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ハリウッドのセクハラ:母校の作品撤去、表紙から削除。ジェームズ・フランコへの制裁と#MeTooの行方

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
先月セクハラ疑惑が浮上したジェームズ・フランコ(写真:Shutterstock/アフロ)

 現役のハリウッドスターで、大学教授。インディーズ映画の監督や脚本家も務め、短編小説も出版した。本業の演技でも、シリアスな映画でオスカーにノミネートされたかと思えば、親友セス・ローゲンと組んだ過激コメディで笑わせてもくれる。

 多くの才能を持ち、幅広い分野で活躍するジェームズ・フランコは、当然、母校パロ・アルト高校の誇りだった。彼にセクハラを受けたという女性が、複数、名乗り出るまでは。

 フランコのセクハラ疑惑が浮上したのは、先月7日のゴールデン・グローブ授賞式の夜。きっかけは、彼が反セクハラをうたう「#TimesUp」のバッジを胸につけて出席したことに反感をもった過去の被害者のツイートだ。その数日後には「Los Angeles Times」紙が、5人の被害女性の取材記事を掲載している。

 5人のうち4人は、フランコの生徒。そのひとりによると、彼の映画を撮影中に、「誰かトップレスになってくれるかな」と彼が言った時、誰も手を挙げず、彼が激怒したことがあるとのことだ。実力のせいでフランコに認められていたと思っていたが、「そうじゃなくて、単に私の胸が気に入られていたのだとわかった」と、その女性は語っている。別の女性は、性的なシーンを演じたり、トップレスになったりするのを嫌がらないならば、彼の映画で役がもらえるということをフランコはいつも示唆していたと語った。また、セックスシーンの撮影では、通常、ビニールで性器の部分を保護するのだが、撮影中、フランコは女優からそれを取り去ったとの証言も出ている。ソーシャルメディアにはまた、彼が17歳の少女をホテルの部屋に呼び出そうとしたという証言も出た。

 フランコはこの週、監督と主演を兼任した新作「The Disaster Artist」のプロモーションで複数の深夜トーク番組に出演したのだが、いずれの番組でも、これらの容疑をはっきりと否定している。しかし、この騒ぎの真っ最中に開催された放送映画批評家協会賞の授賞式は、どたんばで欠席した。先月末の映画俳優組合賞(SAG)授賞式には勇気を持って姿を現したものの、レッドカーペットでは、フランコの義理の妹(デイブ・フランコの妻)アリソン・ブリーがそのことについて質問されるという、気まずい状況が起こっている。

「Vanity Fair」とパロ・アルト高校の決断に、さまざまな意見

 そんな思わぬ事態を受けて、「Vanity Fair」誌は、毎年恒例のハリウッド特集号の表紙から、デジタル処理でフランコを消去するとの決断を下した。アニー・リーボヴィッツによるその写真には、ハリソン・フォード、リース・ウィザスプーン、ガル・ガドット、トム・ハンクスなどが並ぶ。フランコを消したのは彼のセクハラ疑惑が理由であると、同誌の代表は認めている。

 そして今週は、パロ・アルト高校が、校内にあったフランコによる壁画を撤去すると発表した。フランコは、ほかにも芸術作品をこの母校に寄付しているのだが、それらも返還される予定だという。同校の代表は、「私たちはいつも、生徒の肉体的、精神的健康を最大優先します。この決断も、私たちの教育使命のもと、生徒のためになされました」とコメントしている。

この表紙に、もともとはジェームズ・フランコも入っていた(vanityfair.com)
この表紙に、もともとはジェームズ・フランコも入っていた(vanityfair.com)

 ソーシャルメディアは、さまざまな意見で溢れている。

「Vanity Fair」に関しては、「フランコは、演技クラスだとか言って権力を悪用してきた。彼の映画はもう二度と見ない」「彼はこの処罰を受けるにふさわしい連続性犯罪者だ」という制裁賛成派もいれば、「せめて、フランコありのバージョンと、なしのバージョン、ふたつの表紙を作ったらよかったのに」という中立派もいる。同時に、「今やツイッターで有罪無罪が決まるようになったのか」「今のアメリカでは、本当にやったかどうかがわかるまでは有罪ということ」といった皮肉な声も聞かれる。パロ・アルト高校についても同様に、「彼は17歳の女の子にボーイフレンドがいるのかを聞いて、一緒に部屋を取ろうかと聞いたんだよ」と学校の決断を弁護するもの、「もともとあの壁画はひどかった。誰が描いたかに関係なく、あれを消してくれて嬉しい」という中立なものもあるが、最も目立つのは、「それをやるなら、過去にひどい行動をした著者の本や画家の作品を全部撤去ないといけないのでは?」「優れたアーティストはみんな完璧な人間だったのか?」といった、どこで線を引くべきなのかを問いかけるものだ。それはまさに、セクハラ暴露事件が展開してから、何度も聞かれてきた疑問である。

 さらに、「#MeTooは性犯罪の被害者を支援するためのものだったのに、偽善者に悪用されてしまっている」「次は、男を嫌う女と男が好きな女の闘いになるだろう」など、「#MeToo」「#TimesUp」の行方を危惧するコメントも見られた。これもまた、注目すべき論点である。実際、「#MeToo」運動を初期から支えてきた女性たちの間では、今、そんな不安が見え隠れするようになっているのだ。

ローズ・マッゴーワンは、「#MeToo」にとって最悪の顔?

