Yahoo!ニュース

もう「ハリル型」の監督はゴメンだ。前半27分で一変した中国戦に思う

杉山茂樹スポーツライター
中国戦。大島僚太は左足太ももを痛め交代した 写真:岸本勉/PICSPORT

 中国に2-1で勝利を収め、E-1選手権4大会ぶりの優勝に向け大きく前進した日本。試合は勝つに越したことはないが、今回はJリーグ選抜で臨んでいる大会で、スタメンも試合ごとに大幅に入れ替えている。いわば即席チームでの戦いだ。まず目を凝らすべきは、選手個々の質だろう。

 しかし、ピッチにそうした視線を投げかけようにも、他の要素がそれを阻むように、大きな問題として映り込んでくる。

 中国戦のスタメンに、A代表のスタメンは誰ひとり存在しない。しかしメンバーは変わっても、目指すスタイルに変化はない。代表チームになんとか生き残りたい選手たちが、監督の指示に忠実に従えば、従来のA代表が毎度露呈する悪しき傾向が、いっそう強調される形で目に飛び込むことになる。

「縦に速いサッカー」と言えば聞こえはいい。「ディフェンスラインの背後に早いタイミングでボールを送り込むサッカー」でも、ギリギリ許せる。だが、実際に繰り広げられたサッカーは、許容範囲の外にある。ボールを前に簡単に蹴っ飛ばしすぎる雑なサッカーだ。

 ハリルホジッチは日本ではなく北朝鮮の監督に就いたほうが、好みのサッカーを実現しやすいはず。北朝鮮戦後にそう記したが、今回も同様に、中国の監督に就いたほうが……と言いたくなる。

 中国人選手は縦に速く、しかも大型だ。デュエルにも長けている。そうした相手に同じ戦法でガチンコ対決を挑めば、日本らしさは失われる。そもそも理にかなっていない。ファンの共感も呼ばない。わざわざ苦戦するサッカーをハリルホジッチは選択している印象だ。

 しかし、立ち上がりは別だった。試合開始から前半27分まで、日本はずいぶんソフトなサッカーを展開した。ボール支配率もおそらく70%は超えていただろう。内容で中国を大きく上回った。一方、ハリルホジッチ色はせいぜい50%止まり。残る50%はザッケローニ的であり、アギーレ的だった。過去のいいところがいい感じでブレンドされた、悪くないサッカーを展開した。それがハリルホジッチ色100%に一変したのは、大島僚太の負傷退場と深い関係がある。

川崎Fのチームメート小林悠が日本ベンチに×印を送る 写真:岸本勉/PICSPORT
川崎Fのチームメート小林悠が日本ベンチに×印を送る 写真:岸本勉/PICSPORT

 奪ったボールが大島のもとに入ると、慌てた感じ、暴れた感じは、吸い取り紙に吸収されるかのようにスッと収束した。論理的に進んでいきそうで、次なる展開に期待が高まった。

 現在の日本の選手のなかで1、2を争う技巧派だ。小野伸二、中村俊輔、遠藤保仁はまだ現役を続けているので、「代表入りの可能性を残す選手のなかでは」となるが、大島が彼らの流れを汲む選手であることは間違いない。今季のJリーグで、高度なトラップ技術とパスワークを武器に、川崎フロンターレ優勝の立役者になったことは言うまでもない。

 川崎Fを語る時、今季MVPに輝いた小林悠、昨季のMVP中村憲剛の名前がまず挙がるが、大島がいなければ、少なくとも川崎Fの魅力の何割かは失われていた。まさに、川崎Fらしい選手なのだ。

「Jリーグの各チームのサッカーは、概して横パスが多く、ディフェンダーの背後を狙わない」などと日本のサッカーに異を唱えるハリルホジッチだが、さしずめ川崎Fは、その典型的なチームになる。そこで10番を背負い、ゲームメークを担当する大島は、確かに横パスの使用頻度が高い。相手に囲まれても、慌てず騒がず淡々と、気の利いたショートパスを配球するじっくり型の選手だ。中には、際どい横パスも含まれている。実際、ごくたまにミスもする。ハリルホジッチの普段の発言に従えば、構想外の選手ということになる。

 ところが今回、代表出場はこれが2度目だというのに、背番号10をつけて登場した。その10番にどれほど大きな意味があるのかは定かではないが、ハリルホジッチの目にも無視できない選手に映っていることだけは確かだろう。

 そうでなければ、W杯アジア最終予選の初戦の大一番、UAE戦(2016年9月1日)のスタメンに、いきなり初代表の大島を抜擢したりはしないのだ。ところが、そこで大島はチームを敗戦に導くPKを献上する。

 メディアから戦犯と叩かれた。ハリルホジッチはさすがにもう少し優しい心の持ち主だろうと思っていたところ、その4試合後には彼を招集すらしなくなった。ハリルホジッチに潰された選手。以降、それが大島の肩書きになっていた。

今後が心配される大島僚太 写真:岸本勉/PICSPORT
今後が心配される大島僚太 写真:岸本勉/PICSPORT

 1年3カ月ぶりの出場となるこの中国戦に、ハリルホジッチはいったいどれほどの期待感で、ピッチに送り出したのだろうか。そして大島がピッチに存在した、前半27分までのサッカーを、どう分析しているのだろうか。

 大島は、ケガの痛みでプレーの続行が不能になり、担架に担がれて退場した。重症だと見る。ハリルホジッチとの相性の悪さについて、同情せずにはいられない。大島がこれで一切のチャンスを失ったとすれば、日本にとっても痛い話だ。ハリルホジッチ色50%止まりの27分間は、幻に終わることになる。

 日本サッカーのあるべき姿を論じるには、絶好のタイミングだと思う。北朝鮮と中国。そして次戦の相手韓国も、どちらかといえばこの2国に近いサッカーをする。大島タイプの選手は存在しない。かつて日本に技巧派の中盤選手がひしめいていた頃、韓国の記者から「韓国には絶対に現れないタイプだ」と、羨ましがられたものだ。剛の韓国に対し、柔で対抗する日本に、彼らは一目も二目も置いていた。

 ハリルホジッチの後任に、ハリルホジッチタイプだけは選んでほしくない。中国戦の前半27分以降のサッカーが、日本のあるべき姿にはとても見えないのである。

(集英社 Web Sportiva 12月13日 掲載)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

たかがサッカー。されどサッカー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

たかがサッカーごときに、なぜ世界の人々は夢中になるのか。ある意味で余計なことに、一生懸命になれるのか。馬鹿になれるのか。たかがとされどのバランスを取りながら、スポーツとしてのサッカーの魅力に、忠実に迫っていくつもりです。世の中であまりいわれていないことを、出来るだけ原稿化していこうと思っています。刺激を求めたい方、現状に満足していない方にとりわけにお勧めです。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

杉山茂樹の最近の記事