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「チキ・タカ」は衰退したのか。ロシアW杯における実力差の拮抗と、弱者の兵法の常態化。

森田泰史スポーツライター
グループステージ敗退に終わったドイツ(写真:ロイター/アフロ)

1カ月に及ぶ激闘に、幕が下ろされた。

ロシア・ワールドカップは終わりの時を迎え、フランスが優勝を達成した。組織的なサッカーには総じて穴がなく、最後まで隙を見せない戦い方を貫いて栄冠を手にしている。

一方で、ひとつの問いが、頭を支配している。それは「チキ・タカは衰退したのか」というものだ。

■一世を風靡したチキ・タカ

「チキ・タカ」とは、スペイン語で、パスサッカーを指す。

この言葉は、グアルディオラ監督に率いられたバルセロナと、デル・ボスケ元監督が指揮を執ったスペイン代表が欧州と世界を席巻していた2008年から2012年頃にかけて流行した。いわば、長短のパスを織り交ぜながらボールを前進させゴールを陥れるサッカーの代名詞である。

その間、バルセロナはリーガエスパニョーラ、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグ、スペイン・スーパーカップ、UEFAスーパーカップ、クラブW杯で、スペイン代表はEURO2008とEURO2012、2010年の南アフリカW杯で優勝を飾った。獲得可能なタイトルをすべて奪取したのだ。

そして、スペインを追随しようと、虎視眈々と機会をうかがっていたのがドイツだ。ドイツはそのスタイルを世襲して、2014年ブラジル大会で優勝を達成している。ドイツとスペインの違いは、指揮官の長期政権だろう。2006年からレーブ監督に指揮を託したドイツは、時間をかけてパスサッカーを醸成させた。

チキ・タカ(パスサッカー)を倒せーー。他国にとって、それはある種の至上命題になった。

その流れに抗う術はなかった。ドイツとスペインは、今回のW杯であっけなく散っている。連覇が期待されたドイツはグループステージで敗退。開幕直前に監督交代騒動があったスペインはベスト16で大会を後にした。

彼らの敗因は一概に特定できないかもしれない。芝の状態。ロシアの気候。ポゼッションを嗜好するチームが苦しむ一方で、プレス型のチームが躍進した。

ただ、最大の要因はパスサッカーが研究され尽つくした点にあるのではないか。その行く末に導き出された答えがカウンターであり、セットプレーなのである。

■現実主義

ポゼッション主体のチームへの対策は密かに進められていた。分析と吟味の結果、各国はカウンターとセットプレーを強化した。いわゆる「弱者の兵法」だ。

今大会で、169得点中73得点がセットプレーから生まれた。得点の43%がセットプレーからもたらされている。その内訳はCK(26得点)、FK(17得点)、直接FK(6得点)、PK(22得点)、スローイン(2得点)である。また、セットプレーからのゴール数は、そのままDFの得点増を意味する。ロシアW杯において、DFの選手の得点数は29得点となっている。

加えて、今大会においては拮抗したゲームが多かった。90分を0-0で終えたのは、フランス対デンマークの1試合のみだ。弱者の兵法が勝利を導く方法論として一定の成果を挙げたのは、見逃せない。この事実と、確と向き合う必要がある。

厄介なのは、強豪国が弱者のサッカーを採り入れた点だ。そして、この種のチームは、格下相手との対戦ではある程度ポゼッションをしながら、得意のセットプレー、あるいは個の能力が高い選手の決定力に拠って、試合を決めてしまう。

一方のスタイルが他方のスタイルを封殺するために、弱者の兵法が実践され、そしてそれを突き詰めたフランスが頂点に立った。フランスの勝ち方は、前々回王者スペイン、前回王者ドイツとは、明らかに異なっていた。

中盤にはボールを回収する能力が高い選手がいて、ディフェンスラインには空中戦を得意とする選手が必要だった。フランスの両サイドバック、ルカ・エルナンデスとパバールは、所属クラブではセンターバックを本職としている。CB型の4選手を最終ラインに並べたフランスが優勝したのは、必然だったのだ。

弱者の兵法の採用は現実主義への傾倒だとも言える。リアリストが勝つ、新たな時代が到来したのである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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