なぜスペインは”復活”したのか?ぺドリという「才能の出現」と取り戻された決定力。
スペイン代表が、強さを取り戻している。
EURO2020で、スペインは2試合連続ドローでスタートした。だがそこから立て直し、グループステージ最終節のスロバキア戦でゴールラッシュを演じると、決勝トーナメント1回戦で東欧の雄であるクロアチアを撃破。準々決勝では、スイスとの激闘をPK戦の末に制した。
EURO2008から主要大会3連覇を成し遂げたスペインだが、2014年のブラジル・ワールドカップ(グループステージ敗退)、EURO2016(ベスト16)、2018年のロシアW杯(ベスト16)では早期敗退に終わった。今大会で、およそ9年ぶりに主要大会のベスト4に進出している。
■中盤の構成力
スペインの黄金期においてはシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタ、セルヒオ・ブスケッツが中盤に君臨していた。
今回のEUROでは、コケ、ブスケッツ、ペドリ・ゴンサレスの3選手が中盤を形成している。なかでも、スペインの新世代を象徴する存在がペドリだ。
ペドリは今季開幕前にラス・パルマスからバルセロナに移籍した。ロナルド・クーマン監督の信頼をすぐに勝ち取り、バルセロナではブスケッツやフレンキー・デ・ヨングと共に中盤でトライアングルをつくった。デ・ヨング(出場時間4418分)、リオネル・メッシ(4191分)、ジョルディ・アルバ(4152分)、アントワーヌ・グリーズマン(3812分)、クレメント・ラングレ(3698分)に次ぐプレータイムを記録したペドリ(3626分)が欠かせない選手になっていたのは間違いないだろう。
今大会のグループステージ終了時点で、ペドリの1試合平均走行距離は10.6Kmだった。
テクニックに優れ、非凡なパスセンスを備えている。イニエスタを彷彿とさせるプレーで、簡単にはボールを失わない。ただ、このペドリという選手は、非常に走れる選手なのである。
「地元の小学校で、ペドリは陸上をやっていた。そこの指導者は、サッカーをやっている子供たちの中から、何人かを選抜していたんだ。ペドリは長距離走の選手に選ばれていた。参加するためではなく、学校の対抗戦で勝つためにね」とははペドリの父親であるフェルナンド氏の言葉だ。
「ペドリはスポーツ万能で、卓球をやらせてもうまいくらいだった。以前、テニスのコーチが来た時には、『ペドリをもっと前に知っていたら選手養成学校に連れていきたかった』と言っていたほどだ」
■決定力の問題
一方、スペインはEUROの経過に従い、決定力を取り戻してきている。
スウェーデン戦(0-0)、ポーランド戦(1-1)ではポゼッション率とシュート数で相手を圧倒しながら得点を奪えず、アタッカー陣が痛烈な批判を浴びた。特に、その「的」になったのがアルバロ・モラタだ。
モラタは得点力がない選手ではない。今季、ユヴェントスでは公式戦44試合に出場して20得点を挙げている。クリスティアーノ・ロナウドという絶対的なエースを擁するチームで、申し分ない結果を残している。
ゴールラッシュでスロバキア戦(5-0)を制してグループ突破を決めたスペインだが、その試合でPKを外したモラタに得点はなかった。しかしながら、改善の兆しは見られていた。ジェラール・モレノ、モラタ、パブロ・サラビアの3トップが配置され、サラビアのクロスに対してターゲットマンが2人いるという構図になり、「ゴール」という役割が分担された。
そして、クロアチア戦で、ついにモラタに得点が生まれた。ポーランド戦以来のゴールだったが、クロアチア戦では価値ある決勝点だった。試合を通じてカレタ=チャツルの執拗なマークにあいながらポストワークをこなしていたモラタが、最後はダニ・オルモからのクロスを受けて左足でネットを沈めた。スペインが待望していたストライカーのゴールだった。
スイス戦では、GKヤン・ゾマーが立ちはだかった。ポゼッション率(72%)で圧倒して、28本のシュートを放ち、そのうち10本を枠内に収めた。だがザマーが得点を許したのはディフレクションからのオウンゴールのみだった。
つまるところ、スペインの決定力不足が解消されたかは定かではない。だが「対戦相手より1点多く奪えばいい」というアイメリク・ラポルトの言葉に集約されるように、現在のスペインには良い意味での割り切りがあるように見える。”勝つ”ということに執着するのが、ルイス・エンリケ監督のチームだ。
「我々は苦しんだ。当然だよ。これは軍隊の行進ではないからね」とはスイス戦後のルイス・エンリケ監督のコメントだ。
「ヨーロッパのベスト4に勝ち残ったのは、我々自身の功績だ。(EURO開催前からの)33日間で、いろいろなことが起きた。選手たちは労力を払い、それを乗り越えた。これだけの時間をホテル滞在と遠征に費やす意味について、ミーティングで選手たちと話をした。そういった困難を乗り越えられるチームがあるとすれば、それは我々スペイン代表だ」
L・エンリケ監督が語るように、スペインの挑戦は終わっていない。まだ、ここからだとさえ言えるだろう。
ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)の情熱が赤く燃え滾る。狙うは、ファイナルへの切符だ。