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永世竜王・羽生善治九段(49)今期竜王戦1組優勝!七番勝負進出、タイトル通算100期挑戦に大きく前進

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月7日。東京・将棋会館において竜王ランキング戦1組決勝▲佐藤和俊七段(41歳)-羽生善治九段(49歳)戦がおこなわれました。10時に始まった対局は21時17分に終局。結果は86手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段は1組で通算3回目の優勝。優勝賞金470万円を獲得しました。

 決勝トーナメント(本戦)では、1組優勝の羽生九段は左端、1組2位の佐藤七段は右端に配されます。

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 羽生九段の位置からは、挑戦者決定戦三番勝負進出まであと1勝。そこでまた2勝を挙げれば、豊島将之竜王(30歳)への挑戦権を獲得し、七番勝負に進出します。

 タイトル通算99期を誇る羽生九段は2018年の竜王戦七番勝負で広瀬章人八段の挑戦を受け、3勝4敗で失冠。以来、無冠となっています。王位戦、王座戦などでも挑戦の可能性が残されていますが、竜王戦でもまた、挑戦に近いところまで勝ち進んできました。

羽生九段、貫禄の勝ち上がり

 佐藤和俊七段の作戦は「耀龍四間飛車」でした。大橋貴洸六段が解説書を上梓したばかりの戦法です。そしてなんと、本に書いてある通りの進行となりました。

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 居飛車穴熊に組んだ羽生九段は、本に書いてある通り仕掛けていきます。

羽生「ちょっと歩を仕掛ける順番を間違えたような気がして、苦しくなったような気がしていました。難しいとは思ったんですが、ちょっと分がわるい中盤かと思ってやってましたね」

 羽生九段は直線的に踏み込まず、いったん自陣に手を入れます。これは本には書いてない手順でした。羽生九段らしい、緩急自在の指し回しと言えるのかも知れません。

 佐藤七段は羽生九段の動きに応じながら、飛車先を逆襲していきます。シンプルでわかりやすい佐藤七段の主張が通って、このあたりでは佐藤七段の調子がよさそうな感じでした。

 一方で羽生九段は飛車を逆サイドの3筋、穴熊側に転じて、佐藤七段の玉頭から逆襲を狙います。耀龍四間飛車は2八ではなく、3八に構えるのがポイントです。端から一路遠ざかることによって、攻めをした際の反動が緩和されるというメリットがあります。一方で、戦いが起こる側に一路近づくというデメリットもあります。

 互いの駒が盤面右側に密集して、局面は一気に複雑になっていきます。対局者が一手指すごとに、ソフトが示す評価値は上下しました。それだけポイントをとらえるのが難しい局面だったということでしょう。

 互いに持ち時間が少なくなっていく中、難解な押し引きを制したのは羽生九段でした。78手目、羽生九段が△3六歩と打ったところでは、佐藤七段も支えるのが難しくなったようです。

羽生「△3六歩を打つ形になって、けっこう面白くなったかと思いましたね」

 最後は羽生九段の羽生九段の飛車と角が佐藤玉の上部をにらむ形となり、受けなしに。佐藤七段は攻防ともに見込みなしと見て、そこで投了となりました。

 羽生九段はこれで通算3回目の竜王戦1組優勝を飾りました。

羽生「一つ結果が出てよかったとは思っていますが、これからが本番なんで、引き続き前を向いて、前進していければと思っています」

 羽生九段は本戦トーナメントでは一番高い位置、挑戦権に最も近いところから戦い始めることになります。

羽生「でもまだ全然わからないので。次の対局はけっこう先になりそうなので、それまでにしっかり調整したいと思います。(コロナ禍の状況の中で)対局は常におこなわれるかどうかはわからないですけど、今までと変わらぬ気持ちで臨めたらいいなと思っています」

 敗れたとはいえ、佐藤和俊七段は1組2位。こちらも堂々たる成績で、初の本戦進出を決めました。

佐藤「難しい将棋だったと思うんですけど、うーん・・・。途中、まとめられれば、という場面はあったと思うんですけど、長考しても難しくてわからなかったので。ちょっと終盤、早めに崩れてしまったのが残念な内容でしたかね。(今期1組では)自分なりに力は出た将棋もあったので。力以上の将棋が指せたという場面は多かったかなと思います。ちょっと本局は、そういう意味では残念です。勝った将棋は基本的にいいところは出たかなと思っています。(本戦は)初めて出たので素直にうれしいですけれども。まだちょっと先のことであれですけれど、しっかり準備していければなと思います」

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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