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障がいがある人も、シングルペアレンツも、みんなが輝く!人気チョコレート店の職場に魅せられて

水上賢治映画ライター
「チョコレートな人々」より

 東海テレビドキュメンタリー劇場第14弾作品となる「チョコレートな人々」が取り上げているのは、愛知県豊橋市に本店のある「久遠チョコレート」。

 夏目浩次さんが立ち上げた同店は、いまではショップやラボなど全国に57拠点を展開し、東名阪のデパート催事でも人気のチョコレートブランドになっている。

 作品は、夏目さんと「久遠チョコレート」の歩み、そして、心や体に障がいがある人、シングルペアレントや不登校経験者、セクシュアルマイノリティら同店で働く人々と、誰も排除されないインクルーシブな職場作りにも目を向ける。

 そこから見えてくること、「久遠チョコレート」が実現してきたことは、今の時代において、社会において本気できちんと考えなければいけないことだ。

 ある意味、いまの日本社会に大きな問を投げかける本作について鈴木祐司監督に訊く。(全五回)

「チョコレートな人々」の鈴木祐司監督
「チョコレートな人々」の鈴木祐司監督

そこまで大変だったことには恥ずかしながら当時は気づいていませんでした

 前回(第一回はこちら)は、夏目さんとの出会い、20年以上も取材し続けた理由などが明かされた。

 今回ももう少し夏目さんが「久遠チョコレート」をオープンさせる前の話を。

 「久遠チョコレート」の前身としてパン工房「ら・ばるか」があった。

 そのパン店からいくつかの過程を経て、夏目さんは「久遠チョコレート」をオープンさせている。

 この期間というのを鈴木監督はどう見ていたのだろう?

「パン工房『ら・ばるか』がオープンしたのは2003年のこと。

 近くに専門学校があったり、地元の人が通うスーパーなどもあったりして、人通りもそれなりにある。

 それから障がい者のスタッフでも計算できるようパンの値段を1個50円か100円均一にしていて、安いのでお客さんがついて繁盛し、翌年には、メロンパンの専門店も立ち上げました」

 ただ、一方で少し心配もあったという。

「パン作りはものすごく手間ひまがかかります。

 だから、作業スピードについてこれないスタッフが出てきて、そうなると夏目さんと奥さんがその分をカバーすることになる。

 それでもカバーしきれなくなると、夏目さんのお父さんやお母さんも駆り出されて朝から晩まで手伝うことになっていて。

 さらに忙しいのを見かねた近所の商店街の人たちがレジ打ちを手伝ったりとなって、ほんとうにお店は、親類や商店街の店主たちの無償の協力なしでは回らない状況になっていました。

 それから、映画でも触れていますが、夏目さんは周囲に黙っていたことがありました。

 実は当時、銀行はもうお金を貸してくれなくなっていて、民間のカードローン 6、7枚でやりくりしていて、当時の借金は約1000万円ぐらいにふくれあがっていた。

 もちろん夏目さん夫婦の分の給料はなかった。

 パンは、手間がかかる割に利益が薄い。だから、人気店ではあるんですけど、利益がほとんど上がっていなかった。

 そのことはなんとなく感じていたので心配していました。ただ、どれだけ深刻か状況だったのかは、あとになってわかったこと。そこまで大変だったことには恥ずかしながら当時は気づいていませんでした。

 あと、2005年ぐらいだったと思うんですが、史上最年少で『社会福祉法人』を設立して商店街から少し離れたところに大きなパン工場を夏目さんは作ったんです。

 そこで、さらに障がいのあるスタッフを二十数人ぐらい雇って、みんなでパンを作って、配達も始めたりしていました。

 事業としてはどんどん拡大していっていた。

 さらに夏目さんは、障がいを持つ子の働く場所を求める親たちの要望に応じて、印刷、清掃、クリーニングなどの職場を作りました。一般企業とコラボして飲食店でも障がいのあるスタッフが働ける仕組みも考案しました。

 だから、『すごいな』と思ってみていました。

 しかし当時は、障がいのある人は保護すべき対象とみられた時代。

 『障がい者を使って稼いでいる』と周囲からは理解されず、他の理事たちから反対されて、社会福祉法人を夏目さんは追い出されるような形になってしまった。

 さすがに夏目さんも失意のどん底だったそう。このことも心配していました」

「チョコレートな人々」より
「チョコレートな人々」より

最初はチョコレートのなにがすごいのか、のみこめないでいました(笑)

 そんな時に、夏目さんはトップショコラティエの野口和男さんと出会い、チョコレート店を開くことになる。

 はじめにチョコレート店を開くときいたときはどう思っただろうか?

「正直なことを言うと、驚きはあまりありませんでした。

 というのも、先ほどお話したように、メロンパン店を開いたり、『社会福祉法人』を設立したりしていたので、『また新しい業種にチャレンジするんだ』といったぐらいの受けとめでした。

 ただ、夏目さんのなにか熱量みたいなものが、チョコレート店のときはちょっと違った。

 それが分かったのはお店がオープンしたときの取材時でした。

 豊橋本店ができたということで取材に行ったんですけど、夏目さんからものすごくお店について熱く説明されたんです。

 『今回は違います』と、チョコレートは『どんな人にも合わせてくれる、失敗してもいいんです。失敗しても作り直せる。作業が早い人も遅い人もチョコレートは関係なく作れる。本当に良いことだらけなんです。これだったら、みんなが働けるんです』といったことを一気に話された。

 チョコレートの知識のない僕はなんのことやら分からない(苦笑)。

 ただ、夏目さんが『やっと出会えました』みたいなことをその時点で言っていた。夏目さんはなにかいままでにない手ごたえのようなものを感じていた。

 僕自身は取材を通して、そのことを少しずつ理解していきました。

 ただ、最初はチョコレートのなにがすごいのか、うまくのみこめないでいました(笑)」

(※第三回に続く)

【鈴木祐司監督第一回インタビューはこちら】

「チョコレートな人々」ポスタービジュアル
「チョコレートな人々」ポスタービジュアル

「チョコレートな人々」

監督:鈴木祐司

ナレーション:宮本信子|プロデューサー:阿武野勝彦

音楽:本多俊之|音楽プロデューサー:岡田こずえ

撮影:中根芳樹 板谷達男|音声:横山勝

音響効果:久保田吉根 宿野祐|編集:奥田繁

公式サイト https://www.tokaidoc.com/choco/

全国順次公開中

製作・配給:東海テレビ|配給協力:東風

写真はすべて(C)東海テレビ放送

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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