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玉木雄一郎(国民民主党代表)さんへ、我が国の医療制度の持続可能性を確保するアイデアです〜医師の視点〜

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
(写真:イメージマート)

本記事は、X(旧Twitter)で玉木雄一郎(国民民主党代表)さんが2023年11月1日に「診療報酬を減らして医者の給料を減らしたい(筆者による概略)」と発言し(現在は削除)、「診療報酬は医者の給料のみならず看護師など他職種の給与や医療機器購入費用などの収入源です」と医療関係者に怒られ大炎上したのち、「現役世代の負担増を抑えながら我が国の医療制度の持続可能性を確保」する意見を募集していたので、専門家としてのオピニオンを掲載するものです。

玉木雄一郎さん、初めまして。医師で作家の中山祐次郎と申します。公衆衛生学修士号、医学博士号を持ち、現役外科医をする傍で書籍や日経ビジネスやヤフーニュースなどで発信し医療情報の解説や分析などをやっております(小説家として小説も書いております)。

「現役世代の負担増を抑えながら我が国の医療制度の持続可能性を確保」する案を提案させていただきたくコメントいたしました。私の案は以下の通りです。

・病院集約化…多く存在する非効率な公立病院は統合すべきです。住民からの反対には、無料バス運行などで対応してはいかがでしょうか。町に病院があることが大切なのではなく、簡単にアクセスできる病院があることが大切なのです。また、私は公立病院、私立病院どちらの勤務経験もそれぞれ9年、8年ありますが、公立病院における経営改善の余地は多々あります。「不採算な医療を担当する分、公立病院が経営の点で不利」という要素を引き算しても、公立ははるかに経営努力が足りないと感じます。自治体病院は赤字が出てもすぐに税金で補填されますが、私立病院はつぶれます。

・「医療における費用対効果の検討」を推し進める

医療における費用対効果の検討はすでに数年前から始まっていますが、さらに多くの領域で行う必要があります。医療現場では、まだまだ費用対効果の検討の余地がある領域が多数見られます。さらに推進、拡大していくことが必要です。

・高度医療提供の適応を(臓器移植のように)年齢で区切る

費用対効果の文脈と一緒にすると危険なのですが、ある程度の年齢で高度な医療を提供するかどうかを区切るという議論はもはや不可避と考えられます。この議論は極論すると「姥捨て」や「命の値段」とも言いかねないのですが、医療費の観点から話し合われるべき問題です。

私は以前からこの禁断とも言えるテーマを国民一人ひとりが考えるべきだとして書籍などで発言してまいりました。医療現場では、認知症で自分がどこにいるかも認識できない、平均寿命をはるかに超えた患者さんに何百万円も投入する治療を(医療者は時に首をかしげつつも)行っています。現場判断で差し控えることは極めて困難です。

・高齢者の負担増

これは政治マターだと思いますが、やはり現場にいると「高齢者であり費用負担がない患者さん」が存分に高額な治療を受けられる一方で、「現役世代で費用負担が大きくさらに子育てなどしている患者さん」が費用と仕事との兼ね合いから治療内容を手控え、結果として生命予後が高齢者に比べて悪いシーンを目の当たりにします。

また、相対的に必要性の低い医療であっても、病院は収益の観点から高齢者にどんどん通院させる力学がありますので、高齢者医療費の自然増はさらに増す方向にあります。なお、病院やクリニックの自浄作用を期待するのは不可能です。そういう視座の人間は少なく、またその視点があっても、ただでさえ余裕のない病院経営の中では行動に移すことはできません。

・医療関係者の給与削減・優遇税制措置の撤廃など

ご存知の通り医師の給与は他職種と比べて高額ですが、労働基準法を無視した業界慣行により超長時間労働があり、結果として無給医問題(医師を、大学院生という立場により無給で働かせる状態、現在は概ね解決)や過労死といった問題があります。

もうすぐ始まる医師の働き方改革や、厚生労働省が頑張ってくれているタスクシフティング(医師の仕事を看護師などに一部移行して医師の業務負担を減らす施策)などで、現場はだいぶマシな労働環境になることが見込まれます。

労働環境が整った状態になれば、医師たちはある程度の給与の相対的削減(物価上昇に追いつかない程度の伸び率)は許容すると思われます。一番医師が嫌なのは「給料の割安感」なのです。時給に換算すると最低賃金を割り込むような状況へ不平不満があるのです。

なお、日本で最も高度な医療を提供し、過酷な労働環境で働き、労働者としての権力が極めて少ない大学病院の医師の給料は、明日にでもすぐ倍にして欲しいところです。私は民間病院の医師ですが、だいたい時間や労力、能力で考えても倍以上の給与をいただいています。

また、開業医の優遇税制はある程度撤廃してもよいのではないかと個人的には思います。

以上、長々と失礼いたしました。

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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