「東京五輪不参加」の北朝鮮のどうにも止まらない「日本批判」 米国と韓国との違い
五輪加盟国で唯一東京五輪をボイコットした北朝鮮の対日批判は五輪休戦期間中も鳴りやむことはない。
五輪開会式直前の7月22日に対外週刊誌「統一日報」が日米防衛協力指針改定の動きを問題にして自民党を批判したかと思えば、25日には対外宣伝メディア「黎明」が東京五輪を「帝国主義の復活に利用している」と批判を展開。翌26日は国営通信「朝鮮中央通信」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」に登録されている長崎市の端島(通称・軍艦島)を巡る世界遺産登録委員会の決議との関連で「特大型版反人類犯罪を覆い隠そうとする破廉恥な形態」との見出しを掲げた論評を掲載し、日本を批判する一方、宣伝媒体「我が民族同士」も東京五輪の選手村に韓国選手団が掲げた横断幕に対し撤去を要求した日本を非難するなど「2本立て」で日本を叩いていた。
北朝鮮の対日バッシング報道は1月から2月は月平均で3本程度だったが、3月から倍増し、4月に至ってはその数は実に14件に上った。5月からは半減したものの日本に対してはまるで打てば響くような感じで北朝鮮は反応している。
(参考資料:北朝鮮の矛先は日本! ヒートアップする対日非難! 米国に対しては沈黙!)
批判の対象とされているのは竹島の領有権を記述した文科省の高校教科書検定から福島処理水放出決定、菅首相や閣僚らの靖国神社への供物奉納など様々。菅首相が憲法9条への自衛隊明記を含む改憲を目指す立場を明らかにしたことや岸信夫防衛相が「北朝鮮の軍事動向には引き続き重大な関心を持って情報収集、分析に全力を挙げる」と語ったこと、さらには日本代表が国連人権委員会で「慰安婦問題は日韓条約で解決済」と発言したことなども槍玉に挙げられている。
一方、この期間「最大の敵」(金正恩総書記)とする米国に対する批判、罵倒は皆無だった。金総書記の実妹・与正副部長が3月15日に「我々は太平洋の向こうで我々の地に火薬の匂いを漂わせたくて躍起になっている米国の新行政府にも一言忠告する。今後4年間、足を伸ばして寝たいなら、最初からみっともなく眠れなくなるような仕事を作らない方が良いだろう」と発言したことと、その2日後に崔善姫外務第1次官が「我々と一度でも対座することを望むなら、悪い癖から直して初めから態度を変えるべきである」(3月17日)と発言したぐらいである。後は、米国務省の人権批判に対する外務省スポークスマンの反論(5月2日)が記憶に残っている程度だ。
北朝鮮は朝鮮戦争(北朝鮮では「祖国解放戦争」とよばれている)勃発日の6月25日から休戦協定日(北朝鮮は「戦勝記念日」として祝っている)の7月27日迄の約1か月間を「反米月間」に設定しているが、反米スローガンもなく、反米行事も行われなかった。休戦協定日の一昨日は、祖国解放戦争勝利記念塔前で開かれた第7回全国老兵大会で金総書記が演説したが、反米に関する言及はゼロだった。北朝鮮が米国をいかに気遣っているかが垣間見られる。
では、北朝鮮の韓国に対する対応はどうか?
韓国内の脱北団体が「最高尊厳」と崇められている金総書記を標的にした非難ビラを風船で北に向け散布したことに激怒し、南北融和の象徴・共同連絡事務所を爆破し、韓国との対決を宣言したにもかからず、総じて韓国に対する批判は控えめだった。米国に対するのと同じように金与正副部長が1月、3月、5月と計3回談話を出し、韓国をやんわりと牽制する程度だった。
その結果が、一昨日、南北で同時発表された南北関係の復元である。南北は相互信頼を回復し、沈滞状態にある南北関係を改善することで電撃合意をした。対話が進めば、2018年のような南北首脳会談の再現もあり得る。また、南北関係が進展すれば、米朝も連動して、対話が再開される可能性が大だ。
翻って日本はどうか?
日本は菅義偉首相が就任以来、再三「金正恩委員長に無条件に会う用意がある」と北朝鮮に対話を呼びかけているが、北朝鮮から返って来るのは非難、罵倒だけである。
韓国が再び北朝鮮と縒りを戻すことができたのは遣り合っていても首脳同士間の親書交換ができるホットラインを持っていたことに尽きる。米国もまた、北朝鮮との間には「ニューヨークチャンネル」と呼ばれるパイプのほかに韓国を介しての意思疎通の手段がある。米韓両国とも表面では言い合っていても、水面下ではしっかりと交渉しているのである。
米韓に比べると、日本は北朝鮮とパイプもチャネルもない。ただひたすら菅総理が「無条件に会う用意がある」と連呼しているだけだ。これでは今年も拉致問題の進展は期待できないだろう。
来年で小泉訪朝から20年である。