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アイスバケツチャレンジ後のALS ~「世界ALSデー」の今日、ALSのいま~ 第2回

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
CM披露イベントにて、藤田ヒロさんと筆者。(2015/6/20)

ビル・ゲイツなど著名人が参加したあの「アイスバケツチャレンジ」から一年。

6/21の今日は「世界ALSデー」だ。

その前日、6/20。私は藤田ヒロさんに初めてお会いした。クラウドファンディングで資金を得、作られたCMの披露イベントに参加したのだ。筆者は前回の記事で、ALSとはどんな病気で、藤田ヒロさんとその仲間が作ったCMを紹介した。

「今日は始まりにすぎません」の文字に続きCMが流れ始めると、会場は静寂に包まれた。

画面にヒロさんが登場する。

彼の生命を維持する人工呼吸器の音だけが、静かに鳴り響く。1分間に15回、機械が肺を膨らませ、酸素が血中に取り込まれる。酸素は全身を一瞬で駆け巡り、皮膚や臓器たちに分配される。

原因不明で、治療法がないALSという疾患。

その患者である藤田ヒロさん自らがプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングでこのCMを作った。

「アイスバケツでリレーが走りはじめた。第二走者、第三走者、最後にたすきをかける立場まで見えてきている気がする。」

ヒロさんはスピーチで、こう話した。

現実問題、ALS患者さんには時間がない。どんどん進行する病気だからだ。一年前には笑顔が作れたヒロさんは、今ではもう表情は作れない。目線だけで文字を選択し文章を作り、音声化するコンピューターを使って私と会話した。

「てがみありがとう へんじすみません」およそ1分をかけて、この文章を眼の動きだけで書いてくれた。筆者の著書でヒロさんとALSについて言及し、出版時にお手紙と本を送ったことへの返事だ。

萎縮し細くなった手足。表情は失われ、のどには人工呼吸器から伸びるチューブが付いている。その手にそっと触れた。温かかった。

では、アイスバケツチャレンジでいったい何が起き、何が変わったのか。

このイベントを実質的に主催する中村猪佐武さんは、私にこう語った。

「アイスバケツチャレンジで、『ALS』という言葉は日本中、世界中に広まった。でも、それがどんな病気で、どんなことに患者さんが困っているかについてはあまり認知されていない。」

事実、アンケートによると「アイスバケツチャレンジを知っている」人は62%だった一方で、「ALSをよく知っている」と答えた人は22%にとどまった(NHK調べ)。

「これからさらに啓蒙を続け、同時に治療法の開発の後押しや、未承認薬を使用し実験的治療をすることなどの働きかけをして行きたい」

ごくわずかだが、米国やイスラエルで歩くことが難しかったALS患者さんが一時的に回復したり症状が改善したという報告もある。

幹細胞を髄腔内に注入するという方法だ。

さらに、一年前から藤田ヒロさんやALSの取材を続け、この日も取材に訪れていたNHKの小国士朗さんと星野真澄さんは、さらなる啓蒙を進める方法として、単に取材し番組に取り上げるにとどまらず「シェアミュージック」を始めた。シェアミュージックとは、ホームページ上で写真を何枚かアップロードするだけで、自分だけの動画が作れるもの。筆者も作ってみた。30分で作れた。写真は全て筆者がiPhoneで撮ったものだ。

さらには、「ALSってなに?」というサイトもある。2分もかからず、ALSのことがわかる素晴らしいサイトだ。写真も美しい。

この会の終わりに、藤田ヒロさんは

「いつか、このTシャツを脱いで燃やしましょう」と言った。

END ALSと書かれたそのTシャツ。いつか脱げる日が来るだろうか。

CMお披露目会にて、藤田ヒロさんを囲んで支援者の皆様と。(6/20)
CMお披露目会にて、藤田ヒロさんを囲んで支援者の皆様と。(6/20)

次回は、ALSの「治療」にフォーカスをあて、専門家にお話を伺う。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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