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ロシアのメディア、キラーロボットの脅威訴え「AIによる追跡と人間を標的とした攻撃は禁止すべき」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「核兵器の製造と輸出は簡単にはできませんが、キラーロボットは簡単です」

2021年12月にスイスのジュネーブで国連の特定通常兵器使用禁止制限条約(Convention on Certain Conventional Weapons: CCW)の会議が開催されて、自律型殺傷兵器について議論されていた。AI(人工知能)技術の発展とロボット技術の向上によって、軍事でのロボット活用は進んでいる。戦場の無人化が進むとともに「キラーロボット」と称される人間の判断を介さないで攻撃を行う自律型殺傷兵器が開発されようとしている。

そしてCCW会議が開催されていた2021年12月には欧米の多くのメディアがキラーロボットの問題などを報じていた。ロシアのメディアのRTも英語でキラーロボットの懸念を英語で1分間で伝えていた。若い女性が登場してきて、スマホの画面にあうように縦長の画角で撮影されている。

女性はAI科学者のラッセル氏のコメントを引用して「自律型殺傷兵器は安価で、簡単に製造ができます。核兵器の製造と輸出は簡単にはできませんが、キラーロボットは簡単に製造できて、テロリストでも誰もが購入できます。AI技術のアルゴリズムによる人間の追跡と人間を標的とした攻撃は禁止すべきです」と訴えていた。

このロシアのメディアRTの動画で女性が引用していたラッセル氏のコメントは2017年に公開された「Slaughterbots」というキラーロボットの脅威を伝える動画で伝えられている。最後にラッセル氏がキラーロボットの脅威を語っている。

「Slaughterbots」とはSlaughte(虐殺)とロボットをかけた造語だ。この動画は大量のキラーロボットが人間の判断なしに人間を標的にして殺害するために空中から攻撃してきてパニックに陥っている様子を伝えることによって、キラーロボットの脅威を訴えている。

AI技術の軍事への活用は積極的に行われており、アメリカ、中国、ロシア、イスラエル、トルコなどでは自律型兵器の開発が進められており、現実的な兵器となってきている。実際の紛争で自律型殺傷兵器で攻撃を行ったのは初めてのケースとして、2020年3月にリビアでの戦闘で、トルコ製の攻撃ドローンKargu-2が兵士を追跡して攻撃を行った可能性があると、国連の安全保障理事会の専門家パネルが2021年3月に報告書を発表していた。キラーロボットの脅威は現実味を帯びてきている。

現在、人間の判断を介さないで標的を攻撃することが非倫理的・非道徳的であるということから国際NGOや世界で30か国が自律型殺傷兵器の開発や使用に反対しているが中小国がほとんどだ。アメリカやロシアなど大国は開発も使用も反対していないため、国際社会での足並みがそろっていない。中国は自律型殺傷兵器の使用には反対しているが、開発には反対していないことから、おそらく開発は進められているだろう。CCWでも一致した結論は出ずに「これからも自律型殺傷兵器の開発や使用については継続して協議をしていく」こととなった。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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