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なぜ、芸人を辞めることをやめたのか。たむらけんじに聞いた思い

中西正男芸能記者
今の思いを語るたむらけんじさん(筆者撮影)

来年5月で芸人引退を考えているというこれまでのスタンスを自身のYouTubeチャンネルで撤回したたむらけんじさん(49)。なぜ、芸人を辞めることをやめたのか。来年5月以降はどこで何をするのか。今のリアルな思いを聞きました。

来年5月で芸人を辞める。そして、アメリカに行って新たなチャレンジをする。細かい表現はともかく、これまでたむらさん本人からもそういった話を、取材でも、個人的にも、幾度となく聞いてきました。

そんな中での“引退撤回”。いったい何があったのか。驚きもありましたが、14日のYouTubeチャンネルでたむらさんが話していた骨子は以下のようなものでした。

・わざわざ「芸人を辞めます」ということを言わなくても、そこも持ったまま次のチャレンジをしてもいいのではないかと周りから言ってもらった。

・芸人という肩書は下ろさないが、今もらっている仕事は全て区切りをつけさせてもらう。

・基本的にはこれまで標榜してきたことと変わらず、アメリカで新たなビジネスにチャレンジする。

ただ「来年5月以降、どこで何をするのか」「そもそも、なぜ方向転換したのか」などがあまり具体的に伝わっていないかと思い、16日朝にたむらさんに話を聞きました。

来年5月以降の拠点はアメリカです。ロサンゼルスで既に家も借りていて、今は“カラ家賃”が発生しているもったいない状況でもあるんですけど、5月以降はそこが家になります。

もちろん、日本で焼肉を中心とした飲食の事業をやっているので、その仕事がある時は日本に戻ってくることもあると思いますが、基本的な住所はロサンゼルス。それが来年の僕のベースになります。

今考えているビジネスは二つあって、一つ目はコーディネーターというか、人生観を変えるような大自然とか現地のあらゆるスポットを案内する仕事を考えています。

そもそも、僕が芸人を辞めることを考えたのが2018年から19年にかけての年末年始にアメリカに行ってグランドキャニオンを見た時に、直感的に「オレはここに戻って来なアカン。アメリカで勝負をせなアカン」と思ったんです。世界各国あらゆるところに行きましたけど、そんな感覚になったのは初めてだったんです。

戻ってくるためには、ありがたいことに芸人として毎日仕事をいただいている状況をリセットしないと無理。今までは仕事を辞めるなんてことを考えたこともなかったんですけど、グランドキャニオンの圧倒的なスケールと迫力を見ていると、自分のことなんてすごく小さいことだと思えて「よし、一歩を踏み出そう」と思ったんです。

そこから考えて、辞めるなら50歳の節目。これまで30年ほど芸人をやってきて、50歳からはなんとか30年別のチャレンジをする。そう決めて動き出しました。

そのきっかけになったのがグランドキャニオン。僕は45歳の時に見て人生観が変わったけど、もっと若い人が見たら、もっと感じることもあるんじゃないか。そういうお手伝いができれば。そして、どこのだれか分からない人間ではなく、これもありがたい話、芸人を長くやらせてもらってきて、たむらけんじという名前をある程度知ってもらっているからこそ、変な不安なく頼んでもらえるところもあったらうれしいなと。そんな思いから、コーディネーター業というのは一つ具体的に考えているものなんです。

あと、もう一つがプロデューサー的な仕事です。日本から芸人さんを招聘して現地でイベントを行ったりするというもの。これも芸人としてこれまで生きてきたことが人脈的にも生かせる仕事なのかなと思っています。

それと、これは本当に正直な話、向こうに実際に住んで、現地の人と話して感じる商売のタネみたいなものも絶対にあると思っているので、この二つを今は考えていますけど、向こうに行った自分がどんなビジネスを考えるのか。そこは僕自身も未知数でもあります。

ただ、来年5月以降、ホンマに僕のわがままですけど全部のレギュラー番組に区切りをつけさせてもらって、アメリカに住んで次の勝負に出る。この大きな流れ自体に何の変更もなく、それは引き続き実行させてもらいます。

