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中国皇帝のお宝を東京と九州で! 台北國立故宮博物院展の見どころ

中島恵ジャーナリスト
「台北故宮博物院」展の会場入り口

中国歴代皇帝の珠玉のコレクションを集めた「台北國立故宮博物院展―神品至宝」が東京・上野の東京国立博物館 平成館で開催されている。

6月から開始し、7月末には20万人の来場者を記録。故宮の展覧会はアジアで初めてというだけあって、夏休みの終盤となった現在も全国各地から大勢の参観者が押し寄せている。私も開館時間を延長している金曜日の夕方に足を運んでみた。

門外不出とされ、すでに展示を終えた「翠玉白菜」や、これから九州国立博物館(会期は10月7日~11月30日)で展示予定の「肉形石」(10月7日~20日だけの限定)といったお宝中のお宝が注目されているが、それ以外にも見どころはたくさんある。

展示会場は2つ。第1会場は中国皇帝が儀式などに使用した青銅器から順路が始まる。続いて北宋8代皇帝、徽宗(きそう)のコレクション。美術・芸術をこよなく愛した皇帝として知られ、故宮のコレクションはこの徽宗から始まり、以来、革命により王朝が変わってもずっと受け継がれてきた。書画には歴代皇帝の印が押されている。めったに見ることができない王義之の草書や、北宋時代の行書もずらり。書道好きな日本人にはたまらない作品群といえるだろう。

第2会場は清朝皇帝がコレクションした工芸品類が中心となる。明朝時代、景徳鎮窯で作られた壺、碗、杯などのほか、刺繍仙人図軸が目を引く。刺繍した絵画で仙人が勢ぞろいしているという、おめでたい図軸が12枚も並ぶ。

後半になると、清朝時代のものが多くなる。コレクションに熱心だった康熙帝、乾隆帝年間のもので、中でも、多くの参観者が顔を近づけて熱心に見ていたのは「紫檀多宝格」。別名、「皇帝のおもちゃ箱」とも呼ばれる、遊び心満載の逸品だ。

一辺が25センチ程度しかない紫檀製の箱の中に、約30点もの動物の置物や指輪などミニチュアの器物がすっぽり納められている。仕切りや引き出しなどを多用して効率よく「おもちゃ」を収めた小箱なのだが、側面にも縁起のよい図案を持ち入るなど、非常に手が込んでいる。

展示会場の後半では、NHKスペシャルでも放送された「四庫全書」も展示されている。古代からの著作を集めた叢書で、約7万9000巻、7億字に上る書物だという。この中には、日本の儒学者の書物を始め、ヨーロッパやベトナムの書物も収められている。

さらに、多くの人を魅了していたのは「行書黄州寒食詩巻」。北宋時代の役人であり、書家・詩人であった有名な蘇軾(そしょく)が流罪になった地で、わびしい暮らしを綴った詩だ。壮大な巻物で、文字は不揃いだが、蘇軾の心情がよく伝わってくる。この作品は一時期、日本に置かれていたという。日本人コレクターが所有しており、関東大震災や第二次世界大戦の戦火もくぐり抜けたが、1987年に台北の故宮に収蔵された。そういう意味で、日本との縁が深い作品として、今回出品された。

ちなみに、中華料理で有名な「東坡肉(トンポーロー)」(豚肉の角煮)は蘇軾が豚肉料理について吟じた詩から考案された料理だそうだ。

台北國立故宮博物院は1925年の開館。今年で90年目を迎える。約70満点の収蔵品があり、入れ替えで展示されているが、そのすべてを目にすることはほぼ不可能だ。だが、今回はその中でもとくに人気があり、価値の高い収蔵品を厳選して東京で一堂に見ることができるチャンス。歴代皇帝が守ったお宝に圧倒されることだろう。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「日本のなかの中国」「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミア)、「中国人のお金の使い道」(PHP新書)、「中国人は見ている。」「日本の『中国人』社会」「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国を取材。

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