「#MeToo」運動を最も引っ掻き回しているのは、ハーベイ・ワインスタインの暴露に大きな貢献をしたローズ・マッゴーワンである。1997年にワインスタインにレイプされ、10万ドルの口止め料をオファーされたマッゴーワンは、ワインスタインの一連の罪が発覚して以来、ワインスタインをかばってきたさまざまなセレブを名指しで攻撃してきた。そのほとんどは男性だが、昨年末、ゴールデン・グローブ授賞式で女性は全員黒を着ようということが一部の大物女優の間で決まると、マッゴーワンは「偽善だ」と同性の仲間たちを激しく批判。とくにワインスタインの映画で3度目のオスカーを取ったメリル・ストリープを強く非難したことから、ストリープは、公開状を通じてマッゴーワンに「話をしたいので、電話してください」とお願いをしている。

 以後、ふたりは和解したが、今度はテレビドラマの元共演者であるアリッサ・ミラノをバッシングした。ミラノは「#MeToo」運動が始まったばかりの頃からツイッターで大きく広めた人物だが、昨年末にはワインスタインの妻でファッションデザイナーのジョージナ・チャップマンをかばうような発言もしている。マッゴーワンはまた、ミラノの夫が大手タレントエージェンシーCAAのエージェントであることも指摘した。CAAが長年、ワインスタインが女優たちにどんなことをやっているのかを知っていながら、ワインスタインから仕事を切られることを恐れて何も対応を行わなかったことは、最近になって明らかになっている。そのことから、マッゴーワンは、CAAはワインスタインとグルだったと責め立てているのだ。

 しかし、それ以前に、マッゴーワンとミラノは、昔から仲が悪いという話。また、彼女の発言や行動が常識を逸していたり、怒りの矛先を時として一般人に向けたりすることが、彼女の人柄についてネガティブな印象を与えることも少なくない。

 彼女は先週、セクハラ、レイプ体験に関する自伝本「Brave」を出版し、同時に同じテーマのドキュメンタリー番組「Citizen Rose」も放映開始している。そのことからトーク番組に出たり、書店でサイン会を行ったりしているのだが、インタビューでの発言は、かなりはちゃめちゃである。ニューヨークのサイン会では、トランスジェンダーの女性客に、過去のトランスジェンダー差別発言を指摘され、怒鳴り合いとなる事件も起こった。途中、マッゴーワンは彼女にFワードを連発。このトランスジェンダー女性はワインスタインにお金をもらってやってきた"やらせ"だと断定し、以後のサイン会をすべてキャンセルした。だが、その証拠があるわけではなく、同じように性被害に遭っているトランスジェンダー女性を自分たちと別とみなす彼女は「#MeToo運動の顔として最低」という意見も聞かれる。

 それでも、彼女の勇気は誰もが認めるところだし、彼女がこの運動に大きな影響力を持ってきたことへの評価は揺るがない。彼女自身もそれを自負している上、先日のイベントでは「今は名前を明かさないけれど、私が15歳の時に肉体関係を持った、ハリウッドの超有名人がいる」と、これからもセクハラ男の公開処刑を行うつもりであることを示唆もした。彼女の闘いは、まだ終わっていないのである。

 それはつまり、試行錯誤したり、内部でぶつかり合ったりしながらも、「#MeToo」は続いていくということ。その過程では、今回のフランコの件がまた触れたように、「作品と制作者は分けて考えるべきなのか」という問題が、何度も浮上してくるだろう。実際、今も、ウディ・アレンの次回作「A Rainy Day in New York」の北米公開中止の可能性がささやかれたりしているのだ。これは本当に難しい問題で、どちらの側の意見にも正しいところはあるし、みんなが納得する答を見つけるのは、至難の技と思われる。それならばいっそ、答が出るまで、それら"問題の人々"の作品を一堂に集めた場所でも作ってはどうか。そうすれば、「同じような行動をしていたずっと昔のアーティストはどうなるのか」という問題も解決する。その結果、普通の美術館から作品がごっそり消えてしまったら、これまた問題だが。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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