“これから”についてはたむらさん本人も未定なところがありながらも上記のような話でした。では、そもそもなぜ芸人を辞めることをやめたのか。そこについて詳しく聞いてみました。

そもそも、芸人に区切りをつけようとなったのは、グランドキャニオンに強い衝撃を受けて「人生をリセットしよう」と思ったこと。ここが大きなきっかけであるのは間違いありません。

自分は芸人という皆さんを笑顔にできる仕事が大好きやし、芸人という仕事はすごく大切だし、特別な思いで向き合ってきた仕事でもあるんです。

だからこそ、新たなチャレンジをする時に日本で芸人としての仕事がなくなるのに、そのまま芸人という肩書を持っているのは違うと思ったんです。大好きで、大事な芸人という仕事だからこそ、その仕事を置いてでも次の道に進む。

それくらいの覚悟がないとダメだし、芸人としての仕事もしていないのに何が芸人やという思いが僕の中にはあったので辞めるという考えを出させてもらっていました。

ただ、ここはね、ホンマに僕のダメなところというか、直感で突っ走ってしまうところが多分にある。「これしかない!」と思ったら、まず走り出す。

実際、18歳、19歳の時に芸人の世界に飛び込んだ時はその思いでよかったし、さらに言うと、自分のことだけを考えていたらよかった。失敗しても大変なのは自分だけ。何も背負うものがなかったから、それで実際よかったんです。

でも、今は芸人としていろいろなお仕事をさせてもらっているのもありますけど、もう一つ「炭火焼肉たむら」を経営する社長としての立場もある。そこには従業員がいて、フランチャイズでお店をやってくださっている方々もいる。

10代の時の自分とは背負っているものが違う。もちろん、そんな自分の立場は直感で突っ走る僕でも十分考えたつもりでした。ただ、今から思うと、思慮が足りなかった。一生懸命に考えたつもりやったけど、もっと、もっと、もっと、考えないといけなかった。

だからこそ、今から思うと、ある意味、中途半端に世間の皆さんに芸人を辞めるということを伝えてしまっていた。それをさらにテレビなど公共の電波を使ってまで言ってしまっていた。それはただただ自分の至らなさだし、今回、よく、よく考えて、周りの方からもお話をいただいて「芸人を辞めるのをやめる」という前言撤回をするにあたって、ここは“ご報告”ではなく“謝罪”すべきこと思い、YouTubeのタイトルにも謝罪という言葉を使わせてもらったんです。

あと、これもありがたいことに僕なんかのことを気にかけてくださる先輩芸人の方々もいてくださって、そういう方々からお言葉をいただいたことも大きかったです。

「わざわざ『芸人を辞めます』ということを言わなくてもいいんじゃないか。これから新たなチャレンジをする中で、あえて可能性を狭めてスタートする意味がないのでは」

芸人という仕事への思いが強いがあまりに、芸人という肩書を安易に名乗るものではないとの思いがあったんですけど、ここも本当にリアルな話「何をフラフラ考えを変えとんねん!」というお声もあるかもしれませんけど、先輩方から親身にお話をいただく中で、確かにその通りだなと思って、芸人という看板をあえて下ろすことはしないことに決めたんです。これが本当に正直な流れです。

たむらさんから話を聞く中で、頭が整理されていく感覚も覚えましたが、結局「50歳で今の仕事に区切りをつけてアメリカでチャレンジをする」。この流れには何の変更もない。

レギュラーを全て卒業することで芸人としての収入は失うが、新たな可能性を模索する時間は得る。そして、さらなる可能性を模索するため、今のビジネスを損なわないためにも芸人という肩書は下ろさないことに決めた。話を聞いたことをまとめると、このようなことになりました。

取材の最後に「グランドキャニオンが壮大すぎたから、突っ走ってしまった。悪いのはグランドキャニオンの壮大さや!というような感じにしておきます?」とこちらが軽口を振ってみました。

その時の何とも晴れやかで華やかな笑顔。

それは確実に芸人・たむらけんじの顔であり、表面上の肩書を超えた“根っこ”を感じさせるものでもありました。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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