている。そのうえで、次のレフリーの方の傾向を見ながら、オブストラクションには気を付けたいと思っています」

 1本のパスに複数人の受け手が飛び込むという「的を絞らせない」動きを重ね、スペースを攻略する。それがサントリーの攻撃の肝となる動きだ。ここでの発言の主旨は、「的を絞らせない」なかでボールを受け取らなかった選手が「オブストラクション」と見なされないように配慮したい、ということだろう。

 かすかにほほ笑みを覗かせてから、改めてこのクラブの見どころが提示された。会見は続く。

――ヤマハの印象はいかがですか。

沢木監督

「シンプルに、いいキャリー(ボール保持者)が前に出てくる。それは変わっていない。僕たち、(多くのメンバーは)集まるのが遅くて、(全員揃った状態では)まだ2試合しかやっていない。今日も、選手のフォーメーションの確認のために(先発要員には)長い時間プレーさせたかった。コミュニケーションではある程度、合ってきている。ヤマハさんのシンプルなアタックに対し、しっかりと相手の強みを消して、ボールを持った時にスペースをどう作るか。それをもう1回、準備をしていきたいと思います」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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