年末のボクシング 注目は京口紘人が難敵ブドラーへ挑戦!
平成最後の年末はボクシングが大盛況だ。30日と31日に、合わせて6つの世界タイトルマッチが行われる。30日はFUJI BOXINGでライトフライ級王者の拳四朗の5度目の防衛戦から始まり、井上尚弥の弟で世界バンタム級4位の井上拓真が世界初挑戦する。またアメリカで37年ぶり快挙でタイトルを奪取した、伊藤雅雪の初防衛戦もある。
31日にはマカオで3人のボクサーが、挑戦者としてリングに上がる。大学院ボクサーの坂本真宏の世界初挑戦、ミニマム級から階級を上げた京口紘人が、2階級制覇を目指す。そして、日本人初となる4階級王者に向けて井岡一翔の世界王座決定戦がある。2日間で2人の世界王者の防衛戦と4人のチャレンジャーのタイトルマッチが行われる。
注目は京口紘人の世界タイトルマッチ
個性的な選手が数多く出場するが、なかでも私が注目しているのはミニマム級から階級を上げた京口紘人の世界タイトルマッチだ。京口は抜群のパンチ力を武器に、プロ入り後僅か1年3カ月で世界チャンピオンになった。今回は同じジムの統一王者だった田口良一からベルトを奪った、南アフリカの難敵ヘッキー・ブドラーに挑む。
チャンピオンのブドラーは非常に好戦的でボクシングもずる賢い。スピードと手数を武器に軽量級で勝ち続けてきた。田口との試合ではスピーディーなボクシングを披露して、統一王者のリズムを崩してベルトを奪っていった。減量苦からひとつ階級を上げた京口だが、ブドラー相手にどこまでパワーが通じるかに注目だ。
階級によって戦い方が変わってくる
ボクシングは階級によって戦い方が大きく異なる。特に軽量級になると、ひとつ階級が変わるだけでボクシングスタイルに違いがでてくる。体重が重くなり体格が大きくなると階級によっての傾向が変わり、通じる戦略や戦術も大きく変わってくる。最軽量のミニマム級とライトフライ級では、戦い方も大きく異なるのだ。
例えば、ミニマム級は、どちらかというと手数重視のボクサーが多い。1発で倒せるシーンが少なくなるため、一撃で相手を倒すより手数やダメージの蓄積でのレフリーストップ勝ちが多い。そのため、テンポが速く回転が速い選手が多い。しかし、ひとつ上の階級のライトフライ級になると戦い方にも変化が出てくる。
ミニマム級は47.6kgに対してライトフライ級はそれより1.3kg重い48.9kgだ。(ちなみにボクシングはキログラムではなくポンドで計算されるため中途半端な数字となる)ライトフライになると、パワーや出入りを活かした戦い方が有利になる。まだまだ1発で倒すパンチを持つ選手は少ないが、ミニマム級よりKOが生まれやすくパワーを活かしやすい。このように軽量級はひとつ階級が変わるだけで、大きく戦い方が変わる。そのため選手はベスト体重で試合に臨むため、過酷な減量をして体を絞っていく。
驚きの京口紘人のパンチの破壊力
京口は最軽量級のミニマム級でありながら、11勝のうち8つのKO勝ちがある。これは軽量級の中では非常に高いKO率の部類に入る。ファイタースタイルでどんどん前にプレッシャーをかけていくボクシングスタイルだ。上下の打ち分けもうまく、特にフックやボディなどは非常に強く1発の破壊力がある。今回減量苦から階級を変えたが、それは正解だろう。まだ25歳と若く体も成長しているので、同じ階級にとどまり続けるのはキツイ。適切なタイミングで階級を変えたのではないだろうか。
私は京口を取材したことがあるが、その時にボディミットでパンチを受けた経験がある。その爆発的なパンチ力に大きな衝撃を受けた。特にボディやフックは重くて強い。キレよりは重さがあり体重がよく乗った強いパンチだ。ライトフライ級でも十分に通じるパンチ力を持っている。パンチ力だけなら更に上の階級のフライ級でも通じるだろう。
ボクサーのパンチ力は持って生まれた才能のようなものだ。いくら筋力をつけようが、打ちかたを工夫しようが限界がある。パンチ力だけは、鍛えたからつくものではない。体重の乗せ方だったり体の使い方は、その選手が独自に持っている特長だ。今回階級を上げた事で減量が楽になった分、持ち前のパワーもより活かせるだろう。
ブドラーとの試合展開
今回の京口の相手のブドラーは強敵だ。32勝のうち10のKO勝ちと、決してパワーがあるタイプではない。しかし、スピードと手数があり相手のタイミングを崩す変則的なリズムを持っている。見た目以上に独特のやりづらさがあるのだろう。前戦では田口の持ち味を殺し、捉えどころのないボクシングでポイントを奪っていった。下の階級のミニマム級時代では、5度防衛しておりスーパー王者にも認定されている。決して楽に勝てる相手ではないだろう。
展開としては、プレッシャーをかけて前に出ていく京口に対して、ブドラーがどう動いていくかが鍵になる。下の階級から上げた京口のパワーが、どこまで通じるかが勝負の分かれ道となるだろう。減量が楽になった事で、パワーが活かせれば面白い展開となる。勝敗の予想がつかずスリリングな展開となりそうだ。
ライトフライ級にはWBC王者の拳四朗もいる。今回拳四朗は30日に防衛戦を控えているが、両者が勝ち進めば統一戦も期待される。以前、京口にインタビューした時に「僕がこの階級でチャンピオンになれば、統一戦で必ずやると確信している」と言っていた。アマ時代に負け越している、拳四朗との対戦にも前向きだった。ライバル王者がいると、その階級は大いに活性化する。年末を軸に来年のボクシング界が動いていくため、非常に楽しみでもあり注目の一戦だ。